第27話 兄の統治する因縁の街クロレルシティへ出向く。

トルビス村に新しい仲間が加わった翌日――。


本当なら歓迎会でもして、楽しい日常を過ごしたいところだったのだが、諸事情のあった俺たちは村を離れていた。


しかも動き出したのは早朝だ。

正直めちゃくちゃ眠かったし、疲労の限界だったのだが、今回ばかりはしょうがなかった。


『どうだろう、アルバ殿。乗り心地は問題ないか』

「あぁ、快適だよ。睡眠時間が足りなさ過ぎて、なんなら今に寝そうだ……。馬車よりもよほど速いし、揺れも感じにくい。セレーナもそう思うだろ?」

「そうね。これなら、アルバも快適なんじゃないかしら」


乗っているのは、ブリリオの上である。


昨日、「移動手段として使ってくれていい」と言っていたからさっそくお願いしてみたのだ。彼にとっては、人が数人乗るくらい、どうということはないらしい。


なんなら、まだまだ余裕だと息巻いていた。


そうして向かう先は、因縁ある兄の名を冠したクロレルシティ。一ヶ月ほど前まで、クロレルと入れ替わっていた際には、中心となって統治していた街だ。

馬車ならば2日程度はかかるところだが、ブリリオに乗れば約6時間程度の距離にある。


訪れる理由は、いくつかあってその一つは罪人たちの処分だ。

村には刑務所なんて施設は当然のようにないし、こんな輩を引き受けて居たくもない。


「……でも、どうするの」

「なにか考え事でもあるのか、セレーナ」

「この人たちを引き渡すのは賛成よ。でも、私たちだって十分お尋ね者。どうやって街に入るの。それも、クロレルシティなんて」


たしかに、セレーナの言う通り、クロレルが俺の身体を使って働いた悪事のせいで、街での俺の評判は最悪だ。

不本意でこそあるが、村では救世主だとか勇者だとか呼ばれていることを考えれば、真逆といっていい。


俺と気づくだけで、騒ぎ立てる奴もいるだろう。


しかも、領主である父は、俺に街へ来ないよう言いつけられていた。もし知れ渡れば、面倒な事態に発展することは間違いない。


そしてセレーナもまた別の意味で、追われる身だ。


「まだこの村には追手が来てないけれど、私はクロレルの婚約者という立場も、あまつさえ貴族の身分も捨てて逃げてきた。

失踪人として捜索をされていてもおかしくないわ。一応目隠しベールは被ってきたけど、このままじゃ門を通過できない」

「それを言うなら、ブリリオもだな。幻と言われる聖獣、変な奴に目をつけられる可能性ありありだ」

「私たちって、街に行くにはとっても向いてないわね。でも街に入れる身分なのは、私たちだけだから仕方ないのかしら。……もしくは」


セレーナは、後方、ブリリオの背に作った荷物台に縛り付けた男たちの方へと目をやる。


男たちはまだ意識を取り戻していない。

が、万が一そうなった場合の対策として布をぐるぐるまきにして目を隠し、『有形生成』で作った耳栓をつけさせた状態で、捕えてあった。


そして昨日彼らを倒したときは、『縮地活歩』を使ったため、ものの一瞬だった。

顔を見られていない自信がある。


つまり、彼らは俺たちの姿をいっさい見ていないので、彼らを俺たちがどう扱おうとセレーナの存在やらを証言される心配はない。


「この者たちの身分証だけ拝借するのはどうかしら。それでこいつらは、門外の脇に打ち捨てておくの」

「……貴族の令嬢らしからぬ発言だな、ほんと」

「あら、褒め言葉かしら」


まあ、一か月程度ほぼ毎日思っていることだから今さらなんだけど。


「そもそも、その場合ブリリオはどうするんだよ」

「ブリリオのことは、少し毛皮でも被せて変わった馬だと言い張りましょう。一部の者以外は気づかないわ」


セレーナはさも自信ありげに言う。

つっと光り輝く顎を上げて、背筋を軽く反らした美しい姿勢で言うものだから、それらしく聞こえてしまうが、さすがに無茶だ。


それに身分証をいただいたところで、年齢や性別のずれまでは誤魔化しきれるかどうか定かではない。


だが、そのあたりはまるっと全て織り込み済みであった。なぜなら数か月とはいえ、クロレルシティを統治していたのだから。


そのために、俺はあえてクロレルシティを来訪先に選んだのだ。


「まぁもっと安全な方法があるから任せておいてくれよ、そのあたりは」

「そう。アルバがそう言うなら、一任するわ。そもそも念のため聞いただけだから」

「そうだったのか?」


「えぇ、本当になにも考えがないのだったら、さすがに反対していたけれど。そうじゃなければ、私はあなたにどこまでもついていくだけよ。最初に言ったでしょ、アルバについていくって。たとえそこが、牢屋でもね」

「……おいおい、不吉なこと言うなよ」

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