第5章 ー少年コクリの冒険ー
コクリは今日もお気に入りの木の上に登り、リンガカの実を齧りながら村の様子を眺めていた。
大人たちがアタフタとあーだこーだ騒いでいる。
「ニンゲンヘイキだって!!?」
「またどうせコクリのほら吹きだろう!」
「だけどもし本当だったら・・・」
「う・・・!」
「仕方ない・・・また特殊部隊の方々に頼ろう」
村長が深いため息を吐いた後、応援要請を送る為自分の家へと戻っていった。
その姿を見て、ニンマリと笑みを浮かべるコクリ。
コクリは残りのリンガカの実を口にほおばり、ふぅとため息を吐く
そう、これは村人達に対する『罰』なのだ。父さんと母さんを見殺しにした・・・。
「・・・そうやってこれからもニンゲンヘイキに怯えながら生きて行くんだ、あんたらは!」
コクリは吐き捨てるようにつぶやいた。
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ニンゲンヘイキの暴動が激しくなっているという話は耳に入っていた。
だがこんな東のはずれの貧しい村までは来るはずがないと村人達はたかをくくっていた。
その日、コクリは木の実と木の枝を拾いに森の中へ入っていた。
「あー・・・腰いてぇ」とコクリが顔を上げると、村から何やら煙が登っているのが見えた。
「何だよ・・・あれ?」
コクリは集めた木の実や薪木をその場へ投げ捨て、急いで村へと戻った。
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コクリは村の入口付近の防壁に身を隠しながら、中の状況を確認した。
・・・間違いない、ニンゲンヘイキだ。
父さん母さんは無事なのか!?
だがコクリは、恐怖で村の入口から動く事ができなかった。
その時、村全体に響き渡る声が響いた。
「誰か戦える者は手を貸してくれ!それ以外の者は村の奥に逃げるんだ!!」
父さんの声だ!!コクリは防壁の影から身を乗り出し、村の中へ入った。
そこには一人、剣と盾を持ちニンゲンヘイキに立ち向かう父の姿があった。
コクリの父はそういう人だった。村の一大事には誰よりも早く行動する人なのだ。
「父さん!!」
「!!コクリか!!お前は家に行って母さんを守ってくれ!!」
「でも、でも父さんが!!」
「俺の事は心配するな!剣の腕には覚えがある!!そんな事より早く!!」
「・・・わ、わかった!!」
コクリは急いで家へと向かった。
コクリが家に着くと丁度母親が扉から出てきた。
「コクリ!あんた無事だったんだね、よかった。」
母親が安堵のため息をつく。
「母さん、父さんがあっちでニンゲンヘイキと戦ってるんだ!!誰か応援を呼ばないと!!」
「・・・そう。とにかく今は逃げましょう、村の奥のシェルターへ!!」
次の瞬間、ザシュッと肉を切り裂く嫌な音が聞こえた。
そのまま母親は前のめりに倒れた。そこには手に握られた剣から血を垂らすニンゲンヘイキが立って
いた。
「コ・・・クリ・・・はや・・・く・・・逃げ・・・て」
「母さん!!!」
コクリは母を抱き上げたが最早虫の息であった。
そしてニンゲンヘイキがゆっくりとコクリに向かって歩を進め始めた。
「くっ・・・!」
コクリは涙を拭いて、一目散に走り出した。自分が生き残る事こそが母の最期の願いだと思ったからだ。コクリは走りながら叫び続けた。
「誰か!誰か父さんと母さんを助けてくれよ!!このままじゃ二人とも・・・!!」
だがその声に反応するものはなく、ただただ悲痛な叫びだけが村中にこだました。
「誰か!!誰か・・・お願いだから誰かあああああああああ!!!」
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それからである、コクリが嘘をつくようになったのは。彼は村人全員を憎んでいた。これはコクリに
とって子供なりの大人への罰なのだ。
そんなある日の事、コクリが今度はどのタイミングで大人達を騙してやろうかと思いを巡らせながら
森で小枝を拾っていると遠くに人影が見えた。
「なんだ?村の連中か?」
と目をよく凝らして見てみた瞬間、コクリはバッと木の影に隠れて息を止めた。
忘れもしない、鋼鉄の鎧に身を固めたその連中はニンゲンヘイキであった。
『なんであいつらがまだこんなところに!?た、大変だ。村のみんなに知らせないと・・・』
そう思った瞬間、コクリの頭の中に悪魔の囁きが聞こえた。
『・・・そうだ、俺が村の連中を助ける義理なんてないじゃないか!あいつらはオイラの父さん母さんを見殺しにしたんだ。このままニンゲンヘイキにつぶされればいいんだあんな村・・・そうだ、そうだよ・・・』
コクリは息を潜めながらそう考えていた
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コクリはあんな事を考えていたのに、何故か村の入口に戻ってきていた。
そしていつも通り村中に聞こえるように叫んだ!
「ニンゲンヘイキが・・・ニンゲンヘイキがそこまで来てるんだ。早く逃げないと!!」
必死に村人達に言うコクリ。だが村人達はあせる事もなく
「ああ、そうかい。安心しろよ、兵隊さん達に助けは求めたよ・・・まぁ、また無駄足させちまう
だろうがな」
「もうすぐそこまで来てるんだ!兵隊は間に合わないかもしれないんだよ!!」
コクリは必死に訴えた、自分の中の怒りをおさえて・・・。
だが他の村人がコクリに向かい叫んだ。
「コクリ!!いいかげんにしろ!!!俺達だってナーバスになっているんだ。・・・確かにお前の
父さん母さんを見殺しにした事は申し訳ないと思っている・・・だけどもうどうにもならなかったんだ・・・俺達には力がないんだよ・・・。」
コクリは何も言い返せなかった。そしてそのまま何も反論する事もなくその場を走りさっていった。
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コクリは家から父の使っていた剣を持ち出し森の中へ入っていった。
自分でも何故こんな行動をとっているのかわからなかった。あんなに憎んでた村の連中なのに・・・。
でもコクリの本心は違っていたらしい。もう誰も死んで欲しくない、それが少年の願いだった。
だから俺が・・・俺が何とかして、今回も俺のデマにして終わらせるんだ!
少年の剣を握る手に力が籠る。
・・・見つけた!!ニンゲンヘイキ!!・・・3体か・・・よし、やってやる!!
コクリは意を決して剣を振り上げニンゲンヘイキに突撃した。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
ニンゲンヘイキがその叫び声に気付いてコクリの方を向いたその時だった。
何発かの銃声が森の中にこだまする。
と同時にニンゲンヘイキがバタバタと倒れていく。
草むらから姿を現したのはセツナとシンラであった
「何だ、ガセじゃないじゃん!シンラ、見せ場が無くて悪いね!・・・うん?」
コクリは何が何だか分からずポカンと口を開けたまま固まっていた。
「少年、理由は分かんないけどニンゲンヘイキと戦うつもりだったのかい?そりゃ無謀ってもんさ、
・・・ただ、お姉ちゃんはそういう勇気のある子は好きだぞ!」
コクリの頭をセツナはクシャクシャっと撫でてやる。
「うっ・・・うっ・・・うわあああああああ」
コクリ少年は泣いた。色んな思いがごちゃ混ぜになって。
セツナは泣き止むまで頭を撫でてやった。
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コクリは村に戻ってきた。そして今日もこう叫ぶ。
「ニンゲンヘイキが攻めてきたぞおおー!!」
今日も村は平和である。
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