第53話 薬の生成します


ジギタールは、薄紅色の花を原料とする毒だ。その発色のよさから、化粧品に混ぜ込まれた粗悪品が前にクロレルシティでは出回っていた。


その言葉に、メリリは目を何度かまたたいたのち、言葉に詰まりながら問う。


「ど、毒? アルバ様、セレーナ様、それってどういう……」

「場合によってだけど放って置いたら、死ぬわ。それくらいの猛毒よ」


それを聞くや、あわあわと震えだして、勢いよく真後ろへと倒れこんだ。


「おい、メリリ!」


俺は彼女の腕を引いて身体を揺すり、すぐに声をかける。

が、さすがは鑑定士だ。セレーナは寝起きでも冷静だった。


「大丈夫。さっきも言ったけど、毒自体は遅効性。見たところ、塗ってからまだ大して経ってないわ。最初はそこまでの症状は出ない。これは……精神的ショックのせいよ、きっと」

「そ、そうか。メリリは態度に出やすいもんな。でも、どうすればいいんだ。遅効性と言ったって、そこまでの猶予はないだろ」


「そうね、あと1時間やそこらかしら。でも、危険なのは変わりないわ」

「とりあえず、俺は解毒ポーションを作る材料を探しに行く。たしか、アカザの葉が有効なんだったよな」

「そうよ。……どうしてそれを?」

「えっと、一般知識だよ」


本当は直接視察に行き、そこで聞いたわけなのだが、今はそんな弁明をしている場合ではない。


セレーナに見ていてもらって、すぐに家を飛び出す。


まず向かったのは、ブリリオとフスカのいる小屋だ。


『こんな時間にいかがした、アルバ殿』

「今すぐアカザの葉が欲しいんだ。葉の一部が赤い野草なんだが……どこにあるか分かるか」

『それならば、我らが知っている。案内してしんぜよう』


やみくもに探すよりは、この周囲の森のことを知り尽くしている彼らに頼む方が効率的なのは間違いなかった。


すぐに姿勢を低くかがめて、乗りやすい体勢を取ってくれていたブリリオに俺たちは乗せてもらう。

そうして、フスカともども森の中へと駆けだした。


彼らのおかげもあり、それはすぐに見つかった。


『ここらでは、あのあたりがもっとも群生している場所だ。ここを除けば、数はそう多くない。だが……』

「まったく。なんだって、あんなところに」


――ただし、それがあったのはハチ型の魔物・グランペスパが巣をなしている真下である。


焼き払うのは簡単だが、普通のハチに比べてかなり体長が大きく、人間の顔ほどの全長をしているのがグランペスパだ。かなり大きな巣が、大樹から釣り下がっている。


本音を言えば、焼き払って駆除をしたいくらいだった。

性格はかなり攻撃的で、かつその毒はかなり強力。しかも、加速度的に数を増やすとされる厄介者なのだ。


だが暴れられることで、アカザに引火してしまったら本末転倒である。



慎重さは求められる。だが、そこまで悩んでいる時間もなかった。


「ここまできたら直感でやるしかねぇな」


詠唱なんかをしていたら間に合わない。

俺は土属性魔法により、その巣の周りに壁を錬成する。さらには、それを高く高くと天へ向けてのぼらせる。

壁の内側でさっそくグランペスパが羽音を立て始めるが、それより先に土壁に蓋をすることで、奴らを中へと閉じ込めた

そして、その天井から、火属性魔法・『火雨』(なんか火の粉ふらすやつ、と俺は覚えている)を見舞う。


「ふぅ、こんなもんか。よし急いで採取しよう」

『……一瞬の組み立てでここまでとは。天才であるな、アルバ殿は』

「いいや、俺一人ならどこにアカザが生えてるかすら分からなかったんだ。恩に着るよ」


俺は採取を終えると、グランペスパたちが全滅していることを確認したのち、すぐに引き返す。


そうして戻ってくると、メリリは、さきほどより少し顔が赤くなっているし唇の腫れもひどくなっていた。

俺はそれを横目に、セレーナに加工方法を尋ねながらポーションを用意すると、彼女の口元をぬぐう。


「アルバぼっちゃま、あれ、あたし……」


なんとか、処置は間に合ったようだった。

急いでいたため、逆にかかった時間のことを気にできていなかったのだが……


「早すぎよ、アルバ。余裕があったわ」


セレーナによるとまだ初期症状程度の段階で、とどめることができた。

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