第3話 最強のおばあさま
「お久しぶりですおばあさま」
「おやクロかい、懐かしいね」
おばあさまの小屋へジャックを連れて行くと、即座にクロだと見抜かれた。
ほうらね。
私が気付いていておばあさまが気付かないわけないんだから。
ジャックに至っては緊張の極致といったところ。
まあこれは仕方ないね。ジャックが悪いんだから。私はフォローしない。
というか、流石はおばあさま。
私が人狼=クロと気付いたくらいなんだから、もしかしたらおばあさまは私が拾ってきた子犬が人狼だと最初から知っていたのかもしれない。
「あの、あのっ、ご挨拶が遅くなって本当にすみません。僕はリリィのことがとても好きなので交際の許可をいただきにきました」
「ほうほう…」
ジャックの申し出に相づちを打っていたおばあさまは、突然つむじ風のようにジャックを蹴倒し、喉元に猟銃を突き付けた。
「孫を泣かせたね?」
「は、はい! 泣かせてしまいました!! すみません!」
「正直だね、いい子だ」
「はい! 全部僕が悪いので!」
さすが森一番のハンター、洞察力も半端ない。
私ちゃんと顔を洗ってきたのに、泣いたのもバレましたね、秒で。
ジャックは一ミリも逆らわず、仰向けで腹をさらしている。
おばあさまには完全降伏だ。
「……」
いやでも待って。
ジャックも緊張しているけれど、私も同じくらい緊張している。
なに今の動き速すぎ。
全然見えなかったんですけど!!
目がいいのが自慢だったのに、おばあさまの動き、全く見えなかった!!
地味にショック!!
いまだ静かに揺れる揺り椅子がいっそ怖い。さっきまであそこにいたのに、予備動作も反動もなくあんな風に飛び掛かれるものなの!?
私、これでも一人前のハンターになったつもりだったけど、おばあさまの域になるには全然まだまだでした。猛省。
「どうして遅くなった?」
「はい! ええと、こんなに姿が変わってしまって、覚えていてくれるか不安だったのと…、あの、リリィがまだ大人の雌じゃなかったので、まだ早いかな、と思ってました。すみません!」
「なっ!!」
何言ってんの! こいつ!!
「ふうむ、嘘は言ってないようだね」
「おばあさま!?」
いや、ちょっと待って今、すっごくプレイベートな問題をつつかれたんですけど!?
その辺流しちゃうの?? てか分かっちゃうの!?
おばあさまはともかくジャック!?!?
「よくお聞き、ジャック」
「はい」
「人間の雄はね、繁殖できない雌でも普通に奪っていくものなんだよ」
「…えっ!!」
「あんたはギリギリ間に合ったかもしれないけどね、あと数ヶ月遅かったらリリィは人間の男のモノになっていたんだからね」
「!!!」
ジャックの雰囲気が一瞬で戦う雄のそれに変化した。
「…それは、本当に、教えていただいてありがとうございます。全て僕が未熟なせいでした。心の底から反省します」
おばあさまの眼光を真正面から受け止めて、にらみ合う二人。
ハラハラするぅ…。
「…ふん、まあいいさ」
納得したのか、おばあさまは踏み倒したジャックの胸から足をどけた。
おばあさまが怒りを解いたことで、部屋を支配していたプレッシャーが一気に消えてなくなる。
「…よかった」
私は大きく息をついた。
おばあさまが許してくれたのであればもう安心だ。
「リリィ、あんたはそれでいいんだね?」
「はい」
「こんなに大事なことを勢いで決めて大丈夫かい? 後からほかにもっといい男がいたのに、とか後悔するかもしれないよ?」
「しないわ! 知らない男をゼロから好きになるより、ジャックならもう既に100倍好きだもの」
おばあ様が私の目をじっと見る。
「今ならまだ『戻れる』よ?」
「いいの! もう決めたの! 私はジャックとつがいになるって」
大丈夫!私の決意は固いのだ。
今度はおばあさまが大きくため息をついた。
「まあ、頑固なところは私に似てるからねえ…」
ちなみにジャックは私とおばあさまの会話を正座で聞いている。
さっきまでのピリッとした空気は微塵もない。ほんと聞き分けのいい犬だ。
飼い主の躾がいいのだろう。
私の事ですけど!
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