第3章 イド帝国

まぁ、分かっていた事なんだが・・・城門前で見張り兵に止められた。そして城の中からぞろぞろと


兵士とニンゲンヘイキが出てきて見事に囲まれた。昔の言葉でいう所の四面楚歌ってやつだ。


そりゃそうだわな、急に敵側のリーダーが敵国の拠点の城の前に表れたんだからな。


話し合いも通じそうにない・・・さてどうするかと思った所に、また城門のなかから一人の老人が


出てきた。ひょろっとして背が高く、眉間に皺をよせとても気難しい顔をしている。


その老人は僕の顔を見るなり、すぐさま兵士やニンゲンヘイキを下がらせた。


そしてゆっくりと僕の方を見た。




「・・・そうか、覚醒したのだな。5号機よ」老人は穏やかに話かけてきた。


「ご無沙汰しております、ゲルニカ神官どの。少々時間がかかってしましたが、なんとかコアキューブ


の完全覚醒に成功しました。国王様への謁見は可能でしょうか?」




僕は片膝を地面についてゲルニカ神官に問いかけた。


ゲルニカは踵をかえしながら「着いてきなさい」と言った。


少しの緊張と興奮を覚えながら、僕は神官の後に付いていき城門をくぐった。




##############################




そのまますんなりと謁見の間に連れていかれた。


とても広い空間だった。高級そうなタイルの上に皇帝の座る場所までこれまた高級な素材の


使われた赤い絨毯がひかれている。壁には見事な色彩のステンドグラスが埋め込まれ、神々しく


広間を照らしていた。天井にはこれでもかといわんばかりの巨大なシャンデリアがぶら下がっている。


その絨毯の上を歩き、皇帝の前で膝をついて頭を下げた。


皇帝の両脇にはだいぶ歳老いた爺さんと、甲冑に身を包み整った顔の金髪の青年が立っていた。


爺さんの方は大臣のゲバルト、そしてその反対側にいるのがシュバルツ王子だ。


王子すらニンゲンヘイキにするのか・・・とんでもない父親だな。




タチカゼはちらっと上目遣いで皇帝を見た。見た目は完全な年寄りだ。


服の袖から見える腕は細く、シワシワだ。顔には何十年もの歳を重ねてきた深い皺が刻まれていた。


だが・・・なんだこの押しつぶされそうなプレッシャーは!?あのヨボヨボの爺さんから底しれぬ


何かを感じる・・・さっきから汗が止まらない・・・とても面は上げられそうにない。


汗がポタっと床に落ちた。それを合図にしたかのように隣に跪いたゲルニカ神官が




「陛下、オリジンホルダーの5号が完全覚醒に成功して帰還いたしました」




と、イド皇帝に報告を入れた。そしてタチカゼを委縮させている当の本人の皇帝は、気難しい顔


をして頬づえをつきながらまるで虫でも見るような目で彼を見下ろしていた。




「陛下!これから陛下の為に戦える事、この上なく喜びを感じております」




タチカゼが皇帝に言う。少し声が震えていたようにも見えただろう。




「フム・・・そうか。色々ご苦労であったな」皇帝が労ねぎらいを言った。


「グフフ、お前たち『オリジンキューブのホルダー』こそがこの戦争を左右する要となる!


これからの活躍存分に期待しておるぞ!」




趣味の悪い首から下げたネックレスや指輪をジャラジャラならしながらゲバルトは言った。




「ハッ!必ずや陛下のお役にお立ち致します」




タチカゼは更に深く頭を下げた。




「ウム、もうよいぞ。下がるといい」陛下がいった。




シュバルツ王子からは一言も言葉はなくただ厳しい顔で僕を見つめていた。




「はい、失礼致します」




陛下や王子に一礼をして踵を返して、謁見の間を後にした。




謁見の間を出て扉がしまった後、フゥゥゥ――と深いため息をついた。


腕を見るとサブいぼが立っていて、未だに冷や汗もとまらなかった。




「・・・あれがうちの大将ってわけか・・・おもしろい!」




タチカゼはもう一度息を吐き出して、謁見の間を後にした。




##############################




流石のタチカゼも皇帝の圧にあてられたのか、ぐったりとしながら自室で休もうと薄暗く長い廊下


を歩いていた。


すると向こう側からこちらに近付いて来る2組の影がみえた。


シュバルツ王子と従者のキバカゼだった。タチカゼは2人に向かって大きく手を振って近づいて


いった。




「おぉぉー!キバ兄!へへっ、やっぱりキバ兄と一緒に戦いたくてここまで来ちまったよ。


王子様もこれからはバンバンイド帝国の戦力として働くからよぅ、よろしくな!」




タチカゼは手を差し出した。それを見たキバカゼは




「そろそろ、その雑な三文芝居は止めてもらえねぇか?気分が悪くなる・・・」


「・・・せっかく師匠との感動的な再開を再現しようと思ったのに、つれないですね」




キバカゼいつものひょうひょうとした感じに話し方を戻した。




「お前がオリジンキューブの5号にインプットされた人格ってわけか・・・」


「ええ、そうです。少々時間がかかってしまいましたが完全覚醒することが出来ました」




タチカゼは仰々ぎょうぎょうしく、両手を広げて見せた。


キバカゼは特に何もリアクションする事もなく




「タチカゼはどうした?」と尋ねた。




「タチカゼ?タチカゼはぼくですよ?・・・なんて、下らない返事はやめておきましょう。


彼はキューブコアのアーカイブの中で徐々にデバッグされていますよ。いずれ彼の全データは


消去される事っでしょう」




クックックッとタチカゼは笑った。それを見てキバカゼはフッと笑顔を見せる。


タチカゼは予想外の反応に眉をぴくっと動かした。




「何が可笑おかしいんです?曲がりなりにもあなたの愛弟子だったのでしょう?」


「いや、悪かった。思ったより考え方が甘ちゃんなんだと思ってな」


「どういう事です?」




キバカゼはそれに答える事なく、「王子、時間を取らせました。行きましょう」と王子と共


に歩き始めた。タチカゼとすれ違いざまに、




「『あいつ』を舐めない方がいいぜ、なんせ俺の弟子だからな」




キバカゼはそう言って、王子と共に廊下の暗闇の中へと消えていった。




「・・・ふん、今更奴に何ができるというんだ。」




タチカゼは頭をガリガリと掻いて、フッと息を吐いた。




「さて、総大将は再起不能だろうし・・・ヤルか、蒼の風の面々を」




タチカゼは軽くほくそ笑んで、また薄暗い廊下を歩きはじめた。




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