第5話 キス……。

 目覚めたのは昼すぎであった。体は鉛のように重く気分は最悪であった。それでもと、サーレットさんを探すと、中庭のベンチに座りハーモニカを奏でていた。


「サーレットさん、ゴメン……」

「よかった、元気そうで」

「ぜんぜん、よくない。せっかくのデートだったのに」

「そうなんだ、僕は悲しい恋を楽しんでいる気がしてね。昔、悲しい恋をして、至った結論が悲しい恋を楽しんでいたと思ったのだ」


 わたしは絶句した、サーレットさんがそんな事を考えていたとは。イヤ、それが現実だ。わたしは死ぬ。だからサーレットさんは距離を取りたいのだ。まして、悲しい恋をした経験があればなおさらだ。


「サーレットさんそれでも愛して、わたしはサーレットさんのことを想うと良い子じゃいられないの!」


「アリータさん……」


 それは恋心を感じる少女の本音であった。


 その後……。


 わたしが隣に座るとサーレットさんは空を見ていた。感情的になったわたしに対して何も言わなかった。


 しかし、何か決意の眼差しであった。


 今日も天気は良く、この時間が特別に思えた。わたしも空を眺めていた、流れるように小鳥が横切る。


「ゴメン、面倒臭くて」


 うつむいて、謝意を言うと不意にサーレットさんはわたしのあごを掴む。


 一瞬の事であった。


 そう、キスをされたのだ。そして、甘い時間が流れる。キスが終わりサーレットさんと目が合う。


 わたしは頬が火照り、キスをさらに求めていた。


「もう一度、キスして……」


 わたしの言葉にサーレットさんは迷いなく、黙ってもう一度キスをする。


 大人のキスに脳内がショートする。


 わたしは記憶が飛ぶほどの感情に驚いていた。

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