第4話 1分でも長く生きる

 今日は中庭でまったりしていた。と……言うより。体が動かないのだ。


病名は『魔導結晶化症』体内の魔導のエネルギーが結晶化して悪さをするのだ。


 この病気に有効な治療法は無く……。


 そう、死ぬのである。わたしはベンチに座り木漏れ日の中でウトウトとしていると。


「風が冷えるわ」


 母親が声をかけてくる。確かに今日はダメだ。


「体が動かない。でも、気分はいいの、ここで寝ていたいの」

「はいはい、サーレットさんのおかけね。彼と出会ってから色々あったからね」


 それは、死を待つ日々と比べると嘘のように感じる。1分でも長く生きたいと思えたのだ。わたしは自室に戻るとベッドに座る。


 ふと、意識がなくなり。気がつくと夕方になっていた。サーレットさんの帰ってくる時間だ。最近はこの時間に起きるようにしている。わたしは苦い薬を飲み。サーレットさんに会いに行く。


 数日前にわたしの病気のことを話した。サーレットさんは何も言わなかった。相手は国家公認賢者さまだ、病気のことはわかっていたらしい。


 うん?


 サーレットさんが帰ってきた。


「おかえりなさい」

「あ、ありがとう」


 サーレットさんは返事をすると一輪の薔薇の花を取り出す。


「わたしに?大事にするわ」


 サーレットさんは不器用である。愛の告白など出来ない。でも、その心に迷いはなく、純粋に愛してくれる。


 わたしは遠い異国の地のお話を頼むと、嬉しそうに話をしてくれる。ドラゴンと戦ったこと。迷いの森で水の精霊に助けられたこと。砂漠の街で熱を出したこと。


 聞けば色んな冒険をしている、わたしはそんなサーレットさんに憧れる。


「明日はお仕事休みよね、一緒に街に行きたいな」


 考えてみるとデートのお誘いであった。わたしは純粋にサーレットさんと一緒に居たかったのだ。しかし、それがいわゆるデートであった。サーレットさんは頷くと食事もそこそこに3階の小部屋に入ってしまう。


 やはり、仕事がキツイらしい。


 わたしは薔薇を小瓶に入れて部屋の机の上に飾り眺めていた。明日はデート……わたしは貯めたお小遣いを確認してから眠りに着く事にした。


 うん!?体が動かない。魔導結晶化症の症状だ。今日も調子が悪かったし、明日は絶望的であった。


 ふと、ハーモニカの音がする。心地よい音色と共に意識が消えていくのであった。


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