第31話 臨時屋台で修理屋開いて荒稼ぎ!


街の中での目的は、食料を手に入れることと、『有形創成』にあたり必要となる材料を手に入れるため、という二つが主な物だった。


村人たちはこれまで、魔導具から得た部品などを遠方から来た商人などに売り、食料などに変えていたというが、まどろっこしい。

どうせ街に行くなら、一気に手に入れてこようと考えたのだ。


しかし、その元手となるべきお金はほとんど所持していない。

なぜなら、そんなものを持っていても現物でのやり取りしか行うことのできないトルビス村では意味がないからだ。


まずは手っ取り早く、お金を作るところから始めなければならない。


その点は、セレーナが準備をしてくれていた。


「これをくすねておいたのは大正解ね」


出店を催す、という形で。


彼女が得意げに掲げてみせるのは、出店権利書だ。


例の悪徳役人たちから頂戴してきたものである。もともと彼らは、薬草類の販売をなりわいの一部としていた。


街を訪れた際には、出店を開くこともあったのだろう。


この権利書を持っている人は誰でも、臨時店舗に空きがあれば一時的に店を設けることが許される。

身分確認は近くにいた人に代理をしてもらい、代わりにこれまた奴らからいただいた薬草を譲った。


出店するまでの方法は決して褒められたものではないが、門の検閲を受けずに壁を越えて侵入した時点で今さら気にすることはない。


むしろ、お金を手に入れるにはもってこいだ。


「それで、どんな店をやるんだ?」

「そうね。修繕屋兼鑑定所なんてどうかしら。あなたがものを直して、その裏では同時に魔導具やその人自身の鑑定も行う。これなら、私たちがベールをかぶってても不思議に思われない」


「なるほど、たしかにおかしくはないけど、近寄りがたくないか? 客0人で終わりたくはないな」

「その点は、一人来てもらえば解決するわよ。自信があるわ。あなたの腕も、私の腕も含めてね」

「……そういうことなら、最善を尽くすよ」

「ふふ、そうこなくちゃね」


二人、開店準備を進める。

近くで出店を開いていた人からは好奇の視線にさらされることとなったが、こういう時は意識しすぎないことが肝心だ。


妙に挙動不審になれば、逆に怪しまれる。

少しでもボロが出てしまえば、そこら中に張り巡らされた手配書の似顔絵から一発でばれかねないのだ。


堂々と営業するのがもっともいい。


『・修理一回 1000ウェル

・鑑定一回 1000ウェル 

 ・セット 1500ウェル』


それを意識した結果、誰でも明確に値段の分かる価格表を掲示した。


ちなみに修理は安いところで2000ウェル、鑑定も同じくらいすることを考えれば破格の設定だ。

堂々と店を構えて待っていたら……


「あの、すまない。横の店のものなんだが、どうにも今日は魔導灯の調子が悪いんだ。


きた。


彼はそう言うと、魔道灯をカウンターに置く。


「なんだ、これくらいですか」


思わず、口走ってしまった。


捨てられるほどにはっきりと壊れたものばかりを見てきた俺にしてみれば、むしろ綺麗すぎるくらいに見える。


「これくらい、だと? そんなに簡単に直せるのか?」

「えぇ、問題ありませんよ。私に任せてください。すぐに取り掛かりますね。それと待ち時間はよろしければ、鑑定でも受けていきませんか?

 物でも能力でも体調でも、見ることができますよ」


修理だけでなく、鑑定の売り込みも忘れてはいけない。

魔導灯を受け取りながら、提案する。


この二段構えで、より多くの利益を生めるようにするのが今回のコンセプトだ。


「しかし俺もお店が……」

「まぁまぁ、すぐ終わりますよ。鑑定士による査定がこの価格は特価ですし、セットなら大特価ですよ」

「そ、そういうことなら構わんが」


男性は迷いながらも、俺たちの思惑通り、セレーナに導かれて奥のテントの中へと入っていってくれる。


それを見届けてから、俺は後ろに設らえてあった作業台へと移った。


見たところ、どうも魔力の流れる線が切れていたらしい。


俺は修繕魔法を使い、それを元の状態へと戻す。

ボタンを押せば、無事にあかりが灯った。


あの盛大に壊れた魔除け柵を直したことを思えば、これくらいの破損は朝飯前だ。


一方テントの中、セレーナの鑑定はと言えば……


「この腕輪にそんなに価値があったなんて知らなかった……。親父の形見なんだ」

「魔法攻撃から身を守る仕組みもある魔導腕輪は貴重です。どうぞ、大切になされてください」


こちらも満足いただけたようであった。


頬を上気させて嬉しそうな顔をして出てきた彼に、俺は修繕した魔導灯を渡す。


彼は目を瞬いてそれをまじまじと見つめると、やがて興奮したように言う。


「え……。今のこの一瞬で、本当に直ってる……!? どうやって……」

「それくらい軽い破損だっただけですよ」

「それにしても、元より明かりが強くなる調整なんて出来ないだろ! 何者だ、あんた!?」


この質問が飛んでくることは、想像がついていた。

だから、返事も用意してある。


「ただの旅の修理屋ですよ」


少し恥ずかしかったが、うん。噛まずにナチュラルに言えた。


本当は、罪を着せられみんなに忌み嫌われる落ちぶれ貴族なんだけどね?

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