エピローグ 新米天使は今日も行く
「かあああ、なにやってるんですか、あの二人は! まったくイライラしますー。長文タイトルのラブコメじゃないんですからー!」
天使の世界、いわゆる天上界の片隅に、クラシカルな白い木造の二階建ての建物がぽつりと存在しています。
ここは天使を養成する天使学園。
今日も見習い天使たちが勉学に励んでいます。その学園の職員室では、講師に混じって、新米の天使が仕事に出かける準備をしていました。自分のデスクの前に座り、パソコンのモニタを凝視しながら大きな声をあげています。
「まったく、人間界にとどまる時間が長いのも考えもんですー。いつまでたっても二人の仲がロクに進展しないですー。まるで、全然話が進まない、できの悪いラノベを読んでるみたいですー。だいたい人間界が夜になるとモニタ画像にモザイクが入るのやめてほしいですー。没入感を著しく阻害しますー」
「ユア、また人間界をモニタリングしてるのか。一応業務に関係ないモニタリングは禁止されてるのだぞ」
「あ、サイオンジ教官。このモニタ、なんかおかしいです。安物です。けち臭いから、もっといいモニタにしてほしいです」
「なにを言うか。人間界のプライバシーにも配慮して設計された『超精密自動録画機能付きダイナミック32K100インチエンジェルモニタ キッズセーフモード付』だぞ。ユアは対象年齢に引っかかってるから自動キッズセーフモードになるんだ」
「ちいちゃんたちの動向をモニターするのは立派な業務です。もっとしっかり見たいですー。しかしちいちゃん、キレイなおねーさんになりましたねー。ケンもカッコよくなりましたー。人間界では何年経ったんでしたっけ。換算がいちいちめんどーですね。えーと、天上界で三カ月ってことは……、ちいちゃんたちもうすぐ三十歳ですかー。すぐにアリスに追い付きますねー」
教官の大きな手がごつんとユアの頭にゲンコツを飛ばしました。
「こら、ユア。アリスがババくさいとか言ったらダメだろう。君はもう正式な天使なんだから」
教官がそう言った途端、轟音とともに稲光が走り、教官の身体がばちばちとスパークします。背後からにっこりと妖艶な笑みをたたえたアリスが現れます。
「うぎいいいい」
「あら、教官、ちょっと手元が狂いましたわ。でも職場で部下の私を、名指しでババくさいとか言うのは天使の職務規程違反ですわ。なんならもう少し強めの雷撃を差し上げましょうか?」
「アリス、それは濡れ衣だ。私は言っていない。ユアだ、ユア」
「新米天使のせいにするなんて、天使の風上にもおけませんね。智天使の位が泣きますよ。それより、ユア、そろそろ行かないと今日の仕事に間に合わないんじゃないかしら?」
「あ、いけません! ついついモニタリングに夢中になってしまいましたー。今日の仕事は十七世紀のヨーロッパですね」
ユアはそう言って立ち上がると、ポシェットを首からかけて、天使の輪をかぶりました。そしてローブのすそをつまむと丁寧に膝を折ります。優雅な仕草で
そして、拳を突き出して、大きな声で叫びました。
「さあ、今日も張り切ってがんばりましょう! 新米天使のユア、行ってきまーす!」
◇
広い宇宙は、いつの時代も神秘に満ちあふれています。
それと同じぐらい、人々の暮らす地上も神秘に満ちあふれています。
人々はなぜ生まれ、なぜ生命をつなぎ、そしてなぜ死んでいくのでしょう。
それは太古の昔から人類が追い求めた永遠の謎です。
でも、忘れていはいけません。
この代り映えのしない日常の世界にも、あまねく人々の幸せを祈り、余さず人々の想いに寄り添うべく奮闘する、そのような存在があることを。
これから始まる一人の新米天使の物語、そして、将来の見習い天使になる二人の物語、それはまた、別の機会にお話しましょう。
人々の願いをかなえることに一生懸命な、そんな天使たちは、いつでもそこに、あなたのそばに、いるのです。
(了)
見習い天使はそこにいる Revised! ゆうすけ @Hasahina214
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