第23話 治療
結晶化している虎徹が無理やり動こうとしている。
そういえば、子猫の方の虎徹がどこにもいない……。
小さな体では大きなネズミを助けられなかったから、本体の方で助けようとしているのかも……!
「虎徹! 動いちゃだめだよ! 体が割れちゃう!」
「ぎゃー!!」
「ぐおおっ!!」
芳三と諭吉と共に叫んだが、虎徹が止まることはない。
パリンッという割れる音が響き続ける。
「一色さん、行こう! 諭吉と芳三は、水の中のネズミを助けてあげて!」
「ぎゃ!」
「ぐおおっ!」
「え、奥村君!? うわあっ!」
虎太郎に抱えられ、驚いている内に諭吉の甲羅から離れることに……。
残されたリュリュとミンミが戸惑っているが、芳三と諭吉がいるから大丈夫だろう。
「いきなりでごめん。でも、結晶化を治せるのは僕達だけだと思うから」
「! そうだね!」
確かに、青白結晶を作ることができるのは私達だけだ。
ジャンプで一気に虎徹がいる小島まで向かいながら説明してくれた虎太郎に頷いた。
「虎徹!」
あっという間に虎徹の目も前まで来ることができた。
間近で見ると、結晶化している虎徹の体に大きなヒビが入っているのが見えた。
このままでは、虎徹の体がバラバラになってしまう……!
「虎徹、動くな! ネズミは芳三と諭吉が連れて来てくれるから!」
虎太郎が声をかけるが、体が割れていく恐ろしい音は響き続けている。
混乱状態なのか、私達の声が届いている様子はない。
「早く結晶化を治さないと……!」
治すためには青白結晶を食べて貰わないといけない。
とりあえず手にいくつか出してみたけれど……。
「これ、どうやって食べて貰ったら……」
今は小さな虎徹は見当たらないし、本体の口元は結晶化していて食べさせることはできない。
「ひび割れたところから吸収したりしてくれないかな!?」
祈るような気持ちで割れ目に入れてみたのだが……何も変化は起こらなかった。
「奥村君、どうしよう!?」
「……憶測だけど、青白結晶は僕達の魔力の塊だから、結晶化の治療に効いているのは僕達の魔力だと思うんだ。だから、結晶を作るときのような感覚で、虎徹に直接魔力を送ったら――。……迷っている時間はないから、やってみよう」
「う、うん!」
虎太郎に促され、並んで結晶化した虎徹の体に触れる。
「僕が虎徹の体の中に魔力を送って見るから、一色さんも同じようにやってみて」
虎太郎はそう言うと目を閉じ、虎徹の体に魔力を送り始めた。
私もやらなきゃ……でも……。
いつも虎太郎の結晶というベースがないと、私は結晶作りに失敗してしまう。
一人で一から作ることができないのに、上手くやれるだろうか……。
不安を感じながらやってみたが……やっぱり、虎太郎のようにうまくいかなかった。
「ど、どうしよう……」
虎徹を助けたいのに!
気持ちが焦ってパニックになりそうだったが……。
「一色さん」
「!」
そんな私の手の上に、虎太郎が手を重ねてくれた。
「奥村君……」
「大丈夫、僕の魔力は分かるよね? 青白結晶を作っているときのようにやってみて」
「う、うん……」
虎太郎が手を重ねてくれたことで、よりはっきり虎太郎の魔力が分かった。
暖かくて優しい、虎太郎のような魔力を感じて、段々気持ちが落ち着いてきた。
私も虎太郎のように目を閉じ、もっと集中する。
青白結晶を作っている時のように……虎太郎の魔力を目印にして……。
上手くできているかは分からないが、慎重に魔力を流し続けた。
すると……響き続けていた割れる音が減っていった。
「……うん、効果があったね。少しずつだけど治っている」
虎太郎の言葉を聞いて、魔力を流しながらも目を開けると、確かに結晶化している部分に回復傾向が見られた。
「虎徹も落ち着いてきたみたいだ」
そう言われて虎徹を見ると、無理やり動こうとしていた様子もなくなっていた。
「よかった……」
「ただ、治療は急いだほうがいい。首のところが……」
「!」
虎太郎の視線を追って見ると、虎徹の首回りに大きなヒビが入っていた。
完全に亀裂が入ってしまうと、首と胴体が離れてしまう!
いくら守護獣でも、首が落ちてしまえば無事ではいられないかもしれない。
再び虎太郎と共に、慎重に魔力を流し始めた。
「ぐおおおおっ!」
「諭吉!」
威勢のいい鳴き声に振り向くと、勢いよく水しぶきを飛ばして、諭吉が小島までやってきた。
その背中には、水中にいた大きな黒いネズミがいる。
無事に芳三と諭吉で助けてくれたようだ。
声は聞こえないが、虎徹が喜んでいる気配を感じる。
「こ、甲羅から何度も落ちそうになった……ゾンビに足引っ張られた……」
「でっかいネズミが近くて怖いんだけど〜!」
リュリュとミンミの顔が真っ青になっているが、今は構っていられないのでごめん。
大きな黒いネズミも、水中から上げることはできたが回復している様子はない。
まだ方法は分からないけれど、なんとか助けてあげないと……!
「ア“ア”―ッ!!」
「!」
不気味な叫び声が響き、体がビクッとした。
さっきまで小島の方には見向きもしていなかったゾンビ達が、こちらに向かって一斉に押し寄せて来ていた。
やはり冒険者だったゾンビ達は、リュリュとミンミを狙っている……!
冒険者達の『怨み』が二人に向く理由は、さっき見た過去で分かったが……。
「ひいいっ! ゾンビッ! ウチらのご先祖様がごめんなさいー! 許してよ〜!」
「オ、オレ達は何も知らなかったんだよ! 言われたことをやってただけなんだから、仕方ないだろ!」
二人の言葉が届くわけもなく、ゾンビ達は止まらない。
そういえば、意識がこちらに戻ってきてから、『花穂の檻』が途切れてしまっていた。
このままだとゾンビ達が来てしまうが、今は虎徹の回復に集中しているから、魔法を使っている余裕がない……!
「ぐおおおおっ!!!!」
「ぎゃー!!」
背中にいるネズミを下ろすと、諭吉と芳三が勇ましい咆哮を上げた。
すると、こちらに向かっていたゾンビ達の動きが止まった。
「ぐお!」
「ぎゃ!」
諭吉と芳三が、こちらを見て「任せろ!」と言っているような凛々しい顔をしている。
「さすが芳三と諭吉、頼りになるな」
「そうだね! さすが守護獣!」
「…………は?」
「守護獣?」
リュリュとミンミが不思議そうな顔をしている。
あ……二人はまだ分かっていなかったんだった。
でも、今起きていることを乗り切ったら、自然と分かるだろう。
「チュウ」
「? 君は……」
再び虎徹に魔力に送る作業に集中しようとしていると、浄化されて綺麗に戻ったネズミが私の足元にいた。
ネズミは、さきほど私が落としてしまったのか、地面に落ちていた青白結晶をジーッと見ていた。
何か気になるのだろうか?
「あ」
ネズミは青白結晶を咥えると、横たわっている黒い大きなネズミに突進していった。
「君! …………あっ」
綺麗なネズミは黒い大きなネズミの体にぶつかっても跳ね返ることなく、スッとその中に消えていった。
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