第41話 次の冒険へ――

「それで撮影して、国中に放送しているってこと?」

「そうですね。ここに来てから、割とすぐ……そして、現在進行中です」

「「!」」


 私と虎太郎は瞬時にアリエンの背中に隠れた。

 見切れてしまうけれど、目に入った隠れ場がここしかなかったのだ。

 芳三と諭吉が「ぎゃ!」「ぐぉ!」と楽しそうにしているけれど、遊びじゃないから!


「えっ!? 勇者様!? 聖女様!?」

「勇者じゃないです……」

「聖女じゃないです……」


 虎太郎と同時に即答したあと、口から魂を吐いているようなため息が出た。


「「終わった……」」


 叫んだり、大泣きしたり……それを国中の人に見られていたなんて……!

 日本で言うと全国生中継されていたようなものだ。

 今からでも私にモザイク処理をして貰えないだろうか!

 虎太郎はずっとかっこよかったと思うけれど、目立つことが苦手だから、きっと私と同じ気持ちだろう。


「ツバメさん、早く撮影を止めて!!」

「どうしてこんなことを……」


 叫ぶ私の隣で、虎太郎が今にも灰になりそうだ……。


「すみません……また事実とは異なる内容が国に広がってしまうのかと思うと、体が勝手に動いておりまして……」


 おかしいですね……と首を傾げているが、絶対に意志的にやっているでしょう!

 確かにまた光輝が「俺が守護獣を救いました!」なんて言い始めたら、今度こそリアル泥団子投げは確定だけれど……。

 でも、私達のダメージも大き過ぎる!


「ははっ、勇者様、聖女様。今更隠れても無駄なんじゃないですかね。俺はお二人の勇姿をたくさんの人が見ていたと思うと嬉しいですよ!」


 アリエンが背中に隠れている私達に向けて声をかけてくるが、壁でいて欲しいので前を向いていてください。


「だから……勇者じゃないです」

「聖女じゃないです……」

「それは無理がありますって!」


 そう笑うアリエンだったが、諭吉に目をやると優しい表情になった。


「俺は……大切な守り神様を救ってくださったのが誰か、何が起こったのか……捻じ曲げられることなく、ありのままに伝わって嬉しいですよ」

「ぐぉ」

「そうですよね、守り神様」


 アリエンと諭吉が見つめ合って頷いている。


「ぎゃ!」


 私の肩にいる芳三も、アリエンと諭吉に同調するように鳴いた。

 確かにいい面もあるけれど…………でも。そんなことを考える余裕がないくらい恥ずかしいから、やっぱり無理~!!


「返して!」


 樹里がツバメから、強引に精霊鏡を取り返した。

 使用方法も知っているようで撮影を止めたようだ。

 ひとまずよかった……。

 私と虎太郎はホッと胸を撫で下ろした。


「何てことするのよ!」

「お前、どう落とし前つけてくれるんだ?」


 樹里に続き、光輝もツバメに詰め寄って行く。

 二人を止めようと飛び出そうとしたら、すでに虎太郎がツバメと二人の間に入っていた。

 無言で見つめる虎太郎に、光輝は怯んでいる。

 もう実力で虎太郎に勝てないことははっきり分かっているだろう。

 だが、光輝は虎太郎に負けることはプライドが許さないのか食って掛かった。


「どけよ! 俺はそいつに用があるんだよ」

「どかない。大人しく帰って欲しい」

「てめえ……」


 淡々と返答する虎太郎に、光輝は更に苛立っている。

 ピリピリとした空気が広がったが……。


「コタロウ様に庇って頂けるなんて……わたくし、感激です!」


 ツバメの嬉しそうな声で、一瞬にして張りつめたものがなくなった。


「ツバメさん……」


 虎太郎が庇ったことを後悔しているような顔になっているのは気のせいだろうか。

 光輝に詰め寄られても、まったく動じていなかったのは見えていたけれど、マイペースというか、空気クラッシャーというか……。

 ……なんて、思わず苦笑いをしていたのだが――。


「これ以上、コタロウ様に迷惑はかけられませんね。さて、自称勇者様と自称聖女様」


 ニコニコしていたツバメの目つきが突然鋭くなり、ピリッとした空気を放ち始めた。

 今まで見たことがない威圧感のあるツバメを見て、仲良くさせて貰っている私でも緊張してしまう。

 そんな状態のツバメにロックオンされた光輝と樹里は硬直した。


「今はコタロウ様とハナ様の成果を掠め取る程度でも、あなた達はいずれ……お二人の生命を脅かすようなことをしでかすでしょう」


 ツバメから出た言葉に、私と虎太郎は驚いた。

 どういう意味だろう……光輝と樹里が私達に危害を……?

 良好な関係ではないが、さすがにそこまではないと思うのだが……。


「な、何を言っているの! そんなわけないでしょう!」

「あなたはそうでも、あなたを操っている人はどうでしょうね」

「!」


 ツバメの言葉に、樹里が顔を強張らせた。

 心当たりがありそうなリアクションだ。

 そんな樹里を見て、ツバメが独り言のように話し出した。


「わたくしの一族は、売り買いの世界では顔が広いんですよ。だから、どれだけ内密に取引されたものでも、噂が入って来たりするんですよね……」

「!」


 樹里の顔が更に強張る。

 何か怪しげな物でも買ったのだろうか。

 何も言えなくなった樹里に、ツバメは綺麗な微笑を向けた。


「わたくしは『噂』を聞いただけです。ただ、コタロウ様とハナ様に危害が及ぶようなことがあれば、確認したくなりますねえ」

「…………」

「おい、何の話をしているんだ?」


 光輝は心当たりがないのか、樹里に確認している。

 二人で協力しているわけではないのだろうか。


「とにかく、あなた方はさっさと帰りやがれです」


 ツバメはそう言うと、にっこりと営業スマイルを見せた。


「…………」

「なっ! お前は何様だ!」


 樹里は黙ったままだが、光輝は怒りだした。

 だが、ツバメはもう言いたいことは全部言ったのか、光輝達に背中を向けて、今度は虎太郎と私の方を見た。


「コタロウ様とハナ様の意思を尊重すると言っておきながら、勝手なことをして大変申し訳ありませんでした」


 そう言うと、ツバメは深々と頭を下げた。

 確かに私と虎太郎はとても困ったけれど……ツバメの改まった謝罪に困惑した。

 もしかして、私達の様子を撮ったのは、先程言った理由の他にも何かあったのだろうか。

 虎太郎と目を合わせて戸惑っていると、ツバメは静かに話し始めた。


「この国の多くの者が、魔物が増えたことで、守護獣様の『終わり』が近いのではないかと感じていました。守護獣様に守られてきた国ですから、守護獣様を大切に思っている者は多いのです」


 その言葉にアリエンが大きく頷いている。


「ですが、『装置』ができたことで世の中は少しずつ、守護獣様への感謝――関心が薄れていくようになりました。守護獣様が結晶化してしまっても、装置があれば大丈夫。そんな考えが広がっているのが現状だと思います」


 アリエンの村以外は、どんどん装置をつけていると言っていた。


「ぎゃ……」

「ぐぉ……」


 芳三と諭吉が頷きながらも、少し寂しそうな鳴き声をあげた。

 悲しいけれど、生活に実害が出ないのであれば、守護獣への関心が薄れてしまうことは想像できる。


「でも、守護獣様が救われ、そして、魔物の問題も解決する方法があると人々が知ったなら……! 多くの者が、それを望むはずです。そうすれば、第二王子も、守護獣様を完全に結晶化させる計画を改めなければいけなくなるでしょう」


 それはつまり……結晶化させる計画の抑止力にするために、守護獣が救われる光景を見せた、ということ?


 この国には、芳三と諭吉以外にも三体の守護獣がいる。

 まだ本体が結晶化している芳三を含め、四体の守護獣が完全に結晶化してしまい、手遅れにならないために手を打ちたかった、ということだろうか。

 私は「聖女か?」と聞かれたら、「違います!」と即答するけれど……。

 芳三を救いたいし、芳三と諭吉の仲間なら助けてあげたい。

 虎太郎の考えを聞いてみようと思ったところで――。


「オクムラ様! イッシキ様~!」


 遠くから私達を呼ぶ声が聞こえてきた。

 聞き覚えがあるこの声は……。


「クリフさん?」


 声の方を見ると、赤髪のイケメンにお姫様抱っこされたクリフさんが、地面に下ろして貰っているところだった。


「うぷっ」


 地に足をつけたクリフさんだったが、気分が悪いようでふらついている。

 どうしてお姫様抱っこされていたのかと不思議だったが、恐らく赤髪のイケメンに抱えられ、猛スピードで連れて来て貰ったのだろう。

 そして、虎太郎に運んで貰った時の私のように、グロッキー状態になっているようだ。


「う……フラフラしている場合じゃない!」


 少しすると復活したクリフさんが、虎太郎と私の前に見事なスライディング土下座をしてきた。

 綺麗に土埃の道ができている……。

 痛そうなのだが、大丈夫だろうか。


「オクムラ様! イッシキ様! 私の配慮が足らず、城での生活では、お二人に大変不快な思いをさせてしまい……すぅ……申し訳ありませんでしたっ!!!!」


「! えっと……」


 謝罪をしてくれていることは分かるのだが、クリフの大声と勢いに圧倒されて、虎太郎と私は唖然としてしまった。

 土下座したままで頭を上げていないからか、そんな私達に気づかずクリフは話を続ける。


「お食事の件ですが、イッシキ様が仰っていたように、オクムラ様には一切食事の手配がされておりませんでした。そして、イッシキ様に対しても、本来ご用意していた食事ではなく、質素なものが出されていたと確認が取れました。大変、大変っ……すぅ……申し訳ありませんでしたっ!!!!」

「あ、あの、とりあえず立ってください」

「……あと、やっぱり擦り傷があるので治しますね」


 虎太郎と一緒に、クリフを支えながら立って貰う。

 そのついでに、手や足に出来ていた傷を治すと、クリフが目を輝かせた。


「精霊鏡で見た、あの素晴らしい回復魔法ですね! ありがとうございます!」


 どうしてここに駆けつけてきたのかと思ったが、クリフも精霊鏡を持っていたのか。

 クリフにまで見られていたと思うと、また恥ずかしさが込み上げてきたが、なんとか押し込めた。


「どういたしまして。もう怪我するようなことはしないでくださいね? ご飯のこと、ちゃんと調べてくれたんですね」


 正直に言うと、諦めていたからびっくりしたけれど、虎太郎が受けていた仕打ちをちゃんと分かって貰えてよかった。

 そして、やっぱり私のあのパンとスープもそうだったのか。

 城で最後に食べた豪華な食事が、本来用意されていたものだったのだろう。


「一度お申し出を頂いたにも関わらず、不十分な調査で不正を見抜けず……私の不徳の致すところです。申し訳ありませんでした!!」


 クリフは立ち上がったのに、また土下座しそうな勢いだ。


 私はもう済んだことだし、ちゃんと調べてくれたからそれほど怒りはない。

 でも、私が許してしまったら、私より酷い扱いを受けた虎太郎が本音を言い難いかも知れない。

 虎太郎が先に話すのを待とう……と思っていたら、芳三と諭吉がクリフに飛びかかって行った。


「ぎゃ! ぎゃ!」

「ぐぉ〜!」


 芳三は尻尾でベシベシと身体中を叩き、諭吉はクリフの服に噛みついている。


「ひぇっ! 守護獣様、お許しください~~!!」

「諭吉、やめろ! 噛むな!」

「芳三も、めっ!」


 虎太郎と私は、慌ててクリフの元から二匹を回収した。

 私達のためにやってくれる気持ちは嬉しいけれど、クリフさんはそんなに悪くない。

 むしろ、忙しそうなのに、こんな所まで来て土下座するなんて気の毒に思えてくる。

 虎太郎も怒りはないようで、少し笑いながらクリフに伝えた。


「芳三と諭吉が代わりに怒ってくれたので、もういいですよ」

「オクムラ様……!」

「ふふ、私も」

「イッシキ様も! ありがとうございます! 私の老後も救われます……」

「?」


 何のことかよく分からないが、救えたなら良かったです?

 クリフもホッとしたようで、ほわほわとした空気が流れたところで、後ろにいた赤髪のイケメンが前に出てきた。


「オクムラ様、イッシキ様。お初にお目にかかります。魔法使いが所属する『魔塔』の長、レックスと申します。クリフ宰相補佐官と共に、お二人をお迎えにあがりました」


 イケメン魔法使い、しかも魔塔長!

 礼をする姿も優雅だし、ファンタジー漫画の実写化を見ているようだと見惚れてしまったが……お迎え……!

 守護獣騒動ですっかり頭から抜けてしまっていたが、私達はこの人達から逃げていたんだった!

 虎太郎の方を見ると、私と同じように忘れていたようで焦っているように見える。

 そんな私達に向けて、クリフがまた深々と頭を下げた。


「国からも正式に謝罪し、お二人を勇者様と聖女様としてお迎えさせて頂きたいのです! どうか! どうか! 城にお戻り頂けないでしょうか!!」

「「…………」」


 虎太郎と私は、思わず顔を見合わせた。

 手紙にはすぐに戻ると書いて来たけれど、私達はもう戻るつもりはない。


「それはちょっと……。勇者として迎えられるなんて嫌ですし……」

「私も聖女じゃないですし、旅をしたいので戻らないです」

「そんな……! 一度話を聞いて頂くわけには……」

「……そういえば、手紙に書きましたけど、あのグラスには何が入っていたんですか?」


 クリフが話している途中だが、虎太郎が質問した。

 そうだ、あれに関してはまだ解決していない。

 間違いなく『よくないもの』だったと思うが、詳細が分かっていないなら尚のこと戻りたくない。


 この質問に答えたのはクリフではなく魔塔長だった。


「グラスに混入されていたものは『呪水』というものでした。恐らく、あれを飲むと仮死状態になります」

「!」


 虎太郎と私は思わず目を見開いた。

 そんな恐ろしいものが入っていたなんて……。

 一体、何の目的があったのだろう。


「犯人は分かったんですか?」

「それは、調査――」

「虎太郎君!」


 話している私達の間に樹里が割り入り、また虎太郎に飛びついた。こらー!


「虎太郎君、ごめんね。本当は虎太郎君が勇者だと分かっていたの……。でも、コウを支えてあげたくて……」


 樹里はそう言って、涙を潤ませた瞳で虎太郎を見つめる。

 読者モデルをするぐらい可愛い容姿の樹里に迫られたら、虎太郎もドキッとしてしまうかも……!

 そう思ったのだが……。

 虎太郎見ると、顔が引き攣っていた。

 そして樹里の腕を掴み、体から引き離した。


「あまりくっつかないで欲しい。苦手なんだ……」


 そう言って虎太郎は顔を顰めている。

 分かる……突然抱きつかれるとか恐怖だよね……。

 あ! でも、私も髪を切ったり、背負って貰ったり、何かと近かったけれど不快な思いをさせてしまっただろうか……!

 もしかして私、嫌われている? そう思い、血の気が引いた。

 ごめんなさい! と思っていると、虎太郎と目が合った。


「…………あ! そ、その、親しくないのに突然飛びつかれるのが嫌というか、そもそも華原さんが苦手っていうか……」

「「ぐふっ」」


 今噴き出したのはツバメかアリエン………両方か。

 私も樹里が迫った男の子から拒否される場面を見たら、悪いけれど笑ってしまいそうなものなのだが……今はそうならなかった。

 じゃあ、私はセーフかな? 親しい……のかな、とそわそわしてしまう。

 虎太郎から苦手と言われ、顔を引き攣らせた樹里だったが、何か思いついたようで虎太郎にまた言い寄る。


「虎太郎君、波花から何か吹き込まれたんでしょう!」


 嘘を吹き込むのはあなたの専売特許でしょう! と瞬時に心の中で泥を投げていた。

 そんなこと、私は絶対にしません!


「違う。一色さんはそんなことをする人じゃない。華原さんが苦手というのは、僕の意思だよ。華原さんはこんな状況じゃなければ、僕に興味はなかったはずだ」

「!」


 虎太郎にそう言われ、樹里は明らかに図星を刺された顔をした。


「そ、そんなことないわ……樹里、ずっと虎太郎君のこと……」


 まだくっついていくの!?

 しつこく虎太郎に触れる樹里に我慢できなくなった。

 樹里を掴んで引き剥がし、虎太郎の前に立つ。


「聖女は樹里がすればいいよ。でも、奥村君と旅をするのは私だから! 今まで諦めて譲って来たものがたくさんあるけれど、これだけは譲れないから!」

「……なっ!」


 樹里は今まで何をされても受け流して来た私が、真正面から反抗したことに驚いている。

 だが、少しすると腹が立ったのか、顔を赤くして怒って来た。


「な、何よ! 波花のくせに生意気! 樹里には何一つ勝てないくせに!」


 何を言われても、私の意思は変わらない。

 徹底抗戦してやる! と思ったのだが、樹里を止めたのは思いがけない人物だった。


「樹里、もううるさいよ」

「コウ?」

「何一つ勝てないって……。お前、さっきの戦い見てたのかよ。お前こそ何もしてないだろ」

「…………っ」


 光輝が樹里を否定するようなことを言うなんて……。

 まあ、目の前で虎太郎を口説きだしたのだから、仕方がないか……。

 そんなことを思っていたら、光輝が私に声をかけてきた。


「おい、お前は俺のファンなんだろ? だったらこれからは俺が組んでやるぞ」

「はい?」

「コウ!? 何を言い出すの……」

「お前だって、俺が勇者じゃないと思ったから、根暗に乗り換えようしているんだろ? 俺だって聖女じゃないお前よりこっちといた方が得だ」

「そんな、ひどい!」


 ひどい、って……どっちもどっちでは? と思ったのは、私だけではないはず……。


「それに……」


 光輝が値踏みするような目で見てきたので、思わず顔が引きつった。


「なんか前より垢抜けて可愛くなってるし。今なら構ってやるよ」

「はいー?」


 心の底から遠慮します……。

 そう思っていたら、私の前に虎太郎が立った。

 そして、光輝に向けて凛と言い放った。


「一色さんが一緒にいるのは僕だから」

「!」


 嬉しい……嬉し過ぎる……!!

 ちょっと……いや、また号泣しそう……。

 はっきりとそう宣言してくれた虎太郎に感激した。


「奥村君……」


 虎太郎は嬉しさで胸がいっぱいになっている私が目に入ったのか、少し恥ずかしそうにしている。

 そんな私達を見ると、光輝は顔を顰めた。


「チッ、めんどくせえ! 疲れたし……一旦全員で城に行こうぜ。魔塔長、こいつら連れて来てよ」


 私達のやり取りを静かに見ていたクリフと魔塔長に声をかける。

 すると、二人は顔を見合わせ、首を横に振った。


「無理やり連れて行くようなことはできません。私達はひたすらお願いをするのみです! 城に来てくださるまで、どこまでもついて行きますよ!」

「えっ!」


 それは困るのですが!

 どうしたものかと思っていると、虎太郎がこっそりと話し掛けてきた。


「一色さん、僕らとポータルを『花穂の檻』で囲ってくれる?」

「!」


 なるほど、魔法で囲ってしまえば、捕まることも追いかけられることもない。

 移動した先で、芳三にポータルを切って貰えば完璧だ。


「『花穂の檻』!」


 私が突然使った魔法に周囲は驚いているが、どういう意図なのかすぐに悟ったようだ。


「オクムラ様! イッシキ様! おおお待ちください! 城に戻られるまでは一緒に……!」

「素晴らしい魔法だ……僕には壊せないな」


 クリフは焦っているが、魔塔長は私の魔法をコンコンと叩いて感心している。


「波花! 逃げる気!?」

「おい、お前ら! どこへ行くつもりだ! お前らがいないと困るだろ!」


 樹里と光輝がガンガンと思いきり魔法の壁を叩くが、そんなことではびくともしない。

 何やらたくさん叫んでいるが、それもすべてスルーだ。

 城からやって来た一味はさておき……私達はツバメとアリエンの方を見た。


「ツバメさん、アリエンさん、お世話になりました」

「村のみんなにもよろしくお伝えください。また来ますね」


 笑顔で別れを告げる私達に、二人も笑顔を見せてくれた。


「コタロウ様、ハナ様……守護獣様がお二人と楽しく過ごされているお姿は、とても希望に満ちていました。旅をして……他の守護獣様もお救いください。お二人なら、目指していなくても、きっと巡り会うはずですから」


 ツバメの言葉に、虎太郎と顔見合わせて頷いた。


「「はい……!」」


 聖女とか勇者とか関係ない。

 私達は芳三とその仲間を救いたい。

 私達の冒険の目的ができた。


「守り神様! たまには遊びに来てくださいね〜!」

「ぐぉ!」


 虎太郎の胸ポケット、定位置に収まった諭吉がアリエンに向けて一鳴きした。


「一色さん、行こうか」

「うん!」

「ぎゃっぎゃ!」

「ぐぉ!」


 私達はポータルに向かって駆け出した。

 行こう、次の冒険へ――!

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