第3話 クズ兄の無能政治により崩壊した街を3か月で立て直す。


だが、俺としてはそれでは困る。

クロレルには有能であって、俺の変わりに次期領主として立派に務めてもらわなくてはいけないのだから。


俺は、自分の自由気ままで幸せな未来に投資をする意味も持って、それら全てにてこ入れをしていった。



まず取り組んだのは、家臣たちの入れ替えだ。

クロレルは自分に反対するものはすべて解雇して、周りを「はい」としか言わない従順な人間たちで固めていた。


それを一新したのだ。


「クロレル様、街の経済活性化の案ですが、明らかに税のかけすぎで生活苦が起こっております。ここは一つ、税の引き下げを行うのはいかがでしょうか」

「うん、それがいいかもしれないな。それと、子供が生まれた家庭には給付金を出そう」

「して、財源のほどは?」

「屋敷にある無駄な家具を売るといいさ。それと、亜人排除計画は今すぐ中止にしてくれ。人件費をかけるだけ無駄だ」


経済、福祉、防衛と、その分野に精通している人間を公民問わずに集めた。


なぜ先に人から替えたかと言えば、俺とクロレルの入れ替わりがいつ解けても、サポートする家臣たちが有能なら政治は崩壊しないと踏んだためだ。


こうして俺は次々と、クロレルの発案した無能きわまりない政策の変更を断行した。

元がひどすぎたこともあろう。

その成果は短期間でも、みるみるうちに上がった。


やがてクロレルシティの中心街を歩けば、


「おぉ、ご成長目覚ましい次期領主候補! クロレル様だ! わたしはこの街の名前が誇らしいよ」

「あれが……! 容姿までお美しい! 雰囲気があるわ」


こう言われるまでに評判は回復していた。


それは貴族社会でも同様だ。

社交の場でも徹底的に善人として振る舞い、次期後継者としての立場を確立した。


女性と接するのは慣れなかったが、クロレルの婚約者・セレーナとの仲がより円満にはぐくまれるように努力もした。



「それに比べて弟のアルバ様はひどいそうよ。自分だけ、才能もなければ容姿も悪いことの腹いせだとかって、ハーストンシティで暴れまわってるうえ、夜は遊女を捕まえて豪遊してるって」


まぁ、本当のクロレルは俺の身体を使って好き勝手やってたんだけどね?


おかげで、俺の評判はめちゃくちゃに落ちていた。

勝手に容姿に劣等感を持っていることにされたのはイラっとしたが、まぁ結果は同じだ。


クロレルの評判は急上昇し、俺の評判は落ちた。

それだけのことである。


こうして次期領主候補レースに、すっかり差がついたところで、またしても突然に入れ替わりは終わった。


それが約2週間ほど前のことだ。

そして今、入れ替わっていた頃にクロレルが起こした悪事の責任を取る形で、俺、アルバ・ハーストンは辺境地の開拓使を命じられた。


要するに、追放処分を受けたのだ。

まあ自由になりたかった俺としては、捕まらずに済んだため、結果的には願ったりかなったりではあるんだが。

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