錆びたゴキブリ

一陽吉

魔夜中

 このまま俺は死んでいくのか。


 およそ二百年生きてきたが、強すぎる巫女にやられちまって、いまは基本体であるゴキブリの姿でひっくり返っている。


 それも、人気ひとけのない路地裏にある錆びた階段のへりでだ。


 ……。


 ……。


 夜空がきれいじゃねえか。


 ははは。


 まあ、しょうがねえ。


 これも運命だ。


「ん──────────! ん──────────!」


「おとなしくしろ、いま気持ちよくしてやるからよ!」


 なんだ、人間か。


 どうやらオスがむりやり交尾しようとしているようだ。


 種族繫栄が生物の目的だからな。


 そういった意味では合致しているし、ゴキブリがとやかく言うことじゃねえ。


「いや!」


「逃げんじゃねえよ!」


 おや?


 こっちへ来たぞ。


 しかもオスの位置、俺がいる階段の下じゃねえか。


 これは、いけるかもしれねえ。


 どうせこのままいたって死んじまうんだ。


 やってみる価値はある。


 残った力で、ころんと落ちていけばいい。


 それ。


 ────────────────────よし。


 オスの首元に落ちたぞ。


 あとはこのままオスの体に入っていけばいい。


「ぐ、ぐわぁ!」


 痛えか?


 だろうな。


 異物が入って、体が作り変えられるんだ。


 そりゃ痛えわな。


 終わるまで、せいぜい寝転がって紛らわせているといいぜ。


 その時、お前と言う存在は消えているだろうけどな。


「があああああぁ!」


 終了。


 体、いただいたぜ。


 これで見た目も中身も完全に、昆虫系こんちゅうけい人型妖魔ってわけだ。


「……」


 メスは驚きすぎて、言葉が出ないようだ。


 それでいい。


 騒がれてもうるさいだけだからな。


 さて。


 体がでかくなったことで腹が減った。


 とりあえず喰うとするか。


 そのためにはまず、羽を広げ、空を飛んで──。


 悪党を見つけないとな。


 血肉に悪意がしみ込んでいる人間の悪党は俺らにとって最高のかて


 考えただけでよだれが出るぜ。


 くっくっくっ……。


 運が向いてきた。

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錆びたゴキブリ 一陽吉 @ninomae_youkich

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