第4話 別れる
彩乃にアレのお手伝いをしてもらった。
お口でたくさんご奉仕してくれたんだ。
アレは本当に現実なのか?
夢の世界にいるような錯覚を感じる。
俺はボーっと天井を見つめていると、彩乃が話しかけてきた。
「どうだった?」
「マジで気持ち良かったよ。ありがとうな、彩乃」
俺はそう言って彩乃の頭をヨシヨシと撫でる。
すると、彼女は気持ち良さそうに目を細める。
「痛くなかった……?」
「全然痛くなかったよ。凄く気持ち良かった」
「ふふ、そっか。また変な気持ちになったらアタシに言ってね? 真奈美ちゃんの代わりにまたアタシがお口でお手伝いしてあげる」
「……」
彩乃は俺のことが好きだ。だから、お口でお手伝いをしてくれたんだろう。
だけど、俺には彼女がいる。彩乃の気持ちには応えられない。
いや、今の俺は彩乃のことも好きだ。
真奈美に『雄太くんのことは好きだけど、キスはしたくない』と言われて俺はショックを受けた。
そんなとき、彩乃がキスさせてくれた。
アレのお手伝いまでしてくれた。
今の俺は彩乃が天使に見える。
いや、もしかしたら、彩乃は本当に天使なのかもしれない。
ヤバいっ、どんどん彩乃のことが好きになっていく。
けど、俺は真奈美のことも好きだ。
クソっ、俺はどうすればいいんだっ。
どっちを選べばいいんだ?
「あれ? また元気になってない?」
「あっ、本当だなぁ……」
「ふふ、もう一回お口でお手伝いしてあげようか?」
「いいのか?」
「うん、いいよ。もう一回アタシがお手伝いしてあげるね♡」
「彩乃……」
◇◇◇
――土曜日――
今日は一時から真奈美とデートだ。
お昼ご飯を食べたあと、俺は家を出て真奈美の家に向かう。
今日は真奈美のお父さんもお母さんも仕事で家にいないらしい。
つまり、可愛い彼女と二人きりってことだ。
真奈美と二人きり。
それを意識した途端、ドキドキが加速する。
俺と真奈美は付き合って半年が経つ。
にも拘わらず、まだ俺たちはキスもしていない。
流石にこのままじゃ不味いよな……。
今日、もう一回『キスしよう』と言ってみよう。
今日なら真奈美もキスさせてくれるかもしれない。
しばらくして真奈美の家に到着した。
早速、俺は玄関の前に立ってインターホンを押す。
すると、バンっと家のドアが開かれた。
現れたのは私服姿の真奈美だった。
白いワンピースを着こなしており、周囲に清楚なオーラを解き放っていた。
彼女の私服姿に、俺はドキッとしてしまう。
今日の真奈美はいつも以上に可愛いなぁ。
俺を見て、真奈美はキラキラと目を輝かせる。
「雄太くんっ、おはよう」
「うん、おはよう、真奈美」
「ほら、中に入って」
「あぁ……」
俺は「お邪魔します」と言ってから真奈美の家に足を踏み入れる。
玄関で靴を脱いで真奈美の部屋に移動する。
彼女の部屋には勉強机、椅子、本棚、ベッドなどが見受けられた。
俺は部屋の床に座る。
彼女は俺の隣に座った。
たまに彼女の髪から甘い香りが漂ってきて、頭の中がクラクラしてくる。
チラッと横を振り向くと、真奈美と目が合った。
彼女の凛々しい顔立ちを見て、無意識のうちに「真奈美は綺麗だな」と口にしてしまう。
俺の言葉を耳にして真奈美は「ふぇっ!?」と変な声を上げる。
驚いている様子だった。
「わ、私って可愛い……?」
「ああ、凄く可愛いよ、真奈美」
「あ、ありがとう……」
真奈美の顔はリンゴのように赤くなる。
耳も真っ赤だ。
ほんと、俺の彼女は可愛いなぁ。
俺はさり気なく真奈美の手を握る。
すると、真奈美はビクッと身体を震わせる。
驚いているのかな?
しばらくして真奈美は俺の手を握り返してくれる。
そう、あの真奈美が俺の手を握り返してくれたんだ。
それが嬉しくて仕方ない。
部屋に甘酸っぱい空気が流れる。
いけるっ、今なら真奈美とキスできる。
そう思った俺は優しく真奈美の肩を掴んで、赤い果実のような唇に顔を近づける。
もうすぐ俺の唇と真奈美の唇が重なる。
はずだった。
俺の唇と真奈美の唇が重なる前に、彼女は俺の頬をビンタした。
部屋にパシンと乾いた音が鳴り響く。
ビンタされた。
誰に?
真奈美に……。
どうして真奈美は俺にビンタしたんだ?
わけが分からない……。
混乱している俺を、真奈美は鋭い目で睨む。
怒っているように見えた。
なんで怒ってるんだよ……。
「なんでっ……なんでキスしようとしたのっ!」
「え……?」
真奈美の言葉に俺は小首を傾げる。
どうして俺は怒られているんだ?
意味が分からない。
呆気に取られている俺を無視して、真奈美は話を続ける。
「私、雄太くんとキスしたくないって前に言ったよね? なのに、どうしてキスしようとしたのっ!! 雄太くん……酷いよっ。どうしてそんな酷いことするのっ……」
「……」
俺はただ好きな人とキスしようとしただけだ。
なのに、どうして俺は真奈美に怒られているんだ?
そもそも、なんで真奈美は俺とキスしたくないんだ?
意味わかんねぇよっ。
お前、本当に俺のこと好きなのか……?
「なんで俺とキスしたくないんだよっ……?」
「そういうのまだ早いと思う……」
「まだ早い?」
「うんっ……」
まだ早いだと?
俺たちはもう付き合って半年経つんだぞ?
俺の友達は半年でセックスまでしてたぞ?
「キスは……結婚するまでダメだと思うんだっ。だからその……ごめんね」
「……」
キスは結婚するまでダメだと?
おいおい、何言ってんだ、コイツ。
そんなの無理に決まってるだろっ……。
別に真奈美とは遊びで付き合っているわけではない。
俺は真剣だ。
ガチで真奈美のことが好きなんだ。
けど、結婚までキスを我慢するのは無理だっ。
大好きな人が近くにいたらキスしたくなる。
いや、キス以上のことをしたくなるんだよっ。
結婚までキスを我慢することなんて俺にはできないっ。
つか、なんで結婚するまでキスしたらダメなんだよ。
コイツ、本当に俺のこと好きなのか?
ダメだ、真奈美の考えていることがわかんないよ……。
はぁ、もうどうでもいいや。
色々と疲れた……。
俺は「はぁ……」とため息を吐いてから口を開いた。
「真奈美、俺と別れてくれ」
「……ぇ……」
俺の言葉に真奈美は絶望に染まった表情を浮かべる。
ブルブルと体を震わせていた。
「じょ、冗談だよね……?」
「冗談? そんなわけねぇだろっ。もうお前と一緒にいるの疲れたんだよっ……」
「っ……」
俺がそう言うと、真奈美の顔は真っ青になる。絶望に染まっている真奈美を無視して、俺は話を続ける。
「結婚するまでキスはダメとか意味分かんねぇよ……そんなの我慢できるわけねぇだろっ」
「なんで我慢できないの……? もしかして、身体目当てで私と付き合ってたの?」
真奈美の言葉に俺は「ちっ」と舌打ちする。
こいつは何を言ってるんだっ。
俺は本当に真奈美のことが好きだよっ。
大好きだからお前とキスしたいんだよっ。
身体目当てなわけねぇだろっ。
俺は冷たい視線を真奈美に向ける。
「……やっぱり、真奈美と付き合うのは無理だっ。悪いけど、俺と別れてくれ」
俺はそう言って部屋の床から立ち上がる。
そんな俺を見て、真奈美は慌てて口を開いた。
「ま、待ってっ!! 雄太くんっ!! ねぇ! 待ってよっ!!」
「……」
真奈美の言葉を無視して俺は家を立ち去った。
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