第39話 守護獣 黄金亀王②
言われた通り、守護獣と虎太郎以外は『花穂の檻』の中にいれた。
虎太郎は強いから大丈夫だと思うが……心配だ。
何かあったらすぐに虎太郎を守ろうと構える。
守護獣は結晶化して動かない半身を引きずりながら動き、近づいてきた虎太郎に前足で攻撃を繰り返している。
だが、すべてかわされたからか、再び光の蛇での攻撃も始まった。
「諭吉! しっかりしろ! 僕の声を聞け!!」
虎太郎は守護獣に呼びかけながら、手を出さずに攻撃をかわし続けている。
守護獣を傷つけるわけにはいかない。
でも、早く止めないと、暴れることで結晶化している部分が壊れてしまう。
一体どうしたらいいのか……。
「諭吉っ!! 奥村君だよ! 奥村君の胸ポケットが、あなたの定位置だったでしょ! 一緒に過ごして楽しかったこと、いっぱいあったよね! 思い出して!」
「守り神様! 優しい目の守り神様に……俺を助けてくれた守り神様に戻ってください!」
私とアリエンも必死に呼びかけるが、守護獣の目は不気味に赤く輝いたままだ。
「ぎゃ!」
「芳三!?」
私の肩にいた芳三が、守護獣の元へ走って行った。
「え、どうして『花穂の檻』から出られるの!? 危ないから戻っておいで!」
同じ守護獣でも、ここにいる芳三は小さいし、それほど力もないはずだ。
芳三を追いかけようとした、その時――。
――ゴオオオオォッ!!
芳三が守護獣に向けて、青い猛火を吐いた。
守護獣の体が一気に青い炎に包まれる。
「芳三!? 何をしているの!?」
慌てた私は『花穂の檻』から飛び出そうとしたが……虎太郎が止めた。
「一色さん! 諭吉は大丈夫だ!」
そう言われてよく見ると、炎に包まれてはいるが苦しんでいる様子はない。
ただ、何かに耐えるように、「グルゥ……」と唸り声を出していた。
このまま大人しくなって、元の諭吉に戻ってくれたら……。
そう願いながら見守っていると、守護獣の体の中心に黒い塊が見えた。
ただの黒い玉に見えるが……なぜか見ているだけでゾッとする。
これはなんだろう? と考えていると、虎太郎が呼びかけてきた。
「一色さん! きっとこれは、守護獣が封じている魔王の欠片だ! 今の守護獣は弱っていて、欠片の力に負けているんだと思う! 欠片をなんとかできたら……一度『清浄』をかけてみて!」
「! 分かった! ……あ」
魔法を発動しようとしたのだが……うまくいかなかった。
私の実力が足りないのか、そう言う摂理なのかは分からないが、『清浄』を発動できない。
「ごめん! 『花穂の檻』と同時に使えないみたい!」
「守りの魔法を解いても大丈夫だよ! 諭吉が動き出したら僕が止めるから!」
虎太郎に頷き、『花穂の檻』の中にいる人達に話しかける。
「じゃあ、魔法を解くから、一応気をつけてくださいね」
「はい! 自分のことくらい自分で守りますから! 大丈夫です!」
アリエンの言葉に、ツバメも頷いてくれたが……。
「樹里は無理よ!? 何かあったら波花がなんとかしてよね!」
「偽聖女は黙っていようなー。何もできないんだからさー」
私に反抗して来る樹里を、アリエンが後ろの方へ追いやって行く。
「ちょっと、どこに連れて行くのよ! 樹里に触らないで! 変態! ちゃんと見ておかないと、あとから説明できないじゃない! 聖女は樹里なんだから……! あ、光輝……!」
樹里は視線を送って助けを求めているが、光輝は先ほどのことを怒っているのか無視している。
光輝を放置して虎太郎に擦り寄って行ったのだから、そうなっても仕方がないだろう。
私は『花穂の檻』を解くと、すぐに『清浄』をかけた。
何が変化はないか、少し待ってみたが……。
「効かない……? 何も変化がないね。 ……あ!」
「グオオオオオオッ!!」
大人しくなっていた守護獣が、青い炎を纏ったまま再び暴れ出してしまった。
先程より動きが激しく、結晶化した部分に入ったヒビがどんどん深くなっていく。
このままだと守護獣が壊れてしまう!
「奥村君! 他に魔王の欠片をなんとかする方法はある!?」
迫りくる守護獣の攻撃をかわし続けている虎太郎に話しかけるのは申し訳ないけれど、この状況をなんとかするためには虎太郎の知識が必要だ。
「分からないんだ! 魔王を倒す時と同じように、ダメージを与えれば消えると思うんだけれど……」
「欠片だけを攻撃ってできるの?」
「今、その方法を考えているんだけど、完全に守護獣の体内に取り込まれているようだから難しくて……!」
守護獣を傷付けずに、欠片だけを壊す手段がないのか……。
「何かいい方法は…………え、星野君っ!?」
悩む私の横を、光輝が駆けて行った。
剣を抜き、明らかに守護獣に攻撃しようとしている。
「やめて!!!!」
「やめろ? 馬鹿言うな! こいつを倒して、俺が勇者だと証明して見せ…………うぐっ!?」
守護獣に迫っていた光輝の体が後方へ吹っ飛び、地面を滑りながら戻ってきた。
……痛そうだ。
何が起こったのかというと、虎太郎が光輝を蹴り飛ばしたのだ。
「……っく、痛ぇな! 何しやがる!」
光輝は擦り傷だらけで起き上がると、虎太郎に向かって怒鳴った。
以前の虎太郎なら言い返すこともなかったが……今は違う。
「どうして守護獣を攻撃するんだ!」
「…………っ」
威圧を含んだ虎太郎の怒声に、光輝が後退る。
怯えたように見えたが……光輝も言い返した。
「守護獣ごと魔王の欠片がなくなったら全部解決じゃん! この場を解決して、俺が勇者だって認めさせてやるんだから邪魔すんなよ!」
「まだそんなことを言っているのか! 大体、守護獣を犠牲にしようとしている奴が勇者なわけがない!」
「暴れているんだから仕方ないだろ! 結晶化しているところはそろそろ砕けそうだし、弱ってそうだから倒せるだろ。このチャンスを逃してどうするんだよ!」
「ぎゃ!」
光輝に向け、芳三が青い火球を放った。
「あっつ! お前、何をするんだよ!」
「ぎゃー!!!!」
「ひっ!」
今まで見たことがないくらいに、芳三が怒っている。
飛びかかって噛みつきそうな勢いに怯え、光輝は大人しくなった。
「一色さん」
気がつくと虎太郎がすぐ近くに戻って来ていた。
守護獣はまだ暴れているが、虎太郎を追うことはやめたようだ。
「よかった、奥村君を攻撃しなくなったのね」
「いや……僕を追わなくなったのは、更に理性がなくなっているんだと思う。だから状況は悪くなっている」
「そんな……」
確かに今は、手当たり次第に暴れているというか、錯乱しているように見える。
「このままだと命が尽きるまで暴れて、魔王の欠片が解き放たれてしまうかもしれない。欠片を処理して諭吉を救うために、一色さんにお願いがあるんだ」
「何!? なんだってする!」
「僕は欠片を攻撃するから、同時に回復をかけ続けて欲しい」
虎太郎はそう言うと、ツバメから買った大剣を出した。
それに私の目は釘付けになる。
「欠片を攻撃するって……剣で諭吉を刺すの?」
「中途半端なダメージではダメなんだ。これが一番確実だから」
……嫌だ、諭吉が可哀想。
今もこんなに苦しんでいるのに、痛い思いをするなんて……。
それに、一歩間違えると死んでしまう!
絶対に嫌だが……。
実行する虎太郎の方がもっと嫌だと思う。
でも、虎太郎は覚悟を決めた顔をしてきた。
「他に方法がないのね?」
「……これしか思い浮かばなかった。もう、迷っている時間もないと思う」
やるしかない、と私も覚悟を決める。
私が失敗したら……諭吉は助からない。
とても不安だけれど……。
「一色さんは幸運の女神だから、絶対に大丈夫」
私の不安を感じ取った虎太郎が、優しく微笑みかけてくれた。
「奥村君……」
……私は本当に支えて貰ってばかりだ。
虎太郎の微笑みは、私にとても安心感を与えてくれた。
だから、私もしっかりと覚悟することができた。
「ぎゃ!」
私の肩に戻ってきた芳三も、「大丈夫」と言ってくれているようだ。
「ありがとう。みんなで諭吉を助けようか」
「ぎゃ!」
私は『運S』だし、きっとうまくいく……!
諭吉に貰った魔法で、絶対助けるから!
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