第1話 落ち武者
もうどれぐらい、俺はこの山にいるのだろう。もはや、時間の感覚すら
ひょっとすると、同じ所をぐるぐると回っているだけなのではないか――そんな疑いすら、頭をもたげてくる。
崖から落ちた際に左肩に
今、ここで俺が死んだら、歴史書には、
「
と記されるんだろうか。
そう考えると、腹の底から
誰があんな人間のために命を投げ出すものか!
俺に切りかかってきた敵兵たちには、不思議と
腹立たしいのは、我が主君――いや、主君などではないか――新柄新三郎、ただ一人だ。
体の奥底に宿る、「このままで終わってやるものか」という思いだけが、俺を突き動かしていた。
だがその反面――何者かに襲われたらと思うと、心もとなさも
敵の追っ手、山中に
俺は、腰に差した愛用の刀にそっと触れた。
運良く、これが近くに落ちていてくれて助かった。弓は戦っているうちに
休んではいられない――俺は気力を振り
遠くからかすかに、鳥とも獣ともつかない鳴き声が聞こえる。
初夏の山は、木々の
日差しが多少やわらぐのはありがたいが、歩く
俺がもっと
早くここを抜け出したい――その一心で、森の中を進んでいると。
前方に、
木の無い場所があるのを目の当たりにして、俺は
もしかしたら、下山できる道に出られるのではないか。そうでなかったとしても、
あそこに行けば、きっと何かある――なぜかそんな、予感とも期待ともつかないものを覚え、俺は
森を抜けると、そこには――。
「これは……?」
まったく予想もしてなかった物があった。
小屋だ。
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