第24話 役目
「今のは……融合したのか?」
虎太郎も見ていたようで驚いている。
「あの子、消えちゃったの!? ……あ」
突然、黒い大きなネズミの体が、淡い光を放ち始めた。
「あれ……回復している? それに綺麗になったような……」
「え、本当!?」
虎太郎の言葉に驚いてネズミの体を見てみると、僅かだが黒が薄くなったように見えた。
それに、ぐったりしていたネズミが、ゆっくりと体を起こして動き始めた。
「少し治ったみたいだね!? でも、どうしてだろう?」
「青白結晶が効いたのかな? 小さいネズミは、青白結晶で浄化できることが分かったから、落ちていたのを拾って大きい方に取り込ませた、とか……」
確かに、綺麗なネズミは落ちた青白結晶を気にしていた。
青白結晶は守護獣の結晶化を治すことができたし、精霊にも効果があっても不思議じゃない。
「青白結晶で治るのなら……。奥村君、私が持っているのをこの子に全部あげてもいいかな!?」
「もちろん。効果があるようなら、僕が持っているものも出すよ」
虎太郎の許可を得たので、サッと青白結晶を取り出し、ネズミの前に山盛りにした。
すると、ネズミは私の意図が分かったのか、もぐもぐと山盛りの青白結晶を食べ始めた。
元気になって自我も取り戻し、結晶化が治った虎徹と楽しい時間を過ごして欲しい
そう祈っていると、ネズミを包んでいた淡い光が強くなり、どんどん「黒」が薄くなっていった。
「わあ……」
精霊が浄化されていく、その光景がとても綺麗で、私と虎太郎は思わず見惚れてしまった。
リュリュとミンミも息を呑んでいる。
少しすると、真っ暗で不気味だった大きなネズミは、澄んだ透明の体を持つ神秘的な姿に戻っていた。
『――守護獣様』
「!」
頭の中に、過去を見た時に聞いたネズミの声が響いた。
意思を感じるはっきりとした声だった。
「自我も戻ったみたいだね」
「うん!!!!」
嬉しくてつい思わず大きな声で返事をしてしまった。
恥ずかしかったが、虎太郎も嬉しそうな顔をしていたので、私達は「よかったね」と微笑み合った。
『守護獣様……守護獣様……』
ネズミはゆっくりと歩き出し、虎徹の正面で止まった。
本来の姿を取り戻した大きなネズミは、キラキラと輝く水の体がとても美しい。
守護獣である虎徹と向き合っている光景はとても幻想的だ。
『勇者、聖女、来た。守護獣様、さみしくない』
そう言うネズミは、とても嬉しそうに見えた。
ネズミの虎徹への思いが伝わってくる。
本当に虎徹のことを大切に思っているんだなあ。
虎徹のことは私達が助けるから、自由になったら、今までできなかったことをたくさんして欲しい。
お日様の下を一緒に走ったり、美味しいものを食べたり……。
ネズミも私達と一緒に旅をしてくれたらいいな。
そのためには、早く虎徹を助けないと!
「勇者?」
「聖女?」
リュリュとミンミがまた不思議そうな顔をした。
「さっきも『守護獣』と言っていたな。もしかして……」
顔を顰め、混乱している様子のリュリュがちらりと私達を見た。
その横で、ミンミが「ハッ」と息をのんだ。
「リュリュ! もしかして……ウチって聖女だった!?」
「そんなわけないだろ! どう考えてもあっちだろ!」
「え? ……ハナ? 聖女様のお友達だけど……聖女じゃない方なんでしょ?」
リュリュが私を指差して来たが、人を指差してはいけません。
でも、確かに私は「聖女じゃない方」です。
そう伝えようと思っていたら、ネズミの声がまた聞こえて来た。
『我らの役目、これが最後――』
最後?
どういう意味か分からないが……嫌な予感がする。
何かしようとしているネズミを止めないと!
そう思ったが……。
「え?」
ネズミの体が突然変化し、大きな水の塊になった。
少しの間、宙に浮いてゆらゆらと揺れていたが、やがて散り散りになり――。
結晶化した虎徹のヒビの中に消えて行った。
「な、何が起きたの!?」
「分からない……」
みんなで呆然としていると、今度は虎徹の体が光り始めた。
そして、結晶化がみるみる回復し始めた。
ヒビになっていたところの傷も癒えて――。
「虎徹……治った?」
あっという間に、本来の『守護獣』としての虎徹の姿に戻っていた。
とても喜ばしいことなのだが……。
あまりにも急展開で、頭がついていかない!
「ガル……」
虎徹も結晶化が治ってもう動くことができるのに、ネズミがいたところを見て呆然としている。
「大きなネズミの子はどこに……?」
「…………。虎徹のために、青白結晶を取りこんだ体を使ったのかもしれない」
「使った? それって……」
自分を虎徹を治すための薬にしたということ?
そうだとしたら……。
「もう、あの子には会えないの?」
「……分からない。でも、虎徹の中ではきっと――」
「……ガルルッ」
喉が鳴るような音がして虎徹を見ると、ネズミがいたところを見て泣いていた。
綺麗な目から、ポタポタと大きな雫がこぼれ落ちている。
「……ガウッ……」
かっこよくて美しい白虎のような虎徹の背中が、とても寂しそうに見えた。
「…………っ! 虎徹!」
思わず駆け寄り、大きな体に抱きついた。
「ごめんね、あの子を助けてあげられなくて……!」
私が強く抱きしめている間も、虎徹は涙を流し続けている。
「……ぎゃ!」
「……ぐお!」
芳三と諭吉は「泣くな!」と叱咤激励しているようだが、その目には涙が滲んでいた。
同じ守護獣だからこそ、私たちよりも虎徹の気持ちが分かるのかもしれない。
芳三と諭吉も、私と一緒に虎徹を抱きしめるようにピタッとくっついてきた。
みんなでくっついて泣いていると、虎太郎が虎徹の前に立ち、大きな頭を優しく撫でた。
「……虎徹。あの子達は、きっと虎徹の中で生きているよ。涙から生まれた子達だから、また会えるかもしれない。……ほら、虎徹は泣き虫だからね」
からかうようにそう言う虎太郎も、泣き笑いのような顔をしていた。
「……ガウッ」
虎徹は「泣き虫」という言葉に反論したかったのか、虎太郎に頭を擦りつけている。
怒っている風にも見えるが、甘えているようだ。
「あの子達が治してくれた体を、大事にしなきゃね」
「……ガルルッ」
虎太郎にいっぱい撫でて貰い、虎徹も少し落ち着いてきたようだ。
よかった、と思っていたら……。
――ドオオオオオオンッ
「!!!?」
突然、大きな地響きがした。
「今度は何!? 地震……!?」
天井からパラパラと石が落ち、水面に落ちていく。
でも、地響きはすぐに収まったのでホッとしていたら、ゾンビ達がなぜか一斉に動き始めた。
「ア"ァァ……」
私達を無視して、揃ってどこかに向かっていく――。
不思議に思っていたら、虎太郎が声を上げた。
「まずい! 出口を閉じていたネズミ達が消えて、外に出られるようになったんだ!」
……ということは、ゾンビ達は外に出ようとしている!?
そうなると、被害が出そうなのは……。
「洞窟の近くには、オレ達の村があるぞ!?」
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