第36話 近づく再会

「ポータルから人が来た、って……もしかして、クリフさん?」


 こんなに朝から来るなんて……。

 また私達の様子を見に来たのだろうか。


「うん。クリフさんがいるし……昨日より人数が多い」

「えっ! それって、無理やりにでも連れ戻しに来たってことなのかな?」


 樹里が改めて、すぐにでも連れて来て! とでもお願いしたのだろうか。


「どうされますか? わたくしが追い返してやりましょうか!」


 ツバメが楽しそうに目を輝かせている。

 翼を失ったばかりなのに、無茶なことは辞め欲しい……!


「ダメです! ツバメさんにも、村にも迷惑をかけるわけにはいかないです!」


 そう言いながら虎太郎と見ると、頷いて同意してくれた。


「そうですか? では、予定通りに出発されますか? ポータルを使わずに行く方法もありますが……」

「僕は、諭吉の……守護獣の様子を見てから行きたいです」

「私も……」


 あの池まで行くのならば、ポータルを使って移動した方がいいと思う。

 そう伝えると、虎太郎も頷いた。


「ポータルの行き先って……城の近くまで戻る以外は、あと二カ所だったっけ? クリフさん達が追いかけてきたら、二択だからすぐに追いつかれちゃうかもね……」


 すでに三択を当てられているわけだし……。

 そう思っていると、虎太郎が芳三に話しかけた。


「ポータルは芳三が起動させてくれたけど、逆に止めることってできるのか?」

「ぎゃ!」

「できるの!?」


 芳三が得意げに胸を張っているので、簡単にできるのだろう。

 まだ実感がなくて忘れてしまいそうになるけれど、やっぱり守護獣はすごい。


「じゃあ、ポータルで移動してすぐにポータルを止めればいいね!」


 私が喜ぶ一方、虎太郎は苦笑いを浮かべた。


「昨日のうちにこれを思いついておけば、クリフさん達が来ることを止められたのにな」

「今気づいたのもすごいよ?」


 私の言葉にツバメも頷く。


「このタイミングだったのも、守護獣様のお導きかもしれないですよ」


 私達の言葉に、虎太郎も頷いてくれた。

 ご飯を残すわけにはいかないので、慌てて完食したあと私達は宿を出た。


 お世話になったブランカに、慌ただしいお礼しかできなかったのが残念だったが……。


「クリフさん達はこちらに向かっているようだから、出会わないようにしてポータルのところで行こう。僕が先導するね」

「うん!」

「コタロウ様! ハナ様!」


 さあ、出発! というところで、村長に事情を話しに行ってくれていたツバメが戻って来た。

 アリエンも一緒だ。


「わたくしも何かあった時に動けるように、ポータルのところまでお見送り致します」

「いいんですか?」

「はい! 色々持ってきたので、どんなことにも対応できます!」


 そう言って商談の時に持っていたトランクを、私達に見せてくれた。

 とても心強いし、お見送りをしたいと言ってくれる気持ちが嬉しい。


「俺も見送りに行きます!」

「アリエンさんは、村に残った方がいいんじゃないですか?」


 虎太郎の言う通り、私達を迎えに来るためではあるが、これから国の人が訪ねてくるのだから村にいた方がいい気がする。


「勇者様達を迎えに来るだけで、村に用があるわけじゃないですよね? だったら親父に任せます。俺がいた方が揉めそうだし!」


 確かに、揉め事を起こしそうではあるが……。

 自覚があったのか! とびっくりしてしまった。


「それに、俺は守り神様をお見送りしたいです」

「ぐぉ」


 定位置の虎太郎のポケットに収まっている諭吉が、「うむ!」という感じで偉そうに頷いている。


「あ!」


 短い声を発したアリエンの視線の先を見ると、今度はアンナがやって来た。


「よかった! 間に合った!」


 そう言って私の前に来たアンナは、上がった息を整えながら、手に握った何かを差し出した。


「びっくりした! パンチされるのかと思った! これは……リボン?」


 白いリボンで、両端に金字で目のようなマークが描かれている。

 秘密結社のシンボルなんかにありそうだ……。


「駆け寄ってきて殴るなんて、そんなわけないでしょ。これは持っていると役立つかもしれないものよ。……手を出して」

「?」


 受け取らずにいたのだが、言われた通りに手を出した。

 すると、アンナは私の手首にリボンを結びながら話し始めた。


「私には師匠がいるの。世界中をウロウロしている変な人だけど……才能は確かよ。弟子入りしたい人は大勢いるけど、中々みつけられないわ。でも……あなたはどこかで出会う気がする。会えた時にこれをつけていたら、多分、力になってくれるから……」


 このリボンをは、アンナの師匠ーーアイテム作りのすごい人に会えた時の紹介状のような役割をするらしい。


「ありがとうございます! 今度会える時には、何か作ることができるようになっていたいと思います!」

「……営業妨害だから、あまりすごいものは作らなくてもいいわよ」


 そんなことを言っているが、本当に営業妨害だと思っているのなら、わざわざリボンを届けてくれたりしない。


「ツンデレだあ」

「つんでれ? じゃあ、私の用事は終わったから。……また会いましょう」

「はい!」


 最後までツンデレを見せて、アンナは去って行った。

 もっと仲良くしたかったな……。

 今度来る時は、何かお土産を買って来たい。


 村の人達にも軽くさよならの挨拶をしながら村を出て、遠回りでポータルのところまで向かう。

 急いだ方がいいので、みんなで走っているのだが……。


「ごめん……体力なくて……」


 案の定、私が足を引っ張っている。

 三人について行くのがつらい……!


「大丈夫だよ。まだクリフさん達も村についてないし」


 虎太郎は息一つ上がっていないし、アリエンも呼吸に乱れはあるが、まだまだ元気そうだ。

 スラッとしているツバメも、驚くことに虎太郎と同じくらい余裕がある。

 私は酸素吸入したいくらいなのに……!


「聖女様、俺がおんぶしましょうか?」

「え?」


 おんぶか……恥ずかしいけれど、足を引っ張るくらいなら、恥くらい……!


「じゃ、じゃあ……お願いしようかな?」

「はい! 俺の背にーー」

「僕がするよ」


 しゃがむアリエンのところに行こうとしたら、それを遮るように虎太郎が名乗り出てくれた。

 ありがたいけれど……虎太郎の突発的な行動に、私だけじゃなくアリエンも驚いている。


「あー……確かに、勇者様の方がいいですね!」


 そう言ってアリエンが引いてしまったので、私は虎太郎の背中に乗ることになった。

 アリエンでも恥ずかしいと思ったのに、虎太郎の背中に乗るなんて無理ー!


「あの、私……やっぱり重いから……」

「ハナ様が重いわけないじゃないですか。それに、コタロウ様なら、たとえわたくしでも背負って駆けることができると思いますよ! あと、今はあまり時間に余裕がないかと……!」


 確かに、無駄に時間を使うわけにはいかない……。


「大丈夫だから」


 虎太郎がそう言ってしゃがむので、私は覚悟を決めてお世話になることにした。


「失礼します……」


 こんなに人とくっつくことがないから、緊張する!


(私は荷物! 私は集荷された荷物!)


 再び自分に言い聞かせて「無」になった。

 幸い……と言っていいのか分からないが、私はすぐに、悩む余裕がなくなった。

 本気の無理〜!!


 思っていたよりも三人のスピードが速い上に、大きな障害物も軽く飛び越えて行くので、ほぼジェットコースターライド中状態だから……!

 背中の温もりとか、青春っぽいことはまったく感じない!

 もっとゆっくり! なんて言える立場じゃないから耐えるけど……!


「ぎゃっぎゃーー!!!!」

「ぐおぉぉっ!!!!」


 虎太郎の背中と私の間にいる芳三、そして、胸ポケットにいる諭吉は、過去一番の興奮を見せて喜んでいる。

 騒がないで、落ちても知らないからねー!


 ※


「ん?」


 ポータルまであと少しというところで、虎太郎が速度を落とした。

 よかった……耐えた……。


「ぎゃぁ……」

「ぐぉぅ……」


 二匹が心底残念そうな声を出しているが、おかわりなら今度私がいないところでやって貰って欲しい。


「コタロウ様、どうかされましたか?」


 ツバメが虎太郎に質問するのを聞きながら、私は自分の回復に努めた。

 うー……。


「ポータルから少し離れたところだけど、人がいるって気づいたんだけど……一色さん、大丈夫?」

「あ、大丈夫、です」


 なんとか普通に答えることが出来たのだが、心配した虎太郎が下ろしてくれた。


「顔色が悪いね……ごめん。ちょっと、その……余裕がなくて……つい突っ走ってしまって……」


 余裕がない?

 あ、重いから早く着きたかったのだろうか。


「ほんとに大丈夫だから! おんぶしてくれたおかげで、あっという間にここまでこれたね! それで……人がいるっていうのは、クリフさんと一緒に来た人が別行動しているの?」


 地面に立つと、少しフラッとしたけれど、かなり気分がよくなった。

 話を進めると、虎太郎は改めて千里眼で確認しているのか、難しい顔をした。


「いや、ポータルから来た人じゃないと思う……」

「現地の関係者にも、私たちを捕まえるよう指示を出したとか?」


 話し合う私達の間に、アリエンがニョキッと入って来た。


「……もしくは、俺を捕まえようとした連中ですかね?」

「うーん……どうだろう。分からない……あ」


 アリエンの言葉を聞いて、改めて探っていた虎太郎の顔が険しくなった。

 よくないことが起きたようだ。


「奥村君?」

「……今、会いたくない二人がポータルから来た」

「まさか……樹里達?」

「……うん」


 あの二人まで私達を連れ戻しに来た?

 自分達は悠々自適に城で待っていそうなのに、わざわざ自分達で来るなんて……。

 嫌な予感がしていると、トランクを開けていたツバメが慌てて話し掛けてきた。

 手には以前見せて貰った精霊鏡を握っている。


「コタロウ様、ハナ様! 急遽、精霊鏡での放送が始まるみたいです!」

「え?」


 ツバメの言葉を聞いて、私達は精霊鏡を取り囲んだ。

 すると、鏡面にどこかの景色が映り始めた。

 以前見た城の中とは違って屋外だ。

 しかも、見覚えがある……。


「ここは……ポータルのところだな」

「そうだね」


 虎太郎の言葉に頷く。

 二人はポータルでやって来てすぐに放送を始めたようだ。

 鏡面を見ていると、今度は光輝と樹里の姿が映った。

 以前とは違うものだが、今日も勇者と聖女らしい立派な格好をしている。


『ラリマール王国のみんな、おはよう! 先日、自己紹介したが、覚えてくれているか? 俺は勇者コウキ。こちらは聖女のジュリだ。今日、急遽放送を始めたのは、早くみんなに知らせたい朗報があるからなんだ』


 光輝が生き生きと話す。

 相変わらず営業スマイルだけは、推しキャラに似ていてキラキラしているのがなんだか腹立たしい。

 そして、樹里の方はというと、前面に出ている光輝とは違い、一歩下がって大人しくしている。

 不思議だな……そういうキャラでいくつもりなのだろうか。


 そんなことを考えていると、光輝は自分達に向けていた精霊鏡を動かし、池の中を映した。


「「「「あ」」」」


 驚いた私達の声が見事に重なった。

 池の中に見えた、諭吉の本体……守護獣の結晶化が、一気に回復していたのだ。

 後ろ足や尻尾がある体の後方はまだ結晶化している部分が多いが、頭や前足はほとんどが露になっていた。

 青白結晶の効果が、一気に聞き始めたのだろうか。


「諭吉、よかったね!」

「ぐぉ~」


 胸ポケットにいる諭吉の頭を人差し指で撫でると、嬉しそうに鳴いた。

 和やかな空気が流れたが……。

 鏡から聞こえてきた光輝の言葉を聞いた私達は驚愕した。


『分かるかな? 俺と樹里の力で、守護獣の結晶化が回復しているんだ!』

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