第7話 ドロドロ

「雄太くん……浮気はダメだよ?」

「浮気……? 何言ってんだよ、お前っ。もう俺たちは別れただろ?」


 俺の言葉に真奈美は小首を傾げる。

 この人、何言ってんだろう?って顔を浮かべていた。


「別れた? 雄太くん何言ってるの? まだ私と雄太くんは恋人だよ? 別れてないよ?」

「違うっ! もう俺と真奈美は恋人じゃないっ! 俺は彩乃と付き合ってるんだよっ!」

「え……?」


 俺の言葉に真奈美は目を見開く。

 驚いているようだ。


 俺は浮気なんかしてない。

 そうだ、これは浮気じゃない。

 俺は何も悪くないはずだ。

 

 真奈美は俺から彩乃に目を向ける。


「この子と付き合ってるの?」

「ああ、そうだ……」

「雄太くんそれはダメだよっ……雄太くんには私がいるじゃん。他の女の子と付き合ったらダメだよ? ねぇ浮気はダメだよっ? そんなの絶対ダメだよ? 優しい雄太くんは浮気なんてしないよね? 絶対しないよね? ほら、今すぐその子に『俺と別れてくれ』って言わないとダメだよ」

「……」


 コイツ、さっきから何を言っているんだ? 


 チラッと横を見ると、彩乃も困惑していた。

 どうやら、まだ真奈美は俺と付き合っていると思っているらしい。

 

 違うっ、もう俺たちは恋人じゃない。赤の他人だ。

 今の彼女は彩乃だ。

 そうだっ、今の俺は彩乃と付き合ってるんだよ。

 真奈美は過去の女だ。


 真奈美は鋭い目で彩乃を睨みつける。


「彩乃ちゃんっ、今すぐ雄太くんと別れてっ! 私から雄太くんを奪わないでっ!」


 真奈美の言葉に彩乃は小首を傾げる。

 

「何言ってんの? 雄太は真奈美ちゃんのモノじゃないよ? 雄太はアタシのモノだよ?」

「違うっ! 雄太くんは私のモノだもんっ! 彩乃ちゃんのモノじゃないっ!」

「いやいや、雄太はアタシだけのモノだから。そうだよね、雄太?」

「ああ、俺は彩乃のモノだ」


 俺がそう言うと、真奈美は絶句する。

 信じられないって顔を浮かべていた。


 深い絶望感に襲われている真奈美に、彩乃は追撃を加える。


「真奈美ちゃん、もう雄太とセックスはした?」

「そんなのしてるわけないでしょっ」

「アタシはもう雄太とセックスしたよっ。雄太がたくさんベッドの上でアタシのこと可愛がってくれたんだ」

「う、嘘……」

「ふふ、嘘じゃないよ。本当のことだよっ」

「……」

 

 三日前、俺と彩乃はキス以上のことをした。

 ベッドの上でたくさん愛を確かめ合ったんだ。

 それを知って真奈美は涙目になる。


「雄太はアタシのおっぱいが大好きなんだ。昨日も赤ちゃんみたいにアタシのおっぱい吸ってきたんだよっ。あれは恥ずかしかったなぁ。ねぇこのキスマーク見てよっ。このキスマークはね、雄太がつけてくれたんだ。雄太の身体にもキスマークがついてるんだよ。アタシがたくさんつけたの♪」

「……」


 彩乃は首筋についているキスマークを真奈美に見せつける。

 それを見て、真奈美は「そ、そんな……」と絶望交じりの声を漏らす。


「真奈美ちゃん知ってる? 雄太は凄い体力なんだよ。昨日はね、10回もアタシのこと求めてきたんだ。そのせいで腰が痛いんだよね。顎もちょっと痛いなぁ。けど、凄く気持ち良かったなぁ。ねぇ雄太っ、今日もたくさんエッチぃことしようね?」

「ああ、たくさんしような、彩乃」


 俺はそう言って彩乃の唇に軽くキスする。

 すると、彩乃は「えへへ」と蕩けた笑顔を浮かべる。

 一方、真奈美の顔は真っ青になっていた。


 真っ青になっている真奈美を見て、彩乃はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「ねぇ雄太っ、もっとキスしよう」

「え? けど……真奈美が見てるよ?」

「いいじゃん、アタシたちがラブラブなところ見せてあげよう」


 彩乃は背伸びをして俺の唇を奪ってきた。

 ただ唇を合わせるキスじゃない。舌を絡め合う熱くて濃厚なキスだ。


 熱いキスを繰り返している俺たちを見て、真奈美はボロボロと涙を流す。

 その涙は頬を伝って地面に零れ落ちる。


「やめてっ、お願いだからやめてっ! 私から雄太くんを取らないでっ!!」


 真奈美の言葉を無視して俺たちは熱いキスを続ける。

 相変わらず、彩乃はキスが上手いなぁ。


 彩乃とのキスが気持ち良くて脳が蕩ける。

 やばいっ、もう我慢できない。

 我慢できなくなった俺はタイトスカートの中に手を突っ込んで、彩乃のお尻を触る。 

 

「きゃっ……もう雄太ったら、どこ触ってんの?」

「ダメ?」

「ううん、雄太だったらアタシのお尻触っていいよ。ほらもっと触って……」

「あぁ……」


 俺は彩乃とキスしながら肉付きの良いお尻を撫で回す。

 そんな俺たちを見て、真奈美は混乱していた。

 今の状況に脳の処理が追いついていない様子だった。


「真奈美ちゃん。雄太はね、アタシのお尻が大好きなんだ。いつもベッドの上でアタシのお尻触ってくるんだよ。真奈美ちゃんは雄太にお尻触ってもらったことないの?」

「そんなのあるわけないでしょっ!!」

「へ~、ないんだ。かわいそう。きゃっ♡ 雄太……触り方がエッチすぎるよっ」

「嬉しいくせに」

「うんっ、凄く嬉しいっ。ねぇもっとアタシのお尻触って。もっとムチャクチャにしてっ……」


 真奈美の目の前で俺たちはキスを楽しむ。 

 この状況に耐えきれなくなった真奈美は「雄太くんのバカっ!」と言って逃げていった。

 真奈美の姿が見えなくなったあと、俺たちは唇を離す。

 すると、俺の唇と彩乃の唇の間にドロッと透明な唾液が引いていた。


「雄太っ、ホテルでエッチぃことしよう」

「ああ、今日もたくさん可愛がってやるからな、彩乃」

「嬉しいっ♡」





 ◇◇◇






【真奈美 視点】





 高校2年生の頃、私は中野信也なかのしんやくんに告白された。


 中野くんはバスケ部のエースだ。

 イケメンで、スポーツできて、女の子にモテモテだ。

 そんな人が私に告白してきたの。


 告白は嬉しかったけど、私は中野くんのことが好きじゃない。

 そもそも、恋愛に興味がない。だから、


「ごめんなさいっ、あなたとは付き合えないです」

「なっ!?」


 私の言葉に中野くんは驚き混じりの声を上げる。

 信じられない、って顔を浮かべていた。


「なんでダメなんだよっ……」

「私、恋愛に興味ないんです。だからその、私のことは諦めてくださいっ」

「――けんなよっ」

「え……?」

「ふざけんなよっ!! 真奈美っ! お前は俺のもんだっ!!」


 中野くんは思いっきり床を蹴って、私に接近してくる。

 そして、ギュッと力強く私のことを抱きしめてきた。


 中野くんはスカートの中に手を突っ込んで、私のお尻を触ってくる。

 私は慌てて口を開いた。

 

「ちょ、ちょっと!? どこ触ってんのっ!!」

「真奈美のお尻最高だなぁぁ!! めっちゃやわらけぇぇ~!」


 何度も中野くんは私のお尻を触ってくる。

 

 私が「やめてぇぇぇ!!」と叫んでも中野くんは止めてくれない。

 不味い、このままじゃこの男に犯される。

 このクズ野郎に純潔を奪われる。


 嫌だっ、こんな男としたくないっ。

 誰か助けてっ、お願いだから私のこと助けてよっ。


 そう願った瞬間だった。


 雄太くんが私のこと助けてくれた。

 そう、雄太くんが私のこと助けてくれたの。


 もし雄太くんが助けてくれなかったら、私は中野くんに襲われていただろう。

 雄太くんには感謝してもしきれない。


 この出来事をキッカケに私は雄太くんのことが好きになった。


 好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、大好きっ……。


 雄太くんのことが好きになった私は積極的にアプローチをした。

 そして、やっと私たちは恋人になった。


 雄太くんと恋人になれた。

 これで雄太くんは私だけのモノだ。

 誰にも彼は渡さない。

 絶対に渡さない。


 恋人になったあと、雄太くんが『キスしよう』と言ってきた。

 私も雄太くんとキスしたかったけど、中野くんに襲われた時のことを思い出してしまう。

 あれを思い出した瞬間、ビクビクと小刻みに身体が震える。

 頭の中が真っ白になって、男性が怖くなる。

 怖いっ、男の人に体を触られるのが怖いよっ。


 本当は雄太くんとキスしたかったけど、反射的に『キスしたくない』と言ってしまった。

 そのせいで、私は雄太くんに振られてしまった。


 雄太くんに『別れてくれ』と言われた時は本当に辛かった。

 ぽっかりと心に大きな穴が空いて、たくさん熱い涙を流した。


 なんで私は雄太くんに『キスしよう』と言われたとき、彼を拒絶したんだろう。

 あのとき雄太くんとキスしていたら、私たちの距離はもっと縮まっていたのに。

 私のバカっ……。

 

「雄太っ……」

「彩乃っ……」


 現在、雄太くんと彩乃ちゃんがキスをしていた。

 ただのキスじゃない。舌を絡め合う大人のキスだ。


 イチャイチャしている二人を見て、チクチクと胸が痛む。

 嫉妬で頭の中が狂いそうになる。


 もう雄太くんは私のモノじゃない。

 今は彩乃ちゃんのモノだ。


 許せないっ、この彩乃クソビッチだけは絶対に許せないっ。

 絶対にこの女から雄太くんを取り返してやるっ。


 雄太くんっ、雄太くんっ、雄太くんっ、雄太くんっ、雄太くんっ、雄太くんっ、雄太くんっ、雄太くんっ、雄太くんっ、雄太くんっ、雄太くんっ、雄太くんっ、雄太くんっ、雄太くんっ、雄太くんっ、雄太くんっ。


 

 

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