第38話 守護獣 黄金亀王①
近づくにつれ、森を揺らす鳴き声と、争っているような衝撃音が聞こえてきた。
ポータルの所に到着すると、信じられない光景が広がっていた。
巨大な亀――守護獣が池から身を乗り出し、光輝と樹里を攻撃していたのだ。
守護獣の目は不気味に赤く光っていて、様子がおかしい。
「どうなっているの……守護獣は……諭吉はこんなことしないよね!? 操られているのかな!?」
「分からない。でも、正気じゃないことは確かだ」
黄金の甲羅の辺りから蛇の形をした光が伸び、二人に襲い掛かっている。
光輝がそれを必死に剣で叩き返しているが、いつまで耐えられるか……。
限界が近い感じがする。
樹里はというと、光輝の後方で怯え、杖を握りしめて立っているだけだ。
「……あ、波花! それに……虎太郎君!?」
私達に気づいた樹里が駆けて来る。
光輝が戦っているのに、放っておいてこちらに来るなんて信じられない。
それに、髪を切ったり装備を整えたりして、かっこよさが上がった虎太郎を見て目を輝かせたような……。
「虎太郎君! 樹里を助けに来てくれたのね!」
嫌な予感がしていたが、案の定……樹里は勢いよく虎太郎に抱きついた。
「なっ……っ!? おい、樹里! 何やってんだよ!!」
「樹里、離れて!」
光輝と私が同時に叫んだ。
戦っている彼氏を放っておいて虎太郎に抱き着くなんて、どんな神経をしているのだ。
今回ばかりは光輝が可哀想だ。
「華原さん、困るから……」
突然のことに固まっていた虎太郎だったが、顔を顰めて体を離そうとしている。
だが、樹里は気にせず虎太郎に張り付いている。
「樹里、怖かったの……」
「いいから離れて!」
一人では樹里を引き剥がせないので、ツバメにも手伝って欲しいのだが……。
「? これは……映像を撮る方の……」
ツバメが何かを拾い、不穏な笑みを浮かべているが……そんなことより一緒に樹里を引き剥がして欲しい!
アリエンにもヘルプを出そうとしたところで……守護獣に新たな動きがあった。
「グオオオオオオオオッ!!!!」
雄叫びを響かせると、結晶化している下半身を引きずるようにして地面に上がって来た。
そして、突然のことに動けずにいる光輝に、一際大きな蛇型の光が襲い掛かる――。
その瞬間、虎太郎が邪魔な樹里を引き剥がし、守護獣と光輝の元へ駆け出した。
「きゃっ! 虎太郎君!?」
「一色さん! 守護獣を……諭吉だけを、『花穂の檻』で閉じ込めて!」
「う、うん!」
私が返事をする前に、虎太郎はもう光輝に向けられていた攻撃をはじき返していた。
さすが! と感動しながらも、私は虎太郎に言われた通りに行動した。
「守護獣を包んで! 『花穂の檻』!!」
『『まかせてー』』
今回もこの魔法を私に授けてくれた精霊達が現れた。
そして、二人の足元から伸びた無数の巨大な蔓が、守護獣を包み込んだ。
よかった、ちゃんとできた……。
私は魔法を使ってから理解したが……なるほど。
これで守護獣も遠くへ移動できなくなるし、私達に攻撃することもできなくなる。
「な、何あれ……波花がやったの!?」
樹里が戸惑った様子で聞いて来た。
「そうだけど……」
「そんな! 波花がこんなことできるなんて、おかしいじゃない! 虎太郎君から教わったのね!? ずるい! 波花は最初から、虎太郎君が本物の勇者だって知っていたんでしょ!」
「はあ?」
反論しようと思ったが、今は樹里を構っている暇はない。
守護獣を見ると、首を伸ばして『花穂の檻』を見ている。
「! あいつらは……」
虎太郎が何をみつけたようで走り出した。
「お、おい、待て! どこに行くんだ!? っていうか、何がどうなってんだよ!」
色々と状況がのみこめていない様子の光輝が幸太郎を止める。
だが、虎太郎は止まることなく茂みの方に走って行った。
私も追いかけたいが『花穂の檻』を使っているし、守護獣――諭吉から離れない方がいいだろう。
そう思って待っていたら、すぐに虎太郎は一人の男を連れて戻って来た。
私達の前にドサッと倒れたその人物を見てアリエンが叫んだ。
「お前は……! 俺を連れて行こうとした兵士!」
確かにこの男は、アリエンを連行しようとした兵士達を率いていた人物だった。
この男がここにいる、ということは……。
「お前達はまた、懲りずにクソ装置を起動したんだな!」
アリエンが地面に倒れ込んでいる男の襟首を掴み、無理やり起き上がらせる。
男は虎太郎の攻撃を受けたのかぐったりしているが……アリエンには反抗的な態度を見せた。
「当然のことをしたまでだ! 我々はこの地を任されている! 任務を遂行しないと……完全に結晶化して貰わないと、第二王子の計画が狂うだろ!」
守護獣を完全に結晶化させ、魔王のカケラごと始末するという計画か……。
……絶対に許せない。
「装置はどこにある。守護獣にこんなに影響が出ているなんて……他にも何かしたのか」
「ひっ」
虎太郎の怒りに満ちた静かな声に、男が震えはじめた。
以前に脅しで見せた凄まじい炎の柱のことも思い出したのかもしれない。
それでも、男は反抗的な態度を続けた。
「お、お前に話す義理はない!」
「お前、だと? このお方は本物の勇者様だぞ!」
「……へ? ゆ、勇者? だが、勇者は……」
混乱した男が、ちらりと光輝に目を向けた。
すると、会話が聞こえていたのか、光輝が叫び始めた。
「おい! 勇者は俺だぞ!」
その言葉に腹を立てたのは虎太郎ではなくアリエンだった。
「お前は勇者って名乗っているだけだろ! 本当に勇者だったら、どうやって守り神様を――守護獣様を回復させたのか言ってみろよ!」
「そ、そんなこと、お前に話す必要はない!」
「知らないだけだろうが! 大体、単純に実力不足だろ! 名乗っただけで勇者になれるなら、誰でも勇者になれるんだよ!」
光輝とアリエンが言い争いを始めたが、今はそんな話をしている場合じゃない。
私とツバメが止めようとしたが……先に虎太郎の声が響いた。
「誰が勇者とか、そんなことはどうでもいいよ!」
珍しい虎太郎の怒声に、光輝とアリエンは圧倒された。
「…………っ」
「す、すみません!」
静かになったところで、虎太郎は改めて兵士の男をまっすぐに見据えた。
「守護獣に……諭吉に何かあったら、僕はあなたも第二王子も許さない」
「…………っ」
虎太郎から威圧され、兵士の男は縮み上がった。
そして、逆らう気力がなくなったのか、怯えるように話し始めた。
「装置は起動した……で、でも、もう壊れたんだよ! だから今は動いていない!」
「じゃあ、どうしてあんなに苦しんでいるんだ!」
「ひっ! こ、壊れる前、出力を最大にしたら、暴走しておかしくなって……それが原因かもしれない! 事故だ……これは事故なんだ! わざとじゃない!」
魔物の出現を抑えるが、守護獣の結晶化を進めてしまうという装置の暴走が原因……。
でも、装置はもう壊れているというし、どうすれば守護獣は鎮まるのか……。
「グオオオオオオッ!!!!」
「!?」
雄叫びと共に、地響きが起こる。
守護獣に目を向けると、『花穂の檻』から出ようと暴れ出していた。
魔法が解けることはなさそうだが、守護獣が心配で目を凝らして見ると……大変なことに気づいてしまった。
「奥村君! 守護獣が暴れるから、まだ結晶化しているところにヒビが入ってる!」
このままで割れてしまったら、大変なことになる。
守護獣に……諭吉に何かあったらどうしよう……!
可愛く「ぐぉ」と鳴いている諭吉が頭に浮かんで、また涙が込み上げてきた。
「早く助けてあげなきゃ、なんとかしなきゃ」と、私はパニックを起こしそうになったが……虎太郎は冷静だった。
「一色さん、魔法を解いて! 今度は僕と諭吉以外の人を守って!」
私を支持を出し、守護獣に向かって駆け出した。
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