xlvii Epilogue
――
光が降り注ぐ 闇の中でも 見ようとしないだけ
光が降り注ぐ 絶望の最中 見つけられない
わたしは振り返る 心の中で 差し込んでいた
わたしは前を向く その先には 月の光
この世界の片隅で 世界のカケラ一つでは 何も判りやしない
この暗闇の中心で 目を凝らして見詰めれば
一条の光が見えるでしょう
立ち上がればまた歩く その歩みは遅くても
傷ついても立ち上がる 自分の足で立ち上がる
独りではないと信じるため
あなたがいると信じるため
――
「なんだか、明るいのか暗いのか……」
歌詞だけを読んで
「ユイユイらしくてアタシは好きだな」
「タイトルは?」
「……
一瞬息を吸い込んで、夕衣は言う。この曲も
「北欧、ケルト神話の月と光の女神だね」
「なんとなぁくユイユイ自身の曲って感じ、するね」
「
「一番身近ですから」
公子の問いに夕衣は笑顔で答えた。
何気ない日常、ただ過ぎて行く時間、無為だと思っていた時間も、有意義だった時間も、何気ない日常では終わらせたくないと夕衣が気付いたからこそ書けた曲だと夕衣は思っている。
自分だけの毎日を、『日常』や『普通』という一般記号に変換させてはいけない。
どれほど辛い思いをしても、どれほど嬉しいことでも、きっといつかは時間に溶け、記憶は薄れ、日常に埋もれてしまう。
そう思っていたとしても、今の何気ない日常が終わってしまえばたくさん思い遺すことがある。
それらを全て、思い遺すことなく生きて行くことなど絶対にできはしないのだから。
「いーなぁ、漢字で、しかも意味のある名前……」
「そんな変わった字は使ってないけどね」
すみれがしみじみと言うが、夕衣はそれに苦笑を返した。
同名を持つ人間にはまだ出会ったことはないが、確かに夕衣は自分の名前を気に入っている。裕江は名前の話になると『ひろえ』という読みが多いらしく『ひろえ』より『ゆえ』のがカッコイイよね、と言っていたものだった。自分や裕江の名前に意味があるのかどうかは判らないが、何かしらの意味や意図、そして思いが込められているのだろう。両親にでも聞けば判るはずだ。
それと同じように、夕衣は自身が作る歌の題名にも意味を込めたかったのだ。
Edainという名の女神は元々夕衣が知らない女神だったが、インターネットで調べて探し当てた女神の名前だった。月と光が夕衣のイメージに合うかどうかは判らないけれど。
Ishtarシリーズに関わらず、夕衣の曲はほぼ全て自分の身の回りのことだ。
「でもいいじゃん」
「エロゲにいそうよね」
莉徒の心無い言葉に夕衣は一瞥をくれる。確かに最近跋扈している昨今流行のアニメやゲームのヒロインなどにいそうな名前なのかもしれない。
「実も蓋もない……」
「あなた、は勿論英介のことだよねぇ」
莉徒が言ってさらにいやらしい目つきに変わる。英介がいない間、夕衣をからかうのは私の仕事とばかりに莉徒はことあるごとに夕衣をからかっているが、そこは夕衣も伊達に柚机莉徒の親友を名乗っていない。様々な対処法が少しずつ身についていた。
「ううん、みんなのこと」
「え?」
すみれが聞き返してくる。
確かに莉徒の言う通り、英介のことも想って書いた。しかしそれだけではない。
「Ishtarのみんなのこと?」
二十谺がそう言うが、それも完全な正解ではない。
「そ、莉徒も公子さんもすーちゃんも英里ちゃんもはっちゃんも英介も
夕衣は一気にまくし立てるように言う。
夕衣が夕衣であるために、夕衣がその足で立って歩くために、夕衣を支えてくれる、大切な、大好きな人達すべて。
この街に来たばかりの頃の夕衣が切り捨てようとした、家族も友達も恋人もすべて。それがEdainの答えだ。
「おおおおお、ナンカミナギッテキタ!よぉし、んじゃあいっちょすんごい曲に仕上げよう!」
「あーぃ!」
莉徒の言葉に全員が頷いた。
春はもうすぐだ。
Ishtar Feather END
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