第26話 説得
奥村くん! 早く帰って来て~! この視線には一人では耐えられない!
「人間、にんきもの」
「ちゅうもくのまと」
「あはは……」
謎に嬉しそうな精霊達と一緒に、村人達の視線に耐えながらしばらく守っていると、大きな姿の諭吉が戻って来た。
奥村君の姿はなく、背中に村人達を乗せている。
その内の一人の女性が、興奮した様子で私に話し掛けてきた。
「聖女様!」
「違います!」
「勇者様に助けて頂きました! 聖女様もいらっしゃるなんて感激です……!」
「だから! 違うんです~!」
目を輝かせる女性の後ろでは、残りの人達が精霊を見て興奮したり、「聖女様がいるから安心だ!」と騒いでいる。
あなた達、私の言うことを全然聞いてくれませんね!?
「奥村く~~ん! 本当に早く戻って来て~!」
私は貝……私は貝……カキフライ食べたい……。
一瞬邪念が混じったけれど、心を無にして必死に魔法を維持していると、待ち望んでいた姿が見えた。
「奥村君! 虎徹!」
「一色さん! ただいま」
「ガウッ!」
「うわ~ん! 超待ってたよ~! おかえり〜!」
虎徹の背中には、虎太郎だけではなく村の人達も数人乗っていた。
その中には、リュリュとミンミの姿もある。
そして、リュリュの腕には、白い羽に赤いトサカのニワトリがいた。
「この子がコッコか」と見ていたら、虎徹の背から下りたリュリュが、私の両側を見て固まっていた。
「せ、精霊!? やっぱり、あんた達が勇者様と聖女様なんだな……」
その呟きを聞いて、同じように背中から下りて来たおじさんがリュリュに詰め寄った。
「お前達は、まったく! 勇者様と聖女様に迷惑をかけるなんて……! 守護獣様の審判にかけているのを見て、本当に肝が冷えたぞ……」
あ、この人は洞窟に入れられる直前に見た父親だ。
前にミンミがポータルのように光っている頭、と言っていたが、今は花穂の檻の光で更にポータルのように輝いている。
緊迫した場面なのに気が緩んじゃう……!
駄目だと気を引き締めていると、リュリュが父親と話し始めた。
「父さんはこの人達が勇者様と聖女様だって知っていたのか?」
「……お前達は、精霊鏡が映し出したものを途中までしか見ていなかったな。このお二人が勇者様と聖女様だったんだ。そして、一緒にいるのが守護獣様方だ」
リュリュとミンミが、改めて驚いているが……虎太郎と私は条件反射でいつものセリフが出た。
「僕は勇者じゃない方です」
「私は聖女じゃない方です」
「ぎゃ」
「ぐお!」
芳三と諭吉まで同調するように鳴いたが、君達は正真正銘守護獣でしょ!
「そんなわけないだろ! なんで言ってくれなかったんだ!」
リュリュが抗議してきたが、ミンミがそれを止めた。
「リュリュ! 思い起こせば、二人は最初からすごかったじゃない! 気づかなかったウチらがポンコツだったのよ!
「うっ!」
ミンミの言葉に、リュリュがダメージを受けている。
「そんなことより、いっぱい失礼なことしちゃったじゃない! 謝らないと……!」
ミンミの言葉に、父親はうんうんと頷いている。
「こいつらが迷惑をかけてしまって、本当にすみませんでした」
「ごめんなさい……!」
父親とミンミが頭を下げてくれた。
それを見ていたリュリュも、少しすると謝った。
「……すみませんでした」
「えっと、あの……」
私は聖女じゃないから、謝らなくてもいいんだけどな?
でも、虎太郎に対しては謝ってくれて嬉しい。
それをどう伝えようかと思っていたら、虎太郎が微笑んだ。
「別に気にしてないよ。僕も冷たくしちゃったし……。ごめんね」
「え! 奥村君が冷たく!? そんなことあった!?」
洞窟に入ってからのことを思い起こしてみたけれど、そんなことはなかった。
奥村君といえば、「優しい」「温かい」というワードが浮かぶくらいだ。
芳三も「ぎゃ?」と首を傾げている。
「一色さんを探しているときにね。ちょっと冷静にいられなくなって……」
虎太郎が照れたような苦笑いで説明してくれたが、それって……私がいなくなって焦ったということ?
あ、私だけじゃなく諭吉もいるし、仲間がいなくなったら、それは焦るよね!
「そ、そうなんだ……!」
一瞬自意識過剰な勘違いをしそうになってしまった。
「ガルッ!」
恥ずかしいのを誤魔化して笑っていたが、虎徹の声でハッとした。
のんびり話している場合じゃなかった!
虎太郎と改めて周囲を見渡す。
「一色さんが防いでくれているけれど……。かなりゾンビ達が集まってきちゃったね」
「そうだね……」
虎太郎は千里眼で確認していると思うが、私の目にもゾンビ達の姿が多く確認できた。
村を守るためにはゾンビを排除しなければいけないが、このゾンビ達の中には罪のない冒険者達もいると思うと……倒すのは忍びない。
虎太郎もそう思っているようで、どうするか迷っている。
「金脈!!!!」
良い手段がないか考えていると、私を呼ぶ声が聞こえた。
私を金脈と呼ぶ人はひとりしかいない。
「え……リヴァイアさん!?」
声はどこから? と思ったら、リヴァイアさんはこちらに押し寄せているゾンビ達の中にいた。
「危ない! ゾンビに噛まれちゃうよ!?」
「一回噛まれたからか、敵視されてないから大丈夫や!」
確かにリヴァイアさんの周りにはゾンビがたくさんいるのに、まったくターゲットにされていない。
むしろ仲間! という感じが出ている。
だから、リヴァイアさんにゾンビ達を洞窟に戻るよう誘導して貰えないだろうかと考えていると、驚くことを言われた。
「……というか、わしはゾンビの味方や! だからこの村に復讐する!」
「ええええ!!!?」
私の隣で、虎太郎や芳三達も驚いている。
「ゾンビどもと一緒に無念を晴らしたるわ! わしの美貌を返せ!!!!」
「なんでそうなるの!? リヴァイアさん、落ち着いて……!」
「落ち着いていられるか! わしを洞窟に入れたのは村の奴や! 何が罪人や! わしほど清廉な人魚はおらんっちゅーのに!」
「でも、ポータルのパーツは盗もうとしたのでは……」
「ああん!!!?」
「なんでもないです!」
なんとか説得したいけれど、完全に怒っているようだ。
どうしよう!
もう一度気絶して頂いて、その間にゾンビをなんとかするしかないだろうか。
でも、できるだけ手荒なことはせずに解決したい……。
「ねえ! リヴァイアさんの美貌については何とかできるように頑張ってみるから! っていうか、今の姿も素敵だよ! 超かっこいい!! 竜の神様がって感じ!!」
「…………。……ほんまか?」
リヴァイアさんがまとっている怒りのオーラが和らいだ。
褒めてなんとか切り抜けよう作戦、いけるかも!?
『みんな、リヴァイアさんを褒めて!』
私は近くにいる仲間に、こっそりそう伝えた。
「ぎゃぎゃ! ぎゃ〜!」
「ぐおぐお!」
「ガル〜ッ!」
「何言うてるか分からんて」
芳三達が一生懸命褒めてくれているが、残念ながらリヴァイアさんには伝わらず……!
「そういえば、勇者の兄ちゃん。わしが元の姿に戻らんことに心当たりがあるみたいやったな。教えてくれ」
「! それは……ええっと……」
虎太郎が今言うべきか、とても迷っている様子だ。
あまり良いお知らせではないのだろうか。
少しすると虎太郎はリヴァイアさんの圧に負けて、情報を話し始めた。
「あなたを鑑定したら、進化してオリジンリヴァイアサンという種族になっていました」
「オリジンリヴァイアサン……。わしらの始祖やな! 『海に敵なし』と言われた始祖様と同じ存在に進化したってことは、わしは海で最強になったってことや!!」
「え! すごい! めちゃくちゃかっこいいです!!」
「ぎゃ!!」
「ぐお!!」
「ガオッ!」
みんなでさらに褒めていると、リヴァイアさんの機嫌がとてもよくなってきた。
これならゾンビ達のこともなんとかしてくれるかも? と思っていたのだが……。
「うん? でも、人魚は進化の過程で生まれた種族やぞ? ……ということは、わしは元の姿に…………戻れんやんけ!!!!」
「……やっぱり気づくよね」と虎太郎が気まずそうにしている。
「許さんからな!! クソッタレ!!」
リヴァイアさんの怒りの咆哮で地響きが起きた。まずい!
建物にも影響が出たし、村人達が悲鳴をあげて怯えている。
「姿が戻らなくなったのは、私の薬のせいだから! 村には何もしないで!」
「それは違うぞ! 洞窟に閉じ込められなかったら、ゾンビに噛まれることはなかったからな! やっぱり村の人間のせいや!」
再びの咆哮に、村人達はますます怯える。
「お前らが強欲なせいで精霊は穢れた! 同族である罪のない他の人間も犠牲にできるなんて、お前らは心が魔物や!」
「ど、どういうこと!?」
事情を知らない村人達が、リヴァイアさんの叫びに混乱している。
洞窟に入る前のリュリュやミンミのように、みんなは自分達は守護獣の加護を貰っている正義の民だと思っているのだから、何のことかさっぱり分からないだろう。
でも、今は説明している余裕はない。
リヴァイアさんを何とか説得しようと思っていたら、リュリュが一歩前に出た。
「オレがゾンビになったら許してくれますか!」
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