xxi TEASER
「もしもし」
『おー、カミナユイ』
「その言い方やめてくれない?」
口調はまるで英介と同じだ。こういうところは本当に良く似ている。|
『今大丈夫?』
「平気だけど」
『平気だけど何?』
「その言い方やめてって言ってるの!」
人の話を聴かないところまで英介に似ている。きっと別れた原因は同属嫌悪だろう、と夕衣は勝手に思うことにした。
『おー、悪かったよ夕衣ちゃあん』
「……今の今までソイツと喋ってたんだけど」
あの、人を小ばかにしたような物言いは本当にそっくりだ。音楽に対しては真面目な姿勢だというところも。
『なに、ピロートーク?』
「ん?何?ピロ?」
聴いたことのない言葉だ。が、きっと夕衣を小ばかにしているのだろうことだけは判ってしまう。
『あぅ、な、何でもない。それよかメールは見た?』
「うん。元々わたしもあれ、バンドアレンジかもって思ってたから」
早々に話題を切り替えて、莉徒は本題に入った。不毛な会話を切り上げる能力は英介よりも高い。
『おー、やっぱそう?』
「うん」
『でもどんなアレンジするかで色々考えなきゃ、と思うワケよ』
「まぁね。わたしも莉徒も
弦楽器隊が四人。ベースは変わらないとして、歌える人間が三人いれば、パートも色々と変わってくるだろう。エフェクトだけ変えれば済む場合もあれば、ギターそのものを変える場合もあるかもしれない。どんな楽曲をやるかにも依るが、ライブがある度に一人で二本もギターを持ち歩く、などはできれば避けたい。
『そうだねぇ。まぁでも夕衣はセミアコメインかな』
「やっぱりそう?」
『うん。公子さんソリッド固定で私がエレアコとソリッド使い分ける感じがいいかもね』
「あー、それがいいかもね。でも私もソリッドやって、その時にわたしと莉徒が交代してもいんじゃない?何ならわたしフルアコで莉徒がセミアコでもいいんだし」
唄も夕衣だけが唄う訳ではないだろう。MCの合間でもギターだけなら簡単に交代できる。他人の楽器は弾き難いものだが、それは慣れてしまえば大きな問題にはならない。
『あぁ、それもいいかぁ。とりあえずそれがいいかもね』
「だね」
『で、曲どうしよっか。とりあえず一曲は夕衣の曲やって、あと』
バンドが始まれば大体最初は既存曲のコピーをするものだ。しかし全員がオリジナルの楽曲をやっていたバンドに所属していたこともあり、そういったメンバーが集まるバンドではコピーをやらない場合もある。
「コピーやる?」
『ヤダ』
夕衣の問いに莉徒が即答した。先日公子達とやったように、軽く演奏を楽しむ分にはコピー曲も良いとは思うが、バンドを立ち上げてまで真剣にコピー曲に取り組む気はないのだろう。夕衣も折角やるのならばやはりオリジナルソングを演奏したい、と考えている。
「だよね。……シズ君と莉徒がシャガロックでやってたやつは?」
『んー、私が作曲したのもあるにはあるけど、ちょい激しいかなぁ』
「なるほど」
確かシャガロックはかなり激しいロックバンドだったはずだ。ライブ自体はまだ見たことはないが、音源はついこの間、聞かせてもらった。
『あとは
「そうだね」
『なかったら夕衣の曲出してよ』
「じゃあバンドアレンジした曲もあるから、足りなかったらそうしよ」
この街に来たばかりの時にはバンドをやるなどとは考えもしなかった。以前いた街では何度かバンドに所属したこともあったが、それも大して長い時間ではなかった。ずっとそうしてきたように、夕衣の活動の中心として、一人での音楽活動だけをしていれば良いと思っていた。
『そうだね』
「楽しみになってきた」
どきどきと胸が高鳴る。友達も恋人も要らない。バンドもやらない、などとつまらないことを真剣に考えていた自分が可笑しくなってしまう。こんなにも楽しめることを楽しもう、と思っている自分を少しだけ好きになれる。
『オレも!』
「明日打ち合わせしよ、
『んだね。でもみんな空いてるかなぁ』
「とりあえず空いてる人だけでいんじゃない?」
莉徒は本当のところではどうだか判ったものではないが、女子高生も三年生になればみんな忙しいのだ。莉徒と夕衣は別だが、すみれも英里も二十谺も彼氏が居る。宿題はあるし、アルバイトはしなくてはならないし、受験や就職、進学のことも考えなければならないし、その上恋とバンドまでしていたら、他には何もできなくなってしまう。大人から見てどうなのかは判らないが、女子高生という生物は大忙しなのだ。
『それもそっか。まぁメールは入れとくわ』
「うん」
いかに有効に時間を使うか、ということに関しては社会人も顔負けなのではないだろうか、と思ってしまう。夕衣は今のところ恋には縁がないのでまだ余裕はあるのだろう。
『折角ピアノとかいるし、
「え」
『ホンモノとかニセモノとか関係ないじゃん。あれは紛れもなく夕衣の曲だもん』
「そ、そうかな……」
そう言ってもらえると本当に嬉しい。きっとそれで良かったのだ。誰かに、誰か一人だけでも、あの曲は夕衣の曲なのだ、と認めてもらいたかったのかもしれない。だからアコースティックライブでIshter Featherを演奏しようと決心した。ディーヴァでもなく、ミサでもなく、
『そ。そんでバンドでやる時にはさ、ちゃんと私達の曲にしよ。夕衣一人で踏ん張ることも頑張ることもないよ。私らちゃんと一緒に立つからさ』
「……うん、ありがと」
後から支えるのではなく、一緒に並び立ってくれる。莉徒と出会えて本当に良かった。夕衣が壁を作っていた時も、莉徒が夕衣に対する態度を変えずにぶつかって来てくれて本当に良かった。きっと莉徒にそれを伝えたとしても、何のことだか判りはしないかもしれない。しかしそれでも夕衣は莉徒に感謝をしている。
『んじゃ、今日のところはコレで。また明日ね』
「うん、じゃあね」
『おーぅ』
夕衣は
さすがに日曜の昼間ともなると、喫茶店
「いらっしゃい夕衣ちゃん」
「こんにちは、涼子さん。えーと、後から皆きて六人になるんですけど……」
夕衣が店に入った途端に涼子は挨拶をしてくれる。なんだか涼子に笑顔を向けられて挨拶をされると、それだけでこのお店に来て良かった、と幸せな気分になってしまう。涼子と同じ女性である夕衣でさえこんな幸せな気分になってしまうのだから、男性はもっと大変なことになるのではないだろうか。
「あらあら、じゃあテーブル席空いたらすぐ移ってもらうんでいいかしら。狭いお店だから」
「あ、構わないです。とりあえずすぐ来るのは莉徒だけなんで」
「うん、おっけ」
にぱ、と少女のような笑顔で涼子はくい、とサムズアップした。本当に夕衣の制服を着せたら女子高生で通ってしまうのではないだろうかと思ってしまうほど可愛らしい。
(うらやましい……)
涼子に親近感を抱いてしまうのは、恐らく夕衣と似たような体躯をしているせいもあるのだろう。小さい背丈、控えめな胸、それだけで夕衣の味方だと思ってしまう。そんなことを考えつつも、夕衣はとりあえずカウンター席に着いた。
「あい、どうぞー」
ことん、と夕衣の目の前に水が入ったグラスが置かれた。輪切りを更に八分の一にカットしたレモンとミントの葉が一枚浮いている。夕衣はあれ、と思い、振り返った。声は男性のもので、その男性はエプロンをしていて、どう見てもお店の手伝いをしているようだった。
(アルバイトの人かな?)
英介を見慣れてしまったせいなのか、男性にしては少し背は低いかもしれない。つんつんとハネた散切り頭で長い前髪の男性は妙齢だった。若くも見えるし、大人びても見える。
「あ、えと、どうも……」
「注文はどうす……します?」
敬語を使い慣れていないのだろうか。気にはならなかったが、その男性は言い直して苦笑した。
「悪いね、どうも堅っ苦しい言葉は苦手で」
「あ、い、いえ……えと、じゃアイスコーヒーと……シュークリームで」
「ん!」
にこり、と笑って男性が嬉しそうに頷く。何だか調子が狂いながらも夕衣は注文すると水を一口飲んだ。微かなレモンの酸味とミントの香りが気持ちを落ち着かせてくれる。夕衣が久しぶりにこの店に来た時は涼子がわざわざリック・ラスキンをかけてくれていたけれど、今はピアノの旋律が静かに流れている。店のカーテンやテーブルクロスは白と水色のチェック柄のものに変えられていた。これからの季節に涼しさを演出するためだろう。
「あい、まいどありー。涼子ー、アイスコーヒーとシュークリームだって!」
「え、もう言わないでメモに書いて」
苦笑する涼子の言葉は優しげだ。この街に来てから何度かこの店にはきているが、男性の店員がいたことは今までなかった。男性は大きな声で今夕衣が注文したものを涼子に伝えたが、男性の話し方と涼子の返答かかんがら鑑みてもずいぶんと親しい仲のように思える。確か涼子は既婚者だと聞いたことがあるが日曜ということもあり、涼子の夫が手伝いに借り出されているのだろうか。
「だってメモそっちだしよー」
「
「るっせんだよ
夕衣の座っている三つ隣のカウンター席に座っている男性が、男性の店員を『貴さん』と呼んだ。そしてカウンター席に座っている男性は『少ちゃん』と呼ばれた。夕衣から質問することはできそうもないので後で莉徒にでも訊こうと決め、夕衣は二人の男性の会話に耳を傾けた。
「あぁー、久しぶりにきたお客様にそういうこと言うんだー」
「ひぇー、可愛くなくなっちまったなぁ少ちゃん……」
どうやら少ちゃんと呼ばれた人物は貴という人物の特別仲の良い友人のようだ。
「そうでもないでしょ」
「二十代も後半になりゃもうオッサンですよ」
「三十代半ばの人に言われたくないなぁ」
「あら少ちゃん、それ私にも言ってる?」
涼子とも面識があって、それも深い仲だと伺える。それにしても貴という人物は三〇代半ばには全く見えない。それは涼子にしてもそうだと思うが、少ちゃんという人物は恐らく貴よりも年下なのだろう。
人は見た目に依らないものだなぁと思ったところで、奇妙な考えが夕衣の脳裏をよぎった。
(え、この人がもし旦那さんだったとしたら、えーと涼子さんて確か水沢さんだから、水沢たか……ゆき?え?うそ!水沢
そう思ったところでぞわぞわっと全身が総毛立つ思いに駆られた。
思い違いかもしれないし、誇大妄想かもしれない。けれど全くの的外れではないような気もする。
「とんでもない!涼子さんはホラ、永遠の少女だから!」
(
「あぁ、少平君がいっぱしの大人になってしまったよ……新宿駅で二人で職質された頃が懐かしい……」
「職質食らったのは貴さんだけでしょ。俺あん時まだ高校生だったし」
(しょうへいくんって言った!……だとしたらやっぱりこの二人は元
かなり前に、それこそ小学生のくらいの頃に見た音楽雑誌でThe Guardian's Blueの記事を読んだことがあるような気がする。当時は今ほど音楽に興味がなかったせいで内容までは記憶に残っていない。それよりも最近滅多に音楽雑誌などには登場しなくなった-P.S.Y-とThe Guardian's Knightの記事の方が記憶に残っている。
「まぁ突然の無職だったもんなぁ、あん時は……」
「たぁかっ、クチじゃなくて体動かすの」
涼子が少平のそばから離れようとしない貴を軽く叱った。全く叱られた気がしないような笑顔で。そして半ば混乱した頭の中で更に連鎖的に疑問が浮かび上がる。あの路上ライブに力を貸してくれている楽器店。
(リョウさんて言ってた……えと、楽器屋の店主が
「へぇい……」
「少ちゃんもあんまり貴に絡むとホントに手伝ってもらうわよぉ」
(え、だってそしたらその諒さんだって元The Guardian's Blueのメンバーで-P.S.Y-……)
男性バンドは中々演奏する機会はないが聴くのは好きだ。特に夕衣は
「うひゃぁ、それは勘弁っす」
(ちょ、莉徒は何やってるの……)
常連客である莉徒ならばこの状況と夕衣の推理が、いや勘が正しいのか判るはずだ。それらしいことを匂わせていたこともあった。腕時計を見ると集合時間から五分が過ぎていた。莉徒以外のメンバーは各々用事を済ませてからくるということだったので仕方がないが、莉徒は何をやっているのだろうか。
(うう、こんな時に内向的な自分が恨めしい……)
「よーっすぅ!」
能天気な声と共にやっと莉徒が現われた。待ち合わせの時間から既に二十分が過ぎている。良い気なものだ。夕衣はといえば既にカウンター席からテーブル席に移り、シュークリームを半分食べてしまったところだった。
「あら莉徒ちゃん、夕衣ちゃん来てるわよ」
「おろ?」
店内を見渡し、夕衣に気付くと軽く手を振る。腕時計をとんとん、と軽く叩き、何分だと思っているの、という意思を顕に莉徒を見た。
「おお、ギター少女!」
「あれ、なんか珍しい人が手伝ってんね。少さんもいるじゃん」
貴が莉徒に寄って行く。やはり莉徒とは顔見知りなのだ。夕衣の考えが合っているかどうかこれで確かめられるというものだ。
「お、莉徒ー、久しぶり。まったく貴さんの不器用っぷりったらハラハラするよ」
「るさいわ。おら注文」
莉徒が夕衣の座っているテーブル席まで歩くと、貴がそれについてきながら言った。今度はメモをちゃんと持っているようだ。
「えー、いつもの!」
「な、なんだその常連っぽい頼み方!」
「常連だが……」
じろり、と貴を睨む。どう考えても年上で、もしかしたら-P.S.Y-のベーシストかもしれない貴を睨むなんて、何と気の強い女なのだろうかと夕衣は内心びくびくした。
「え、うそん」
「ホントよ。莉徒ちゃんはいつものね」
「はぁい」
涼子が貴のフォローに入り笑顔になる。莉徒はやっと夕衣の対面に座って一息ついた。
「ふーっ」
「ちょっと……」
じと、と莉徒を見る。五分程度の遅刻ならば夕衣もとやかくは言わない。しかし二十分も遅れてきて謝罪の一つもないものか。
「ん?」
「時間」
「あ、あぁ、ごめんごめん、ちょっとのっぴきならぬ用事がさ……あはは。あは」
用事云々ではない。ただ単に遅刻しただけだ。以前
「まぁいいけどね。それより莉徒……」
「ん、あの人達?」
客もいくらか減り、お冷を出すことと、注文を取ること以外きっとやることがないのだろう貴とカウンター席に座っている少平を振り返って莉徒は言った。
「そ、そうだけど、当たり前のように煙草吸わないでくれる?」
「もぉー、夕衣まで硬いこと言わないでよ」
ゆっくりと夕衣の前に広がる紫煙をぱたぱたと払いながら夕衣は言った。莉徒が煙草を吸うのを目の当たりにするのは初めてではないが、やはりあまり良い感じはしない。涼子は寛容な性格なのか、外で吸うくらいならこのお店で吸いなさい、と言っているようで、お酒のことに関しても、同様のことを言っているようだった。それでも相手の健康のことをまず口にする辺りに涼子の優しさを感じる。
「倫理的にどうのじゃなくてあんたの声がもったいないでしょ!」
「そんな潰すほどヘビースモーカーじゃないわよぉ」
けたけたと笑いながら莉徒はとん、と灰を灰皿に落とした。
「じゃあ倫理的に、未成年!」
ひょいと莉徒の唇から煙草を奪い、がしがしと灰皿でその火を消す。
「うぅ……」
「あっつぅっ!」
煙草の火など消したことがなかったせいで、火種が残った灰が少し舞い上がり、夕衣の指に付いた。
「おっちょこ」
「うっさい!」
莉徒を恋人にするのはきっと偉く大変なことなのだろうなぁ、と夕衣が知るはずもない、莉徒と付き合っていた頃の英介に勝手に同情した。
「まぁ順番で行くと、まず涼子さんね」
「うん」
それは当然判っている。問題はその先の人々だ。
「で、あれ、貴さんが涼子さんの旦那さん」
「うん」
不器用ながらにせわしく働いていた気の良さそうな男性。そこまでは当たっている。
「で、カウンター席にいるのは草羽少平さんっていって、貴さんと涼子さんの友達」
「うん」
これも当たっている。しかし夕衣が知りたいのはその先の話だ。莉徒ならば知っていると思うが、と思ったところで莉徒が更に続けた。
「で、貴さんは-P.S.Y-のベーシストで、少平さんはThe Guardians' Knightのギタリスト」
「う……」
「更に言うと、こないだ路上やったときに片付けにきた人、諒さんが-P.S.Y-のドラマーだったりする、と」
「うぇ……」
夕衣の想像通りだった。知らずにプロのミュージシャン達と接していたとは。莉徒のように不遜な態度を取らなくて本当に良かった、と夕衣は胸を撫で下ろした。
「G's系の人、割としょっちゅうくるよ、ここ」
「へ、へぇ……」
夕衣もこの店の常連客になりたいと思っていたが、そんな錚々たる人物が訪れるようなお店ではあまりくつろげないような気がしてしまう。
「おまたせ、莉徒ちゃん。夕衣ちゃんそんな緊張しなくていいのよ。ここにきたらプロの人でも芸能人でも政治家でも関係ないんだから」
「そ、これがこのお店のルール。ね」
にこり、と莉徒と涼子が顔を見合わせて笑顔になる。確かに貴や少平、諒を見ても怖いというイメージはない。むしろ気さくな感じがするが、人付き合いが不得手である夕衣では慣れるまでしばらくかかりそうだ。
「そ。だから夕衣ちゃんも固くならないでね。ウチはお客様にリラックスしてもらうためにやってるんだから」
「は、はい……」
こんな時ばかりは柔らかな涼子の笑顔もプレッシャーに感じてしまう。
「お、何なに、莉徒の友達か?」
貴がこちらに近付きながら言った。にこにことした子供のような笑顔で安心感さえ覚えるが、プロのミュージシャンというだけで緊張してしまう。
「うん、今度バンド一緒にやんだー」
「おぉ、またバンド増やすのか……。忙しいやっちゃなぁ」
どれだけ常連なんだ、と思ってしまう。莉徒が多忙だということは莉徒と親しい間柄の人間であれば、つまるところ友達であれば誰もが知っていることだが、要するに莉徒はプロのミュージシャンも友達にしてしまったのだろう。そうでなければこんな口の効き方など恐ろしくてできないはずだ。
「まぁ一個やめるけどね」
「おぉそっか」
「今度は全員女だから見にきてね、貴さん」
「おおおおおお、いく!」
良く妻の前でそんなことが言えるものだ、と一瞬冷や冷やしたが、男とは皆そういうものなのだろうか。
「全員女の子じゃなくても行くじゃない」
涼子は特に怒りもせず、相変わらずにこやかな表情で言った。
「うんまぁ若い子達のバンド見るの好きだし」
(ひー)
プロのミュージシャンが自分達のライブにくるなどプレッシャー以外の何物でもない。莉徒ほどの自信があるならばまだしも流石に夕衣はプロの目の前で堂々と演奏できる自信はない。実際ステージに上がってみないことにはそう断言することもまた難しいのではあるのだが。
「また莉徒がボーカル?」
「まぁ私も歌うけど、多分この子、夕衣って言うんだけど、夕衣がメインになるんじゃないかな」
「おぉーユイ!かわいい名前だ!つーか全部かわいい!」
きゃー、と付け足しながら貴ははしゃいだ。
(さっき注文取った時に顔見てるんじゃなかったっけ……?)
「あ、ど、どうも……」
昨晩奏一にもモテると言われて戸惑ったが、可愛いと言われた時、普通の女性はどういう反応を示すのだろうか。何も思いつかなければいつもの、小動物を愛でるような言葉を言われたときの反応をすれば良いだけだが、どうも貴のそれは違うような気がする。
「二十谺は知ってるよね、貴さん」
「うん、ベースの眼鏡美人、宮野木二十谺」
「そ、あいつがベーシスト」
「ほほぉ、それは面白そうなバンドじゃないですか。しかも莉徒と二十谺に、ユイかぁ。見た目も非常に眼福だなー」
(わたし以外、だと思うけど……)
口には出さずに心の中で呟く。
「そうよ。だからライブは来てね」
「来るなつっても行きますわ」
「やりー、さんきゅ」
本当に普通の友達と変わらない。きっと莉徒も人には言えない大きな何かを背負っているのかもしれないけれど、こうした暖かな仲間達と共に過ごしていることで歩いて行けるのだろうか。
「ユイもよろしくな!」
「あ、こ、こちらこそ!」
ぽん、と頭の上に手を乗せられたが、本当の大人にやられると腹も立たないものだな、と夕衣は不思議に思った。いや、あれはきっと英介がやるから腹が立つのだ。
「ははは、そんなしゃっちょこばんなくていいのに」
「しゃちほこばる、ね」
少平が細かい突込みを入れる。
「うっさいですー。んじゃま、ゆっくりしてってくださいましー」
莉徒の頭にも手を置いて、貴は店の手伝いを再開した。
xxi TEASER END
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