第29話 装備

「ヨシゾウ様、こんなことを申し上げるのは、身の程知らずだと重々承知しております。ですが! 後生ですから! わたくしにもギフトを頂けないでしょうか!」


 ツバメが頭を下げ過ぎて、テーブルにゴンッと頭をぶつけている。

 全力でお願いをしているが、伏せて休んでいる二匹は動かない。

 完全無視をするようだ。


「くぅっ……! 分かっていましたが……諦めきれないです……いつか!」


 ツバメが悔しそうにテーブルに拳を当てる。

 すると、その振動が気に入らなかったのか、二匹は片目を開けて睨んでいた。

 残念ながら、ツバメがギフトを貰える日は、更に遠ざかったかもしれない……。


「はあ……。すみません……話が大分逸れてしまいました」


 ずれたモノクルを直しながら、ツバメが姿勢を正した。


「いえ、私が文字の話を始めたからなので……」

「あ、教材はもうお渡ししておきますね」


 ツバメはトランクから二冊の本を取り出すと、私の前に置いた。

 一つはこの国の言葉の教本、もう一つは問題集のようだ。


「ありがとうございます!」


 本を受け取り、汚してしまわないようにアイテムボックスの中に入れる。

 早速今日から、空いた時間に勉強しよう。


「では、話を戻しましょう。コタロウ様、武器はお決まりですか?」

「はい。グローブはこれ、剣はこれにします」


 虎太郎がカタログのページ捲り、ツバメに見せる。


「ほう。なるほど、なるほど。では、すぐにお渡ししましょう」


 そう言うと、トランクの中からカタログにある通りのグローブと剣を取り出した。

 あのトランクにはアイテムボックスと同じ機能があるようだ。

 ツバメがテーブルの上に置いたのは、黒のグローブと細身だが大きな剣だった。


「どうぞ感覚を試してください」

「はい」


 虎太郎はグローブに指を通し、付け心地を確認している。

 黒でデザインはかっこいいのだが、『グローブ』というより『手袋』で、しかも指が出るタイプなので殴ったら痛そうだ。

 あまり『武器』には見えないのだが……。

 そう思い心配していると、突然グローブが光った。

 そして、次の瞬間には拳を握っている虎太郎の手の上に二十センチくらいの魔法陣が浮かんでいた。


「何それ!」

「あ、これはね。魔力を拳に纏わせる武器なんだ。だから、普段はただの手袋みたいだけれど、戦う時はこういうモードになるんだよ」

「ええ! かっこいい!」


 ファンタジーらしさを感じる武器に、私は大興奮だ。

 グローブの光が消えると、虎太郎は次に剣を手に取った。

 重そうなのに、軽々と持って感触を確かめているのがすごい。


「……うん、いい感じ。これに決めます」

「承知しました。コタロウ様の御目に適う商品があってよかったです」

「グローブはもうつけていていいですか?」

「もちろん。では、ハナ様の武器はどういたしますか?」

「えっと、私は……」


 私は今まで、最初のレアドロップである短杖を使ってきた。

 虎太郎に譲って貰ったものだから、大事にしたいけれど……。

 魔法の効果が上がったりして、より安全になるのなら変更も検討したい。


「一色さんは、物理攻撃はしないから、魔法に特化した指輪や腕輪タイプでいいんじゃないかな」


 悩んでいると、虎太郎がアドバイスをくれた。


「つけていたら手ぶらでも魔法を使えるのね? それはすごくいい! できれば指輪がいいな」

「では、カタログのこの辺りから選んでください」


 ツバメは指輪が載っているページを開き、私の前に置いてくれた。


「奥村君、おすすめとかある?」


 可愛いのがいいが、やはり性能を最重視しなければいけない。


「そうだな……攻撃を受けると自動防御が発動するものがあれば安心かも……」


 虎太郎が呟きながら、私の前のカタログを見ていく。


「一色さん。デザインはどんなのがいい?」

「……できれば、派手過ぎないもので可愛いのがいいんだけど……」

「派手過ぎず、可愛い……か。シルバー系か……アンティークっぽいので、いいのがあったかも……」

「あ、アンティークのが気になるかも」

「分かった。ちょっと待ってね。こっちのページに……」


 虎太郎がページを捲っていくのを眺めながら、ニコニコしてしまう。

 樹里にあれこれ言われず、周囲の目も気にせず好きなファッションを楽しむのが夢だった。

 だから、この時間は楽し過ぎる!


「ふふ……指輪を選ぶ少年少女……微笑ましいですねえ。わたくしの幸福度が増します」

「「!」」


 ツバメの呟きに、私と虎太郎は停止した。


「ご、誤解を招くような言い方をしないでください!」

「すみません。つい、お二人が楽しそうだったので。ふふふ」

「楽しいですけど! そういうのじゃないですから」


 確かに私はとても浮かれていたけれど、虎太郎を巻き込むのは申し訳ない。


「え、えっと……さっき言っていたのは、これなんだけれど……。あ、自動防御もあるね」


 虎太郎も動揺しているようだが、ツバメに構わずに話を進めるようだ。

 私もそうしよう……。


 ページに目を向けると、確かにアンティークっぽい指輪があった。

 赤みのある金のリングに模様が一周彫り込まれている。

 模様は草と花をモチーフにしていて、花のところに小さなダイヤのような石がついている。


「これにします!」


 私の名前にある『花』があるし、見た目も上品で可愛い。

 一目惚れしたので、私は即決した。


「ハナ様が気に入ってくださるものが見つかってよかったです。……こちらですね」


 トランクから取り出した指輪をツバメから受け取る。


「サイズは勝手に調整されますので、好きな指につけてください」

「自動調整されるなんてすごいですね!」

「便利ですよね。わたくしのおすすめ左手の薬指です」

「元々私達がいた国では、左手の薬指につける指輪は婚約指輪とか、結婚指輪なんですけど、こちらでは違うのですか?」

「こちらでも同じですね」

「!」


 危ない!

 言われるがまま、薬指につけるところだった。


「ハナ様は愛らしいですから。変な男が寄り付かない様に、虫よけの意味でおすすめしたのですが……駄目でしたか?」

「あ、いえ……」


 さっき虎太郎と指輪を選んでいる時に、恋人通しが指輪を選んでいるような言い方をされたから、今回もそんな感じだと思ってしまったのだが……過剰反応だったか。

 ツバメはまだニコニコしているので真意は分からないが、気にしない様にしよう。

 あと、愛らしさとは無縁なのでそういった心配は無用です。


「武器だと、大体聞き手の人差し指につけるよ」

「教えてくれてありがとう」


 虎太郎の助言に従って、右の人差し指に付ける。

 こういった装飾品をつけるのは初めてなので感慨深い。

 自分の指に嵌る指輪を見てジーンとした。


「では、次は防具ですね」


 ツバメそう言うと、トランクからあらたなカタログを取り出した。


「では、コタロウ様から選んでいただきましょうか。何かご希望がありますか?」

「そうですね……諭吉が入るポケットが欲しいです」

「ぐぉ? ぐぉ」


 伏せていた諭吉が起きて来た。

 一緒にカタログを見るようだ。


「わたくしは、これなどおすすめですよ!」


 そう言ってツバメが開いたページには、さっき見た光輝の衣装より派手なコートが載っていた。

 白一色の上にギラギラした装飾が沢山ついているので、勇者というより――。


「異世界ホスト王……」

「…………っ」


 思ったことを呟いてしまったら、虎太郎がまた無表情で笑っていた。


「王! ホストとは何か存じませんが、王は良いですね! コタロウ様に相応しいかと!」

「奥村君は異世界でホスト王にな――」

「ならないからね? もっと地味なのがいいです」


 淡々と伝える虎太郎に、ツバメが残念そうな顔をした。


「そうですか? では、こちらのセットはどうでしょう。命中率と回避率が上がるので、性能はいいです。ただ、派手さがないのがわたくしとしはて不満で……」


 ツバメが開いたページには、オフホワイトと濃いブラウンで統一された全身コーデが描かれていた。

 シャツとズボン、ブーツはブラウンで、丈が長いオフホワイトのジャケット。

 大きめのベルトやジャケットのポケットはブラウンだ。

 落ち着いた雰囲気だが暗くなくて、私はとてもいいと思った。


「あ! これの女性用もあるので、ハナ様とお揃いにできますよ」


 そう言ってツバメが開いたページには、コタロウに進めたセットの女性用版が載っていた。

 男性用はズボンだったが、こちらはスカートに見えるハーフパンツにタイツだ。


「私、これがいいです!」


 今までは樹里に何か言われるのが嫌でジーパンばかりだったけれど、本当は可愛いスカートも履きたかった。

 でも、スカートだと色々気になるから、冒険には適さないと諦めていたのだが、これだと大丈夫だ。


「僕もこれにします」

「いいの?」


 私がこれに決めてしまったので、合わせてくれたのだろうか。


「うん。僕もこれが気に入ったから。諭吉が入れるポケットもあるし」

「ぐぉ!」


 諭吉も気に入ったようで、開いているページをペシペシ叩いている。


「では、試着してみますか?」

「はい!」

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