第8話 新発見

 迫り来るネズミの大群に悲鳴を上げていると、背後から何かが「シュンッ」と風を起こして飛んでいった。

 それは二人の横も通り過ぎ、ネズミの大群の先頭に飛び込むと、周囲のネズミを吹っ飛ばした。


「あれは……奥村君の剣!」


 地面に突き刺さっていたのは、虎太郎が守護獣と戦っている時に使っていた大剣だった。

 反対方向にいる虎太郎が剣を投げ、手助けしてくれたようだ。


「一色さん! 僕はいいから、二人を入れて『花穂の檻』を……!」

「あ、うんっ!!」


 ネズミの大群に気圧されている場合じゃなかった。

 虎太郎の指示の通り魔法を使おうとしたが――。


「うわっ!? ……ぐっ!!」

「リュリュ!?」


 男の子が岩場に足を取られ、派手に転んでしまった。

 それを見た女の子も足を止める。

 そんな二人に、残りの大群が飛び掛かる。

 まずい、一部のネズミも魔法の中に入ってしまうかも……!


「ぐお!」


 今、魔法を使うべきか躊躇っていると、諭吉が黒い蛇を伸ばし二人を捕まえた。


「な、なんだ!?」

「何よこれ!」


 突然現れた黒い蛇に驚き、抵抗しようとしているが、諭吉は問答無用で二人を連れて来てくれた。

 オマケに虎太郎の大剣までしっかりと回収してくれている。すごい!

 これで心置きなく魔法を使える。


「ありがとう、諭吉! 『花穂の檻』」


 私達の周りに蔦の守りが現れた。

 いつもと違い精霊の二人は現れなかったが、機能的には問題なさそうだ。


「これは……」


 まだ諭吉の蛇に吊られた状態の二人が、私達を守る『花穂の檻』を見ていた。

 転んだ時の怪我など、多少軽度の傷はあるようだが、無事な様なので安心した。


「―― ―― ――」


 ネズミの大群は手を出せないと悟ったのか、段々動きが止まっていった。

 そして、完全に停止すると、幽霊のようにスッと消えていった。


「消えた……わあっ!」


 諭吉の黒い蛇が、甲羅の上にぽとりと二人を落とした。

 二人は何が起こっているのか、頭が追い付いていない様子で呆然としている。


「二人とも、大きな怪我はないようでよかったです」


 そう話し掛けながら、『聖なる水の癒し』で小さな怪我も治してあげた。


「あ……。ありがとう」

「…………」


 女の子が、諭吉の蛇を警戒しながらもお礼を言ってくれた。

 男の子の方は、まだ戸惑っている様子だ。


 とにかく、二人の安全は確保されたので虎太郎の方を見る。

 大丈夫かな……と思ったが、心配はいらなかった。

 ちょうど魚の魔物を倒し終えたところの虎太郎と目が合う。


「奥村君、こっちも大丈夫だよ!」


 大きく手を振ると、虎太郎もすぐにこちらに戻って来た。


「何もなくてよかった。でも、ごめんね。あっちも片付けておいた方が良さそうだったから、対応できなくて……」

「ううん、最初にちゃんと助けてくれたから大丈夫だったよ」

「ぎゃ!」

「にゃ!」


 私がサムズアップすると、芳三と虎徹も真似をするように前足をあげた。

 芳三と虎徹がいて心強かったし、諭吉は二人を連れて来てくれたし、皆で頑張ったよね!

 何とかなったが、虎太郎と「ちょっと焦ったね」と笑い合って一息ついたところで、救出した二人に体を向けた。


「どうしてネズミに追いかけられていたんですか?」


 虎太郎の質問に、女の子が暗い顔をした。


「ウチらが進んだところは行き止まりで……最初の地点に戻ったら、どんどんさっきの不気味なネズミが湧いて来て……」

「…………あ」


 女の子の話を聞いていると、男の子の背中にいたネズミのことを思い出した。

 今もいるのかな? と覗いてみたら、一匹もいなくなっていた。

 虎太郎も同じことを考えていたようで、男の子の背中を見ていた。

「あのネズミはどこに行ったのだろう?」という意味を込めて首を傾げると、虎太郎も首を傾げた。

 大群のネズミとまったく同じだったから、何か理由があるのだと思うが……。


「……とにかく、一緒に行動した方がいいと思うけれど……」


 虎太郎が二人に話し掛ける。


「そうね……あなた達、悪人じゃなさそうだし……。ね?」

「……ふんっ」


 女の子が男の子に確認しているが、不服そう……。

 でも、拒否はしていないから了承を取ったと判断したのか、女の子は私達に挨拶をしてくれた。


「助けてくれてありがとう! ウチはミンミ。こっちは弟のリュリュ」


 感じが悪い男の子だが、名前は可愛い! と驚きながら、私達も名乗る。


「奥村虎太郎です」

「私は一色波花です」

「ぎゃ!」

「にゃ!」

「ぐおおっ!」


 私達に続いて自己紹介をする芳三達が可愛くて、虎太郎と私はニコニコしていたのだが、ミンミとリュリュは何か考え込んでいた。


「コタロウ……ハナ……?」

「どこかで聞いたことがあるような……」

「!」


 そうだ……勇者と聖女に憧れている二人には、私達が「勇者と聖女が探していた友人」だとバレないようにした方がいいんだった!

 どうか気づかれませんように! と思ったのだが……。


「あっ!! お前達は、勇者様と聖女様が探していた友人だな!?」


 私の思考は、どうやらフラグになってしまったようだ。


「ウチらとは雰囲気が違うから、どこの地域の人だろうと思っていたけれど……異世界人だったのね」

「異世界の一般人、勇者様と聖女様じゃない方か」

「「あ、はい」」


 男の子の呟きに、虎太郎と私はすぐに返事をした。

 知らないフリをしてもよかったのだが、「異世界の一般人」という正しい表現に思わず反応してしまったのだ。

「異世界の平民」と言われると、城にいた頃を思い出して多少嫌な気分なるけれど、一般人やじゃない方と言われるとその通りなのでスッと頷いてしまう。


「お前達はどうして、こんなところをうろついているんだ!? 勇者様と聖女様に心配をかけていないで早く帰れ!」


 帰れと言われても、私達をここに入れたのはあなたですが!


 ……というか、今嫌なことを思い出した。

 中学生の頃、部活で帰宅が遅くなっているのに、寄り道して遊んでいると決めつけてきて、「遊びたい気持ちも分かるけど」と理解ある大人風に注意してきた近所のおじさんがいたのだ。

 あのおじさんと同じくらい面倒くさいよ〜!

 悪い人じゃないんだけれど、話を聞いてくれないのが嫌だったなあ……って、そんなことを考えている場合じゃなかった。

 どう説明するか考えていると、虎太郎が口を開いた。


「それについては解決したっていうか……もう別々に行動することになっていて……」

「うんうん!」


 虎太郎の言葉に同意して大きく頷く。

 だが、私達の言葉は、二人の耳には入っていないようで……。


「友人だからといって、お二人を困らせるなんて……何を考えているのだ。力になれなくても、せめて迷惑をかけないようにしないと!」

「そうだよ? さっき見せてくれた力があったら、お手伝いもできるでしょ?」

「「…………」」


 おっふ……。

 虎太郎と私は、何とも言えない表情になった。

 説明しても聞いてくれないだろうし、スルーしておけばいいか……。

 そう思ってやり過ごそうとしたのだが――。


「ぐお!」

「うわっ!」

「何!?」


 諭吉の蛇が、再び二人を掴んで宙づりにした。

 突然どうしたのだろう……。


「諭吉?」

「ぎゃ! ぎゃ!」

「にゃー!」


 芳三と虎徹が、宙ぶらりんになっている二人に向かって何やら説教を始めた。


「ええ!? 何なの!?」

「何だ!? 離せ!」

「ぎゃ!」

「にゃ!」


 怒る二人に、芳三は青い火球を放った。


「え!? 芳三!?」

「わっ!?」

「きゃー!」


 二人は反射神経が良いようで、芳三の火球を見事に避けた。

 だが、芳三に続いて虎徹が「シャーッ」と爪でひっかく仕草をすると、三日月型の風が二人を襲った。


「!? やめて~!」

「うわあっ!」


 虎徹の風も、二人は見事に避けた。

 芳三の火球と虎徹の風は、当たっても怪我にはならない程度のものだが……すごく早い!

 私なら全部当たってる……全回避している二人はすごい!

 でも、それより気になったのは……。


「虎徹、そんなことができるの!?」

「すごいな。風の爪か、かっこいいな」

「にゃ!」


 驚く虎太郎と私に、虎徹は誇らしげにしている。


「のんびり眺めてないで止めてよ〜!」

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