第28話 藪蛇
「では、お品を拝見しましょう」
私達はレアドロップで得たものをツバメに売ることにした。
城の近くで得た果実は売っても安いだろうし、食料としてい取っておく。
『再生卵』も上級ポーション作りに使えるらしいので、『緑冠の羽』を売ることにした。
十枚近くあるクジャクの羽のようなアイテムをテーブルに乗せると、ツバメの眉がピクリと動いた。
「…………。これだけでも、どちらが本物か判断できそうですねえ」
「「?」」
ツバメがため息をつきながら、モノクルで確認をしている。
「状態も良いですね。緑冠の羽は防具の素材にすると、速さが上がったり回復効果上昇が期待できます。その上、見た目も良いので、売りに出すとすぐに買い手がつく人気の品です。ご提供頂けるのはありがたいですねえ。全部まとめて百万クレイで買い取りさせて頂きたいのですが、どうでしょう?」
「え、そんなに? 思っていた倍の値段ですが……?」
虎太郎が驚いているが、私はさっぱり分からないので大人しく座っている。
すると、そんな私に気づいたのか、虎太郎が解説してくれた。
「この国では通貨の名称は『クレイ』で、大体一円一クレイだよ。野菜とか服とか、日本にもある物の物価は似たようなものだね。この羽は全部で百万円くらいで買い取って貰えたんだ」
「え! これだけで百万!?」
一日で百万円も稼ぐことができたなんて驚きだ。
でも、確かにゲームだとお金はたくさん稼げるので、これが現実だったらいいのにな、と思ったことがある。
そんな感じだろうか。
「コタロウ様は、早くも物の価値や、物価等を把握されているんですね?」
「あ、はい……ちょっと、調べて……」
そういうことはゲームで把握している、とは説明しづらいからか、虎太郎は返事を濁している。
「素晴らしいですね。確かに、こちらをの買い取り額は通常の倍です。ですが、大変貴重なものをまとめてお売り頂ける感謝を込めての値段なので、突飛な額ではありません。あと、『これからもレアドロップアイテムの買取は、わたくしにお任せ下さい』という気持ちも込められていますので」
私は何の知識もないので、ツバメを言葉を信用するしかない。
どちらにしろ、私達の損にはならない話だし、レアドロップの買取はこれからもお願いしていくはずだ。
「そういうことなら……。僕はいい話だと思うけれど、一色さんはどう?」
「私もいいと思う」
虎太郎が納得しているなら、私に異論はない。
「ぎゃ!」
「ぐぉ!」
からあげを食べながら二匹がこちらを向く。
芳三と諭吉の賛成も得たようだ。
「では、その値段でお願いします」
虎太郎と一緒に頭を下げると、ツバメも返してくれたのだが……私達を見て苦笑いを浮かべた。
「こちらこそ、ありがとうございます! でも、お二人供……わたくし以外には遠慮してはいけませんよ? 儲けを捨てるようなことをしたら、悪い奴が寄って来ますから」
「あ、はい。それは大丈夫です。相手がツバメさんだから、正直に言っただけで……知らない人とは、極力取引もしないですし」
虎太郎の言葉に、私もコクコクと頷いた。
ゲームでも登場していたというし、直接話をしていい人だと分かった。
クセは強いけれど……。
「くっ……! 胸が……! わたくし、ますますお二人にのめり込んでしまいます……! 憎い……大変罪深いですよ!」
心臓の辺りを抑え、苦しそうにしているツバメを見ると、自分の判断が正しいのか不安になってきた……。
「ぎゃ」
「ぐぉ」
芳三と諭吉も、まだからあげを食べながら呆れているように見ている。
「ふう、すみません……取り乱してしまいました。では、ご提案させて頂いた通り百五十万クレイでよろしいですね?」
「いや、増えてますから!」
虎太郎がすかさずツッコむ。
「さっきお願いした通り、百万クレイでお願いします」
「えぇー……そうですか?」
ツバメは買い取り額が抑えられたのに、残念そうにしながら買取の明細を作っている。
この人、ちゃんと商売が出来ているのか心配になってきた……。
そんなやり取りをして少し疲れたが、他にも売れるものがないので買い取りは終わった。
「では、次はわたくしがお売りする方ですね。お二人はどういった商品をお求めですか? あ、金額は気にせずご注文下さい」
「え、ツケでもいいんですか?」
虎太郎が驚いで確認する。
ツケでいいなら、これからの旅でレアドロップを集め、売却すればそれなりのお金ができそうだから助かる。
「今回のお代はいりません。命の恩人への謝礼として、わたくしからプレゼントさせて頂きます」
思わず虎太郎と顔を見合わせる。
気持ちはありがたいが……。
全部合わせると高額になるだろうし、お礼にしては大きすぎる。
買い取りでも十分過ぎるほどサービスして貰っているし……。
ツバメは戸惑う私達に構わず、笑顔で話し出すのを待っている。
支払いは自分達でするとして、具体的なことは先に選んでから決めることにした。
「ええっと、僕は……武器が欲しいです。拳用の武器……できればグローブタイプがいいです。あと剣も……。力はある方なので、大剣でも使えます」
「ふむ……少々お待ちください」
ツバメは椅子に置いていたトランクを開け、何かを探している。
その内に私は虎太郎に話しかける。
「奥村君、武器を剣に変えるの?」
「打撃が聞かない敵もいるからね。基本はいつも通り、打撃でいくつもりだよ」
「お待たせしました。では、こちらを見てください」
ツバメが取り出したのは、大きくて分厚い本だった。
それをテーブルの上で広げ、こちらへ向ける。
ページを見ると、大剣の精巧なイラストが描かれていた。
どうやらこの本は、武器のカタログのようだ。
絵の他に説明らしき文書もあるが、何を書いているかは読めない。
……そうだ、今ついでに聞いてしまおう。
「あの、私達……話すことは出来るんですけど、この世界の文字を読むことが出来なくて……。文字を覚えたいので、教材もあれば……あとで見せて頂けますか?」
「なんと! そうだったのですね。わたくし共の文字を学習したいと言って頂けて嬉しいです。『鑑定』という魔法を使うと、知らない文字でも読む事ができますが……スクロールで覚えますか?」
そんな便利なものがあるのか、と驚いた。
文字が読めること以外でも、色々なものを鑑定できるなら、とても便利そうだけれど……。
勉強する気満々だったから、自力で頑張りたい気持ちもある。
躊躇っていると、虎太郎が話しかけてきた。
「僕は元々『鑑定』は欲しいな、と思っていたからスクロールで覚えるよ。一色さんが勉強して覚えたいのなら、スクロールは使わなくていいよ?」
「本当? いいの?」
文章が読めないと、ツバメ以外から買い物をする時に詐欺をされたり、冒険の途中で注意書きを見つけても分からなかったりしないか心配だった。
でも、虎太郎が分かるなら、そういう心配はなくなる。
また頼ってしまうが、お言葉に甘えることにした。
「もちろん。じゃあ、そうしようか」
「では、こちらのカタログが読めるように、すぐにスクロールをご用意しますね」
ツバメがまたトランクを見ていると、からあげを食べ終わって休んでいた芳三がスタスタ近づいてきた。
「ぎゃ!」
虎太郎の前で止まり、前足を上げる。
すると、見覚えがある光が虎太郎を包んだ。
「「「!?」」」
「ぎゃ」
驚く私達に構わず、芳三は満足した様子で元の場所に戻って伏せた。
瞼を閉じたので一眠りするようだ。
「今の光って……。もしかして……ギフト?」
私が尋ねると、虎太郎が頷いた。
「うん。鑑定系の上位魔法、『千里眼』をくれたみたい……だ……」
虎太郎は答えながら私を見ると、段々固まっていった。
私の何かに驚いているようだけれど……。
「え、何……?」
「い、いいいや、何でも……ない……」
何でもない、と言うわりには、虎太郎の目が泳ぎ始めた。
絶対に何かを誤魔化している。
「今のはギフトですか!? 千里眼と仰いました!?」
ツバメがガタッと立ち上がり、身を乗り出して来た。
でも、虎太郎はツバメの質問にも、誤魔化すような態度をとった。
「あー……。そう、かも? しれないですね……」
「どのような魔法ですか!? 鑑定とどう違うのですか!? ハナ様の何が見えたのですか!?」
「え、いや……」
ツバメも虎太郎が私の何かを見たことに気が付いたようだ。
やっぱり何を見たのか気になる……!
「奥村君、何が見えたの?」
「な、何も見てない、本当に、何も……」
「本当ですか? 千里眼は鑑定よりも見えたり分かるんですよね? ハナ様の見えていないところ……裸?」
「え!」
「!!!!」
ツバメがなんとなく言った言葉に息が止まりそうになった。
千里眼だと、服も透けて見えてしまうということ!?
芳三はそんな変態なギフトを虎太郎にあげたのだろうか。
そうだとしたらお説教しなければ……!
「ち、違う!! 一色さん、違うから!! そういうのじゃないから!! 本当にそうじゃない!!」
虎太郎が見たことがないくらい、顔を赤くして焦っている。
「そういうのじゃない? じゃあ、どういうこと?」
「! それは……」
また虎太郎の目が泳いだが……裸ではないというのは本当だろう。
私のお目汚しになる姿が見えていたのなら、もっと慌てていたと思う。
落ち着いて思い返せば、虎太郎の目線は文章を読んでいるような動きをしていた。
私の解説でも書いていたのだろうか……。
もやもやするけれど……追及したら藪蛇を突いてしまう気がする!
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