第3話

「何よこいつ!普通のゴブリンの2倍くらい大きいじゃない!」


「扉の前にいた奴の方が大きいぞ」


「黒は静かにしてて!」

2匹でゴブリンを狩り始めてから5日が経ち連携も取れて来た頃、体の大きなゴブリンと戦闘になった。

そのゴブリンの体長は普通のゴブリンの2倍。肌は黒く大きな棍棒を持っていた。



俺はそのゴブリンが赤に近づかない様に、近接で攻撃を仕掛け、注意をこちらに向ける。

後は赤が日の玉を出すまで時間を稼ぐだけなので、ゴブリンの攻撃を避ける事に集中する。



「黒!」

赤の合図と共に、俺は赤の隣まで下がる。


「これでも喰らいなさい!」

赤がそう言うと彼女の周りに顔サイズの火の玉が3つ現れ、ゴブリンへ飛んでいき命中する。

するとゴブリンの体に火がまとわりつき呻き声を上げながら地面を転がる。



「やった!こんな強そうな見た目なのに大した事ないわね」

赤がそう言いながら俺の方に顔を向ける。

まだトドメを指してないのに気楽な奴だな。


釣られて俺も赤の方を見てしまった。



「おい、まだトドメを」

そう言いかけた瞬間、俺の視界にこちらに飛んで来る黒い影が映った。


俺は咄嗟に赤を突き飛ばす。

そして俺の胴体から激しい痛みが広がってきた。



「ぐっ!」


「黒!?」

油断した。

まさかギリギリ生きていたとはな。


影が飛んで来た方を見ると、先程のゴブリンが満身創痍な様子で立っていた。

その手に棍棒がないという事は、奴は棍棒を投げて攻撃してきたという事だろう。



「アイツ!よくもっ!!」

赤はゴブリンに向き直ると火の玉を作り出し、奴に向かって飛ばす。

溜める時間が少なかった影響で火の玉は先程よりも小さい。


ゴブリンの方は避ける力も残っていない様でその場に突っ立ている。



「この!この!この!」

連続で火の玉をゴブリンに当て続けると奴は地面に倒れた。

それでも赤は火の玉を打つ事をやめなかった。


あれじゃ食べる所は無さそうだな。



「オーバーキルだな」


「っ!そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ!怪我は大丈夫なの?」

俺の言葉で我に戻ったのか、攻撃をやめて俺の方に駆け寄ってきた。



「まぁ体が痛くて動けない位だな」


「大丈夫じゃ無いじゃない!」

実際はまるで平手打ちを受けた時みたいにジンジンと痛むだけで強烈な痛みは無い。


こういう所は現実の世界じゃ無くて良かったと思う。

だが当たり所が悪かったのか立とうとすると足に力が入らない。



「私が油断したから…」

初見の相手だったからな、こういう事もあるだろう。



「お互い様だ。まぁ次に活かせよ」


「それで黒が死んじゃったら意味ないじゃない!休める場所を探して来るからそこで待ってて」

焦った様にそう言うと赤は森の中へ消えた。



俺はその後ろ姿をなんとも言えない気持ちで眺めていた。


そういえば久しぶりに痛みを感じたな。

たまにはこういうのも悪くない。






暫くすると赤は落ち着いた様子で戻ってきた。

どうやら休める場所を見つけた様で、俺の体を咥えると引き摺る様にしてそこまで連れて行ってくれた。



そこは一際大きな木があり、その根本が空洞になっていた。

そこまで行くと赤は俺を離して咥えた所を舐める。

ココまで引き摺られたが、なんとか俺のHPは残ってくれた。



「…こういう時、前の体が恋しくなるわ」


「そうか?この体の方が痛みが少なくて快適だと思うぞ」


「…ごめんなさい」


「さっきも言ったが、次に生かしてくれればそれで良い」


「…やっぱり黒って良い人ね」


「違うな」


「いいえ、私を庇ってくれた。それに…私について来てくれてる」


「それは赤が裏切られて苦しむ姿を見て楽しんでるから、かもしれないぞ?」


「もしそうだったら思いっきり噛み付くわ」


「それは怖いな」


「まぁそうだとしても、黒が仲間なのは変わらないわ」


彼女は俺のすぐ側に寝そべる。





「ありがとう」

そういうと小さな寝息を立て始めた。


それを確認すると俺も瞼を閉じた。

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