第27話 難航

「オレがゾンビになったら許してくれますか!」

「あん?」


 リヴァイアさんが、前に出たリュリュを睨みんで訝しむ。


「この村の先祖が何をしてきたか、オレは洞窟の中で見た! オレはオレ達が起こした罪を知っている! だから……オレが責任をとります!」

「ウ、ウチも……!」


 飛び出そうとするミンミを、父親が止めようとした。

 だが、ミンミはそれを振り払うとリュリュの隣に並ぶ。


「ウチも一緒に責任をとります! ゾンビになって、ずっと洞窟で生きていく! い、嫌だけど……でも……やります! だから、村のことは許してください!」


 村を代表して、責任を取るということ?

 虎太郎と私は思わず顔を見合わせた、

 二人を黙ってゾンビにさせるわけにはいかない――。


「君ら……。村のために自分の身を投げ打って……泣けるやん」


 成り行きを見守りながらも、二人を守るために気を張っていたのだが、リヴァイアさんの顔つきが穏やかになった。


「しゃーないから許したる――」


 よかった……二人の気持ちに心を打たれて許し――。


「ってなるかボケェェェェ!!!!!」


 リヴァイアさんの怒号が響き、また地響きが起きた。

 ひえぇぇぇ……!


「なんで!? 今の許してくれる流れじゃないの……!」


 こんなときに乗りツッコミのようなことをするなんてはひどい!


「ド阿呆っ!!!!」


 文句を言う私に、リヴァイアさんが怒鳴る。

 一際大きな怒声に空気が震える。怖いよ~!

 ぎゃっ! ぐぉ! と芳三達もびっくりしている。怖いよねー!?


「こちとら村の連中のせいで、人生終わった人間がわんさかおるんや! 小娘と小僧が腐ったところで釣り合うかボケェェェェ!!!!」

「ご、ごもっともだけど……! リヴァイアさん!! 落ち着いて!!」


 皆が怯えているし、私もやっぱり超絶怖いです!

 平和的に解決したいけれど、リヴァイアさんが言っていることもよく分かる。

 どうしたら……と考えていたら、虎太郎がリヴァイアさんに呼びかけた。


「この村の先祖達は罪を犯しているけれど、今の人達はそれを知らないんだ! 精霊との約束を知らなくて、正義のためにやっていると思い込んでいて……! だから、少し話を……!」

「そんなん知るか!! こいつらだって、こっちの事情も知らんと洞窟にぶちこんできたやろが!!」


 リヴァイアさんは反論しながらダンダンッと地団太を踏む。

 その度に地響きが起きて、村人達が怯えている。


「ごめん……話し合いたかったんだけど、火に油を注いでしまって……」


 虎太郎が申し訳なさそうにしているが、みんなが怯えている中、話し合いを持ちかけてくれたのだから、ありがたいことだよ……!


「ううん、説得してくれてありがとう! もう誰が何を言ってもだめみたいだね……」


 実力行使で何とか鎮まって貰うしかないのか、と諦めかけたその時、一人のおじいさんが歩み出た。


「も、申し訳ない!! わ、わしはすべてを知っていました!!」


 怯えながらもリヴァイアサンにそう呼びかけたおじいさんは、過去で見たネズミの精霊達に交渉していておじさんにどこか似ていた。


「村の長になったとき、前任者から『真実』を受け継ぎました! ですから、今生きている中でもっとも罪が重いのはわしです!」


 ぷるぷると震えながらも、大きな声でそう話すおじいさんを、リヴァイアさんは思いきり睨んだ。


「だから何や! お前もゾンビになるっちゅーんか!? 小娘と小僧にじじいが増えたところで釣り合わん!!」


 リヴァイアさんの怒声に合わせて、ゾンビ達も不気味な雄たけびをあげる。

 うっ……と怖気づいてしまいそうになったけれど、私が花穂の檻を解いてしまうと大変なことになる。しっかりしないと……!

 村長だというおじいさんも、怯えながらもリヴァイアさんの説得を続ける。


「それは分かっております! ですから、我々は村を捨てます……お好きになさってください……」


 私は「住む場所はあきらめるけれど、人は見逃して欲しい」ということか、と冷静に話を聞いていた。

 だが、村人達は村長の言葉にギョッとした。


「村長! それだけは……! 代々守ってきた大事な土地です……!」

「この地で生きてきたことが、我らの誇りです! 村を捨てるくらいなら、ここで共に朽ち果てます!」


 人の命が助かるなら、生きていく場所が変わっても……と思ったのだが、村人達にとっては、『この場所』命と同じくらい大事なようだ。


 村人達の意見もまとまらないし、リヴァイアさんも許してくれそうにない……。

 その間にもゾンビ達の侵攻は進んでいるし、実力行使でリヴァイアさんを止めて、ゾンビ達も倒すしかないのかと諦めそうになった、その時——。

 虎徹が虎徹が前に出た。


「ガウッ」

「虎徹?」

「ガウガウッ!!」


 虎徹はリヴァイアさんに何か必死に呼び開けている。


「……許してやれ、って言うてるんか? わしもあんたらと同じで、湖で過去の出来事を見た。だから、守護獣のあんたから生まれた精霊が、どんな運命をたどったのかも知ってる。あんたはそっちにおるけど、ほんまに許せるんか?」


 リヴァイアさんの質問に、虎太郎はしばらく迷っていたが……。


「……ガウッ」


 決意したように吠えた虎徹が、虎太郎の方を見た。

 その直後、爽やかな緑色の風が虎太郎の体を包む。

 これは……ギフト?


「虎徹……これを使えばいいんだな?」


 ギフトを確認した虎太郎は、優しい顔で虎徹を見た。


「ガウッ」


 虎徹が頷いたのを見て、虎太郎が前に出る。


「な、何をするつもりや……」

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