第2章 クリオネ攻防戦(2)
あたしの拠点としている見張りの高台に少年が転がりこんできた。
改めて、こいつの名前はコルチャ。あたしの弟子だ。丸坊主の頭がより少年っぽさを演出している。
「師匠!!前衛部隊はもうこれ以上の足止めは無理っす!!!」
「チッ!!・・・多勢に無勢か・・・クソ、イドの奴ら好き放題やりやがって!!」
「撤退・・・すか!?」
「また国境の前衛要塞基地を捨てなきゃならないのかね・・・これで3つ目だよ」
「厳しい戦況・・・すね」
「とりあえす近くにいるニンゲンヘイキだけかたずけて、とっとと逃げるよ!手伝いな!」
セツナはライフルを構える。
「あらほらさっさー!!」コルチャはセツナとは逆の方にライフルを向けた。
予想外にコルチャの銃撃の正確さはなかなかのものだった、どうやらセンスがあるようだ。
二人は次々と見張り台の周りのニンゲンヘイキを打ち抜いていった。
前衛にいた部隊員達が撤退したのを見送った後、高台の2人もそこから飛び下りて
その場を後にした。
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「つー訳で、境界線上の要塞都市は3つ目が落とされてしまいましたとさ」
ここはイグニカというゲリラ部隊の本部がある要塞都市の中の基地内の病院の一室である.
「・・・そうか、3ヵ月で三つも要塞都市が・・・厳しい状況だな」
その背中のでかい大男はベッドの上で上半身だけ起こして唸った。
「そうだよー!現場は火の車だよ、オッサン!!・・・っとじゃなかった。オンジ総司令官殿」
セツナが言い直す。
「オッサンで構わんよ、無理するな。それにお前に司令官なんて呼ばれると拒絶反応で全身
痒かゆくなる」
オンジはわざとらしく体中をボリボリと掻いた。それを見たセツナは顔を紅潮させ、
「それだけ冗談言えればすぐにでも戦線復帰できそうっすねぇ、オンジ総司令官殿!!」
「そんなに怒るなよ!」オンジはガハハハッと笑って見せた。オンジなりの心配させまい
とする気遣いなのだろう。はぁーとセツナは息を一呼吸吐いた。
少しの沈黙。その後、オンジが真顔になりセツナに話かけた。
「・・・タチカゼはその後、戦場には現れたのか?」
セツナは少し間を置いて顔を横に振った。
「今、あいつはどこで何してるんだか・・・オッサン気を付けなよ!あんたがまだ生きてるなんて
知ったら今度こそトドメを刺しにくるよ!!」
セツナは少し強めの声でオンジに釘をさした。だがオンジから返ってきた言葉はセツナの予想と
は違っていた。
「・・・なぁ、あの時。タチカゼの中に入っていたヤツは本当に俺に突き立てた剣を外したのだろうか?」
セツナはその質問に眉間に皺を寄せた。オッサンは何を言っている?
オンジは自分の心臓付近の手を当てながら言った。
「あそこまで用意周到に準備をしてた奴だ、あんな一番大事な場面で獲物をはずすと思うか?」
「?・・・おっさん、何が言いたいんだよ?」
オンジは少し間を置いた後、「あの剣撃は外れたんじゃない、『外したんだ』!あの中に残っている
タチカゼの微かすかな意識がな・・・俺はそう信じている。」
「オッサン・・・」
セツナは安堵とも不安ともいえるなんとも複雑な顔を見せた。
「あれからタチカゼが戦場の現れたという情報は、本部にも届いてないのか?」
「今の所は・・・何も報告は上がってこないよ・・・」
「そうか・・・」オンジは両こぶしを強く握りしめた。
『タチカゼ・・・あんたは今どこで何しているんだい?』
セツナはそれとなく窓の外の薄暗い空を眺めたのだった。
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ボコボコと泡立つ。
そこは暗く、そして深い海の底のような場所だった。
手足や体に巻き付いた鎖は先程よりも太く、そして力強く締め付けられているようだった。
そんな中、タチカゼはずっと考えていた。
『俺は何かしなきゃいけなかった気がする・・・』
ボコッと口から出た泡が上の方に上がっていった。
『あれ・・・?俺は・・・誰だったっけ?』
最初は鎖に引き吊りこまれないよう抵抗してたタチカゼだったが、もはや足掻く力は残されて
いなかった・・・。
『ダメだ・・・何も思い出せない・・・何も・・・考えられない・・・』
タチカゼはゆっくりと目を閉じる。そしてさらに深い海の奥へと引き吊り込まれていった。
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