第28話 妻です(大嘘)。

そうして話もまとまり、ブリリオに走ってもらうこと1時間ほど。


俺たちは、目的地であるクロレルシティのすぐ近くまでたどり着いていた。


ただし諸事情で、正門からの正面突破はできない。


まず門からほど近い道に、例の役人たちを打ち捨ててから(丁寧に、罪状を記した紙を張り付けておいた)、さらに脇へと回り込んでいく。


クロレルシティは、横に4キロ、縦に6キロとかなりの大きさを誇る街だ。

その分、外周を囲む壁も同じだけの長さがあって、その一部は森林を削るようにして築かれていた。


そこまでくれば、人気は皆無だ。深い森の中に小屋が一つあるのみである。


「こんな場所があったなんて知らなかったわ。結構脇に逸れたわね」

「普通来るような場所じゃないからなー」

「それで、どうしてこんな場所に?」

「あの小屋に俺の知り合いが住んでるんだ。信頼のおける人間だから、安心していいよ」


俺はセレーナとブリリオを案内し、その小屋を訪ねる。


朝方9時頃だ。まだ家にいる時間帯だろうと思っていたが、思った通りだ。中からは生活音が聞こえてくる。


戸を叩くとすぐに野太い声で返事があって、中からは目つきの悪い大男が出てきた。


なりだけ見れば、例の悪徳役人よりよっぽど悪い。


「誰じゃおめえら、こんな場所になんの用……って。おいおい、アルバさんじゃねぇか! どうしたよ、急に!」


だが、これが存外に気さくで心を許せる友人なのだ。

向けられる笑顔はどうも暑苦しい感じもするが、そこに邪気は一つもない。


建築業を生業としている、ダイさん。

過去にはハーストンシティで、お屋敷の改築を担当してくれていて、俺が15の頃に出会い、『有形創成』による構築魔法の参考にするため色々と聞いているうちに親しくなった。


腕利きであり、今もひっぱりだこの彼だ。

お金は稼いでいるはずなのだが、彼曰く「親の代からここの住んでいたから」という理由で、ハーストンシティの外で暮らしている。


「で。まじでどうしたんだ、アルバさん。べっぴんさんに加えて、大きな犬まで連れて。あんたたしか、魔力を持ってなかったことの腹いせにハーストンシティで暴れて、追放されたんだろ?」

「まぁそうなんですけど、今日はどうしても街に用事があるんです。だからこの子を今日数時間だけ預かってほしいんですが……」

「はは、構わんよ。作業場にスペースだけはあるからな。にしても大きな犬だなぁ」

「実は狼なんです。サントウルフのブリリオです」


俺は思い切って言ってしまう。

一瞬ぴくと眉が動いたが、


「はは、そりゃあいいや。幻の存在を味方につけるなんて、実にアルバさんらしいじゃないか。今日はよろしくな、ブリリオ」


と、さっそく受け入れてくれたうえ、ブリリオとも交流をはかる。

うん、こういう人なんだよね、ダイさん。


ほぼまったく細かいことは気にしない、その一方で義理堅い。

実際すぐに作業場へと案内してくれて、ブリリオのごはんとして鶏肉やキャベツ、リンゴまで用意してくれる。


『うむ、快適である。では、ここでしばらく待たせてもらう』


その好待遇に、ブリリオも機嫌よさげに見えた。


そうして預かってもらったあと、俺とセレーナは家の中へとあげてもらう。


「あなたは、アルバさんのお嫁さんか?」


席に着くなり、こう切り出すから少し困った。

少なくとも、彼女は立場上はまだ兄・クロレルのお嫁さんだ。


正直心は痛むが、こればかりは彼にも言えないトップシークレットである。

さて、どう答えるのだろう。うまくごまかしてくれよ……! そう思いながら待っていたら、


「そう、アルバの妻です。セリと呼んでください」


さすがは、セレーナ。しっかりと対処をしてくれた。

『妻』という言葉にどきりとしたのは、また別の話だ。


「いやぁ実にお似合いのカップルだな、お二人は」


ダイさんも、あっさりとそれを受け入れる。

おもてなしを受けつつ、しばらくは昔話に花が咲いた。


そしてその後、


「そういえば、街の中はひどいことになってるんだが知ってるか?」


話はクロレルシティの現状へと移った。

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