第26話 俺に飼われたいらしい。
「…………名前。それをつけたら、どうなるんだ?」
『どうにもならぬ。ただ、ここに留めてくれるのならありがたい。
ここ最近、と言っても100年ほどだが。人間と争ってばかりいた。我が妻もその抗争の中で殺された。もうこのような目には、会いたくはない』
その過去を聞いて、胸が締め付けられて俺は舌を噛んだ。
たしかに、今回は助けることができたが、幻の存在たるサントウルフを狙う輩は多い。
たとえば二匹をここから放てば、またすぐに捕まる可能性もある。
その兇刃から彼らを守るため、逆にこの村を守護してもらうためにも、それはいい提案ではあった。
だが、独断では決められまい。
「このサントウルフがここにいたいって言ってるんだけど、いいでしょうか」
俺がこう尋ねると、セレーナはこともなげに首を縦に振る。
村人たちは「食費が……」などの賛否はあったようだが結果的には「アルバさんが言うなら」と賛同してくれた。
「ここにいていい、ってさ」
俺はそれをサントウルフに伝える。
『ありがたい限りだ……。この恩は必ずやお返ししよう。なんなりと私に申し付けるがいい。移動だろうが、なにだろうが買ってでよう』
「はは、そんな重い話じゃないっての。逃げたくなったら、すぐに逃げていいからな。変な束縛はしないし、見世物にも売り物にもしないと誓うよ」
『なんとも器量が大きい主よ。……それはそれとして。例の話はどうなった』
「え、なにが」
『名前のことである』
サントウルフは、言うやいなや鼻息を荒くする。それだけで村人が数人ふらつくような勢いだ。
どうやら、かなり期待されてしまっているようだった。
ならば期待に応えないわけにはいかない。
俺は熟考をしはじめるのだが、そもそも命名センスがないらしい。
まぁね? そもそもフスカの名前だって半分は、セレーナが考えたものである。
「えっと……、じゃあえっとブリリオ……とか? 光を発する魔法の一つなんだけど、どうだろう」
どうにか、ひねり出したのがこれであった。
デカモフとか、ウルルとかよりはよっぽどましだろう、うん。
『良い名前であるな。気に入った。私はブリリオだ。そなた、苗字はなんという?』
「俺か? 俺は、アルバ・ハーストンだ」
『そうか、うむそれもよい名前だ。これから世話になるぞ、アルバ殿』
「俺たちのほうこそ、よろしく頼む」
俺は彼を見上げて、手をさしのべる。
すると、俺のそれよりずっと大きな前足がそこに乗せられた。
その背後では、村に新たな仲間の加入を祝うかのように、そして狼と人間のこれからの関係が良好になることを予兆するかのように、満月が光り輝いていた。
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