第20話 探索

 今作った青白結晶を使って、早速ギフトの魔法を集めたい。

 私達は村を出て探索することにした。

 歩きながら話を進める。


「あと、ツバメさんから買い物をするために、資金も増やしておきたいんだ」

「どうやって増やすの? 一緒にバイトでもする?」

「バイトは……しないかな」


 虎太郎が微かに笑う。

 つい、日本にいた時の感覚で聞いてしまったけど、さすがに今の状況で『バイト』はないか。


「魔物を倒して、ドロップアイテムを集めようと思うんだ。ツバメさんは買い取りもしてくれるから」

「なるほど。じゃあ、私の『運S』が役立ちそうだね」


 レアなものほど高く売れるだろう。


「そうだね。期待してる」

「うん! 『運S』を発揮できるように気合を入れてみるね!」


 気合でどうにかなるものか分からないけれど、ボーっとしているよりは効果がある気がする。

 レアなものをたくさんゲットして、資金を増やして少しでも虎太郎がいい装備やアイテムを買えるようにしたい。


 ……なんて気合を入れたけれど、三、四時間もすれば日が暮れる。

 村から離れ過ぎないように気をつけながら動かないといけない。


 今までは森の中にいることが多かったので、視界のほとんどが木だった。

 でも、今は見渡す限り野原が広がっていて、青い空がよく見える。


「見渡してみたけど……精霊も魔物も見当たらないね?」


 背丈が高い草や、いくつかある木や岩の陰に隠れているのかもしれないが、今のところ見当たらない。


「そうだね。確かに大物はいないようだけど、小物はいると思う。鳥系の魔物も襲ってくるかもしれないから、一応気をつけてね」

「うん!」


 返事をしながらも、ロールプレイングゲームのフィールドでウロウロしている時のような気分になり、わくわくした。


「気をつけて、と言ったけれど、僕は魔物を倒す方に神経を傾けるから、一色さんは精霊を探す方に集中しても大丈夫だよ?」

「ありがとう。ちゃんと自分の身は守るようにしながら、精霊を探すね」


 虎太郎がいて安心しているけれど、甘えすぎないようにしたい。


「ぎゃ!」

「ぐぉ!」


 芳三と諭吉も、「手伝うぞ!」と言っているようだ。

 二匹は私よりも戦力になることは間違いない。


「よろしくね。芳三と諭吉は奥村君の力になってね?」

「僕は大丈夫だから。一色さんを守るようにね」

「ぎゃー」

「ぐぉー」


 私達からお願いをされた二匹は、また手を押え合う遊びのフリを始めた。

 もうそれはいいから!


「あ。もう早速魔物が来たよ。空駝鳥だね」


 虎太郎が少し先の空を見ている。

 視線を追うと、羽ばたいている緑の鳥を見つけた。

 まだ百メートル程度離れているが、大きい鳥だと分かる。

 名前の通り、ダチョウの姿に似ているが、とても立派な翼で空を飛んでいる。 


 虎太郎は前にレアドロップした指サッ……じゃなくて、メリケンサックのような武器を使っているが、飛んでいる魔物にはどう対処するのだろう。


「一匹だけだからこれでいいか」


 虎太郎はそう呟くと、足元にある石を拾って投げた。

 すると、五秒程経つと飛んでいた魔物が空から落ちた。

 早すぎて見えなかったが、虎太郎が投げた石が魔物を直撃したらしい。


「すごい……」

「周りに人もいないし、こうするのが一番早いかなと思って」


 私は「ほえー」と感心しながら、魔物が落ちた地点まで急ぐ虎太郎のあとを追った。

 魔物は一撃で倒れていたようで、墜落地点にはドロップアイテムが三つ落ちていた。


『緑冠の羽』『黒鳥肉』『再生卵』


「すごい……。やっぱり一色さんがいるとレアドロップになるね」

「あ、レアだった? よかった!」


 気合のおかげか、『運S』の力はちゃんと発揮できたようだ。


「上級ポーション系の素材もあるね」

「そうなんだ?……あ」


 虎太郎のそのセリフで思い出した。


「奥村君。薬師さんにアイテム作りを教えて欲しい、ってお願いするのは失礼かな?」

「薬師? あー、病院にいた女の人か」


 虎太郎も病院にいたアンナのことを覚えていたようだ。


「そう! 何かこちらの世界の知識を身に着けたいの。回復アイテムを作ることができたら、何かあったときに役に立ちそうだと思って」


 もちろん、こちらの世界の文字も覚えるつもりだ。

 これから生活していかなければいけないのだから、文字の読み書きも必要になるだろう。


「うーん、弟子入りしないで知識だけ欲しいとなると、怒る人もいるかも……。でも、素材が手に入らないって話をしていたから、素材を提供する代わりに基礎だけでも教えて貰うとかならできるかも……?」

「素材がないって、そういえば言っていたね。じゃあ、そういう方向で交渉してみる」


 私は何か頑張れるものをみつけたい。

 もちろん、精霊のギフト集めに励むつもりだけれど、自分の力で何かを身に着けることをしたいのだ。


 今のところ、魔法も覚えることができて冒険は順調――。

 でも、順調過ぎると不安になる。

 あとから苦労するような気がして、何か努力していないと落ち着かない。

 そうだ、今からでも体力作りをしようか。


「奥村君、私……走っていいかな!?」

「いいけど……急にどうして?」

「体力作りしたいな、と思って。あ、奥村君は普通に歩いていいよ! 奥村君の近くをうろうろ走りながら追いかけるから」

「…………っ。それは移動しにくいんじゃないかな? 僕も走るよ」


 また無表情で笑いを堪えた虎太郎が、ゆっくりと駆け出した。

 確かに、歩く虎太郎の周りを走り回るなんてほぼ不審者……。


 虎太郎に続き、私の肩から飛び降りた芳三も走り出した。

 思っていたよりも動きが速い。

 私も負けていられない……!


 ※


「ごめんねっ、つきあわせ、ちゃって」


 呼吸に気をつけながら、私のペースで走らせて貰う。

 狭い歩幅でゆっくり走っているから、足が長くて歩幅が大きい虎太郎にとっては、徒歩と変わらないかもしれない。

 それでも、一応ジョギングスタイルで私に合わせて走ってくれている。


「構わないよ。一色さんは病院で魔法を使ったけど、体力は大丈夫?」

「うん! 日本に、いた頃より、元気な、気がする! ぶわっ!?」

「一色さん!?」


 突然足に何か引っかかり、思いきり転んだ。

 コントのようにバタンと前に倒れてしまった……。

 ……でも、不思議だが痛くない。


『ふふふ』

『ぷぷぷ』


 地面にうつ伏せになっている私の前に、十センチくらいの小人が二人現れた。

 いや、小人……と言っていいのだろうか。

 頭部が白い花玉で、胴体が葉っぱのドレスのようなものだ。

 あと、手が蔦で、ドレスの中からは長い蔦が出ていて……それが私の足に引っかかっていた。

 私を転ばせて笑った?


「精霊さん……よね? あなた達が悪戯したの?」


 転んで伏せたまま聞いてみると、謝罪の意味なのか小さな白い花を渡してきた。


『ごめんね。わたしたちにきづかず、いっちゃうから』


 ……可愛いから許す。

 私達を呼び止めたくて、こんなことをしたようだ。

 それにしては楽しそうに笑っていたのが気になるが、転んでも痛くない様に配慮をしてくれていたようだし、精霊と交渉のチャンスを逃すわけにはいかない。

 私は青白結晶をサッと取り出すと、精霊達に話し掛けた。


「これあげるから、ギフトをくれないかな?」


 ……と言いながら、手順はどうだったっけ? と思い出していたのだが、精霊達はすぐに食いついて来た。


『いいの? いいの?』


 そう聞きつつ、すでに精霊達の蔓の手は青白結晶に巻き付いている。


「どうぞ」


 クスッと笑いながら頷くと、青白結晶はすぐに消えた。

 それと同時に、ギフトを貰った時の感覚が私を包んだ。

 すぐにステータスを確認すると、魔法が三つも増えていた


『花穂の檻 new』『白花の揺り籠 new』『黒棘の抱擁 new』


 魔法の名前がおしゃれ! 可愛い!

 どういう魔法なのか一つずつ見ていく――。


『花穂の檻』は欲しかった防御の魔法で、『白花の揺り籠』は睡眠攻撃。

『黒蔓の抱擁』は、棘の蔓で敵をホールドし、体力を吸収。

 吸収した体力でホールドを一層強めて、更に体力を吸収――というループをして、じわじわ命を奪う魔法らしい。これは怖い……。

 でも、とうとう私も攻撃手段を持つことが出来た。


「精霊さん。とっても素敵なギフトをありが――」


 お礼を言っている途中で、精霊達の姿が変わり始めた。


「え? え?」


 手のひらサイズの大きさだったのに、見る見る大きくなり、私達と同じような背丈の人型になった。

 緑色の長髪と肌。頭に大きな白い花をつけた、綺麗な女性が二人――。


「……って、それは駄目! 胸、隠して!」


 下半身には、小さな時の名残なのか葉っぱのスカートのようなものを穿いているが、上半身は裸だった。

 私は虎太郎に見せてはいけないと思い、慌てて彼の目を押さえた。


「見ちゃ駄目ー!」

「えっと……一瞬で消えたから、もういないはずだと思うけど……」

「え?」


 虎太郎に言われて振り返ると、確かに精霊達の姿は消えていた。


「あ、ごめんね」


 慌てて虎太郎の目を押さえていた手を離した。

 見てはいけない、というか……見せたくなくて、つい勢いよく、くっついてしまって申し訳ない。

 恥ずかしいことをしたな……と反省していたら、諭吉が虎太郎の肩に上り、胸ポケットにいる諭吉の顔を押さえて遊び出した。

 私達の真似が二匹の間で流行っているようだ。


「もう、そういうのはいいの! 今の精霊さん、進化したのかな? こういうのはゲームでもあった?」

「……ない」



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