はやくねむりたい

@mayoda_meow

1


ガヤガヤと音がした。目を開けてみると、道に花屋や雑貨屋などの露店があった。私はその賑やかな喧騒のど真ん中に立っている。

ひとりが声をかけてきた。「早く行こう。」どこに行くのか分からなかったが、体は理解していて、すぐさま返事をして相手の影を追った。暫くすると噴水のある広場のような場所に出た。自分と○○の他に、3人ほど人がいた。なるほど、これでひとつのグループらしい。纏められるとすぐに景色が変わった。先程の賑やかで生きていた背景とはちがう、太陽がこの世から消えてしまったのかと思うほど暗い。しかし目は既に慣れていて、そこが廃屋だとわかった。そこでもまた体はすぐさま動いた。走っては隠れ、また走ってはうずくまって疲れをとった。何から逃げているのか、自分はひとりなのか、だれかといるのかさえも理解しえなかった。


目の前、数メートル先で何かが煌めいた。それは美しい光の煌めきではなく、なにかおぞましいものの生命だ。振り返り必死で走った。小さい頃からこういう夢は何回かあった。その時もひとりで、どこかも分からない真白な迷路で黒から逃げていた。逃げきれたと思っても、アイツらは隙間も壁も乗り越えて迫ってくる。そしてわたしは挫折を知る。


暗転


リスポーン地点はあの賑やかな場所だ。そしてまた繰り返した。不安、恐怖、暗闇、誰にも言えないこと。それが増えるとこの夢を見る。追ってくる奴らはいつも黒い。鉛筆で塗りつぶした黒さなんかじゃない。炭を食べて墨を浴び、隅にうずくまっている色をしている。それでも瞳だけは、強調するように何色にでも光った。そうしてまた黒に刺された。


3回目、この辺りで殺されることに慣れてくる。書き忘れていたけど、私以外の人間は全員逃げ切っている。理由も根拠もない。ただ、死ぬ時にそれだけが分かる。また悍ましい光を見つけた。

しかしこの時は他と違った。ボロボロの廃墟を駆け抜けた先、目の前に広がっていたのは庭だった。緑や黄色、青に白。雨が降っていたのだろうか、光に反射した水滴が輝いていた。回りには一緒にここに飛ばされたであろう仲間たちが走っていた。出れたんだ!まだアイツは追いかけてくるけど、黒はまとわりついているけど、仲間たちがいて、安心できる光を見つけた!目の前にコンクリの壁が立ちはだかる。みんなが登っていく。そこまで高くない、わたしだって登れる。ぼくだって。でもだめだった。手を掛けて、いくら足を上げても爪先が、てっぺんに届かない。それどころか指先にも腕にも力が入らない。登れ登れと本能が警告してくる。後ろからは闇がきてる。頭が混乱してきて、何にもならないと分かっていながら、壁を引っ掻いて。涙が出てきてコンクリートがあやふやになる。みんなは逃げきれたのに。また暗闇が私だけを包み込む。何もかも遮って酸素も通さない。冷蔵庫と壁の間の埃になったみたいだ。洗濯機の後ろに巣食っている蜘蛛になったみたいだ。夜、誰もいない家で丸まってる自分だ。泣いてる自分の声さえも届かない。痛い、怖い、辛い、苦しい、小学生みたいな言葉しか出てこない。


いっそ死んだ方がマシだ。


朝、昨夜は魘されていたよと母に言われた。18年間生きてきて初めてだ。感動した。いつも辛い辛いと言っておきながら健康体で、ただだらける理由が欲しいだけなのではないかと思っていた自分が、夢で追い詰められたのだ。辛いと感じていたのは勘違いじゃない事がわかって安心した。悪夢に救われた。あんなに怖かったのに、翌日には友人に笑って話せるほどだった。でも午後になるといつもの憂鬱が体を蝕んでくる。また一日を無駄にした。やる事があるのに、何もせずに日が暮れた。夢に救われたなんて馬鹿なこと、なんで思ったんだろう。


あーあ、はやく、

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