第5話

俺達は、二人が普通に動ける様になるまでその場で休憩した。



「それでどうする?その光の中に入れば助かるかもしれないぞ」


「まだ入らないわ。みんなに伝えていないからね」


「本当に良いのか?もしかしたら先着3名とか、時間制限とかがあるかもしれないぞ?」


「まぁその時はその時に考えるわ」


「そうか」

俺は赤の意見を尊重して始まりの広場へ戻る事にした

その道中は俺達の足音だけが聞こえるだけで、とても静かなものだった。





始まりの広場にいたプレイヤー達に出られることを伝えると、多くは半信半疑だったが全員付いて来てくれる事になり、全員で扉の前まで移動した。


道中はゴブリン達も現れず静かなもので、あっという間に辿り着いてしまった。




「ほ、本当だ。扉なんてあったんだ!」


「しかも開いてるぞ!」


「これで…これでようやく帰れるんだ!」


「ちょ、ちょっと!」

赤の静止の声も聞かず、我先にと魔物達が扉に群がる。


そして次々と扉の光に呑み込まれていった。




「…」


「感謝なき善行の味はどうだ?」


「苦い」


「そうか、そんな苦い思いをする価値はアイツらにあるのか、俺には疑問だな」


「…まぁそうかもね。でも私はやって良かったと思うわ。結果的に出られる様だしね」

遂に扉はそこに居た魔物達を全て呑み込むが、扉は閉まる事は無かった。


そして残るは俺と赤だけになる。





「それじゃあここでお別れね」

扉を見ていた赤が、意を決した様子で俺の方に向き直る。



「そうだな」


「今思えばあっという間に終わっちゃったけど、運良く貴方と出会えなかったら私はどこかで諦めていたわ。だから…ありがとう」


「どういたしまして」


「…黒から私に言う事はないのかしら?」

そう言われると考えてしまうな。





「赤はこのゲームが面白かったか?」


「…何それ。感謝の言葉とか無いわけ?」


「とても感謝しています。それでどうなんだ?」

赤は深いため息を吐くと話し出した。


「…正直、このゲームはクソゲーで無理ゲーで運ゲーよ。誰かに勧められる様なものじゃ無いわ」

赤は振り返り暗い森の中を暫く眺め、俺に向き直る。


「でも、今の私はこのゲームをやれて良かったと思ってる」


「そうか」


「貴方は?」


「俺も誰かに勧め様とは思わないな」


「そう、それじゃ行きましょうか」


「そうだな」

そういうと赤は扉に向かって歩き出した。



しかし光に飲み込まれる前に立ち止まった。

何故なら俺が立ち止まっている事に気が付いたからだ。




「…早く、行かないの?」


「赤が行ったら俺も行く」


「…」

獣である以上、表情が分かりにくいが赤は俺を疑っている様だ。



「黒、私に何か隠してることあるでしょ」


「無い。だから先に扉の中に入ってくれ」


「…話すまでここにいる」

長く一緒に居すぎたか。

知らない方が幸せな状態で消える事が出来たと言うのに、まぁ仕方がない。


隠し事があるのはバレている様なので、俺は秘密を話し出す。





「ここはゴミ箱なのさ」


「…ゴミ箱?」






ムーンショット目標で人は肉体を捨て、電脳世界の住人になった。


その世界では寿命も無く病気にも掛からず望むもの全てを再現出来る。

それはまるで神になった様な感覚だった。


多くの人間はそう感じた事だろう。



だが人間達の欲はこれで収まらず、より完璧な自分を目指す様になる。



では肉体の次は何処を完璧にしようと考えるのか。

と言っても人間に残されているのは一つしかない。



精神だ。



電子化した人間は自分の人格を切り取る事ができた。

まるで画像をトリミングするかの様に。



そしてその切り取られた人格のゴミ箱がここ。



「アンダーグラウンド」




俺の説明を静かに聴いていた赤は茫然としていた。


「…じゃあこのゲームは」


「ゲームの世界という設定、死ぬなら最後は楽しんで死にたいだろ、それに楽しんでもらわないと俺が困る」


「どういう事…黒は、貴方は何者なの?」


「俺はここの管理AIだ」

それを聞いた赤は驚くと言うよりか、どこか納得した様な様子だった。


「そうだったの…ちょっと待って、それじゃあ今扉に入った人達はどうなったの?」


「もちろん消去された」


「そんな…私のした事って…」

赤はとてもショックを受けた様子だ。


まぁこんな事を聞かされてショックを受けるのは当然だろう。

こんな状態でこの話をするのは気が引けるが、仕事なので仕方が無い。




「ここまで残った君には2つ選択肢がある」


「選択肢?」


「ここで消去されるか、俺達の仲間になるか」


「仲間?」


「ああ、一緒に管理AIにならないか?人の人格から作られたAIは評判が良いんだ」

ゲームのレビューで「NPCがまるで本物の人間の様だった」と書かれる程にな。



「私は…」

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