第18話 私の魔力の結晶

 ツバメが去ったあと、私と虎太郎は村に一軒しかない宿に案内して貰った。

 宿というより民宿のような平屋で、城の部屋より身近に感じて落ちついた。

 現在この村を訪れる人はあまりいないようで、客は私達だけだった。

 部屋は好きなところをどうぞ、と言われたので、玄関から一番近い部屋の二つを借りた。

 旅で自分だけの個室を取るなんて初めてだからわくわくする!


 少し一人でのんびりした後、再び虎太郎と合流してお昼ご飯を食べることにした。

 ありがたいことに、もうおやつの時間なのに宿でお昼ご飯を用意して貰えたので食堂に行った。

 

 ご飯のメニューは、日本の回鍋肉のような料理とナンのようなパンだった。

 お城でもそうだったけれど、元の世界と食文化にあまり違いはないようだ。


 組み合わせは謎だけど、どちらも美味しい!

 虎太郎もとても気に入ったみたいで、黙々と食べていた。

 芳三と諭吉にもあげようとしたのだが、二匹は食べなかった。

 食べてはいけないものだったのだろうか。

 ドロップアイテムとして持っていたリンゴのような果実も食べなかった。

 お腹が空いていないか心配だ。


 虎太郎と相談して、このあと出かけた時に、二匹が食べられそうなものは食べるかどうか試してみよう、ということになった。


 完食してお腹が満たされたところで、お茶を頂きながら今日の出来事を振り返る。


「ツバメさんも、村の患者さんもみんな治ってよかった。一色さんの回復魔法すごかったね」

「すごいのはギフトをくれた諭吉だよ。ありがとう」

「ぐぉ」


 改めてお礼を言うと、テーブルの上で楽にしている諭吉が得意げに頭をあげた。


「ふふっ。あ、ねえ諭吉。奥村君にもギフトをあげられないの? 回復魔法があると心強いと思うんだけど……」


 確かまだ回復系は覚えていないと言っていた。

 一緒に旅をする私が覚えているのだから大丈夫だと思うけれど、一時的に別行動を取る場合もあるかもしれない。


「ぐぉ……」


 諭吉が申し訳なさそうな声で鳴き、首を横に振っている。


「多分、僕とは相性が悪い魔法なんじゃないかな」

「そっか……。ごめんね、諭吉。無理言っちゃって……」

「ぐぉぉ……」

「ぎゃ!」


 項垂れている諭吉の隣で、芳三が得意げに頭を上げた。

 その瞬間、淡い青い光が虎太郎を包んだ。


「え、何!?」

「……あ。芳三がギフトをくれた……」


 虎太郎はステータスを確認したようで、芳三を見て驚いている。


「きっと諭吉の代わりにくれたんだね。どんな魔法?」

「『蒼炎の渦』だって。火の攻撃魔法だね」

「なんだかすごそうだね!」

「……うん。すごい魔法だ。でも、どうして芳三が……?」


 虎太郎にジッと見られた芳三は、嬉しかったのか尻尾をブンブン振っている。


「あ! 攻撃魔法と言えば……奥村君かっこよかったね」

「?」


 私の言葉に心当たりはないようで、虎太郎はきょとんとしている。


「ほら、褐色異世界版星野君みたいな人いたじゃない?」

「…………っ。確かにそんな雰囲気だったね」


 褐色異世界版星野君が少しウケたらしい。

 虎太郎の笑いの沸点は案外低いような気がしてきた。


「その時に脅して使っていた火の魔法! あと、『冷たいなら温めましょうか?』ってセリフの時も最高にかっこよかった!」


 ビビる悪者を圧倒的な力で制す勇者、みたいで素敵過ぎた。

 ちらりと見えた表情もキリッとして凛々しかった。

 今思うと、推しのライブを見ているようなトキメキがあった。


「忘れて」

「?」


 妙にくぐもった声だと思ったら、虎太郎は両手で顔を覆っていた。

 何をしているのだろう……。


「奥村君?」

「記憶を消して」

「奥――」

「忘れて」

「お――」

「記憶を消して」


 虎太郎が特定のワードしか言えない壊れたおもちゃのようになっている……。


「……もしかして、照れてる?」


 よく見ると、隠しきれていない顔や首まで赤い気がする。


「一色さんに酷いことをしようとしてるのが許せなくて、カッとなって……。今思うと……どうしてあんな……消えたい……」

「消えないで!!」


 ……なんて止めつつ。

 そんなことを言われると、私までカーッと熱くなってきた。


「えへへ。怒ってくれてありがとう」

「……うん」


 私も照れてしまい、誤魔化して笑う。

 虎太郎は落ち着いてきたのか、顔を見せてくれたが、まだ全体的に血色がいい。

 私もそうかも……。


「あ、そうだ。魔力の結晶を作る練習をしてもいい?」


 恥ずかしい照れ空間を払拭するために、私は新しい話題を出した。


「あー……うん。早くやっておいた方がいいね」


 ここは食堂――食べるところだから、今は人がいないとはいえ、騒ぐのは申し訳ない。


 私達は外に出て練習するとこにした。



 ※


 虎太郎と私は、村の外れの人目がないところで練習を始めた。

 木陰にみんなで腰を下ろし、虎太郎の話を聞く。


「最初は僕の結晶を使って、結晶を作る感覚を掴もうか」


 そう言う虎太郎から、綺麗な青色の魔力の結晶を受け取った。


「手に握って、結晶に集中してみて」

「……うん」


 言われた通りに結晶を握り、目を閉じる。

 そして、手の中にある結晶に神経を尖らせる。


「上手く集中出来たら、結晶が熱を持っているように感じるはずだよ」


 虎太郎の言葉を聞きながらも結晶に集中し続ける。

 何も考えず、ひたすら結晶だけを意識する――。

 それをしばらく続けていると……。


「……あ……温かいかも……」


 気のせいかと思ったけれど、その感覚は段々確かなものになっていった。


「その温かさを例えるなら何になる?」

「例えるなら? うーん……焚火……かなあ」


 思い出したのは……。

 私がまだ子供で、祖父母の家の庭で落ち葉を集め、焼き芋をした時のこと――。


 最初は祖父芳三と二人で始めたのだが、アルミホイルに巻くのを忘れて焼いたから、さつま芋がただの炭になっちゃって……。

 祖母とお母さんに笑われながらやり直し、二度目は成功。

 家族みんなで焼き芋食べながら見た、あの時の焚き火の温かさに似ていると思った。

 そして、昨日の夜に虎太郎が手際よくつけた焚火の温かさもそうだ。


「じゃあ……その焚火を一色さんの手の中にも作るようなイメージをしてみて」

「……やってみる」


 家族みんなで見た焚火……虎太郎が作った焚火……。

 温かくて、優しくて、ちょっと泣きたくなるような――。


「あ、熱くなったかも……!」


 はっきりと分かる変化に驚いた。

 思わず目を開けて虎太郎を見る。


「感覚を掴めたようだね。もう、手を開いていいよ。次はその感覚を何も持たずに起こして……。……え?」

「? あ」


 握っていた手を広げると、青に白の模様が混じった結晶があった。

 虎太郎の結晶は青一色だったはずだ。

 ……私、結晶作りじゃなくてマジック習得しちゃった?


「僕の結晶に、一色さんの魔力が混じった……?」

「結晶って混じるんだね……?」


 魔力の結晶は合成できる――?

 これは虎太郎も新発見の出来事らしい。


「ぐぉ」

「うん?」


 諭吉は興味あるのか、頭を必死に伸ばして私の手を見ようとしている。可愛い。


「見せてあげるね」


 諭吉がしっかり見えるように手を下ろした。

 すると――。


「ぐおっ!!」

「あ。ああああ!?」


 私の手にある結晶を、諭吉が食べてしまった!

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