第16章 ー終わりの始まりー

タチカゼとオンジが元いたキャンプ地点に戻るとそこにガーネットはいた。




「良かった!キバカゼに連れて行かれているかと思ったぜ」


「グレイ・・・キバカゼ様はこちらには来ませんでした」ガーネットは言った。


「ホントに俺に挨拶に来ただけなのか!その他の任務は全部人任せ・・・全くキバカゼ


らしな。」タチカゼは少し笑った。




「お――――い!!」




声の方を振り向くとセツナが手を振りながら、シンラと共にこちらに向かっていた。




「あたしらが一番最後だったか!いやぁ、皆無事で何より!」


「無事でって・・・お前ボロボロじゃねーか」オンジがツッコんだ。


「いや、オッサンに言われたくねぇから!」




右腕を添え木で支えて、首から三角巾を下げているオンジにツッコみ返した。




「お前、セツナと一緒にいたのか」タチカゼがシンラに尋ねる。


「あ、こいつの名前シンラっていうんだ。こいつのおかげであたし達はなんとか勝てたって訳さ」




セツナはシンラの話について皆に色々説明した。




「ほぉー。存在しない製造番号に名前までつけてくれている・・・お前はもしかしたら普通のニンゲンヘイキとは違う、別の場所で造られたのかもな。」




タチカゼはそう言ってシンラをマジマジと見た。




「俺にもよくわからん・・・いつか何か思い出せるといいが・・・。」


「そう言えばお前、俺にリベンジしたいんだって?いいでしょう、いいでしょう!何時いかなる時


でもかかってきなさい!!」




タチカゼは自信満々に胸を張った。




「あれ?タチカゼ、お前・・・左眼緋色になってる!?」セツナが驚きの声を上げる。


「フッフッフッ・・・俺はどうやら激戦の末、内なる真の力に目覚めてしまったのだ!!


今日から俺は『真・蒼のタチカゼ』様だぁぁぁ!!!」




自分ではカッコいいと思っている見栄をきってみせたタチカゼなのであった。




「・・・いつも通りで安心したわ」セツナは遠い目でタチカゼを見た。


「積もる話はこれぐらいにしてここから早く移動しよう、場所が割れてしまった以上追手がくるとも限らない」




そう言いながらオンジは片付けて出発の準備を始めている。




「そうだね!ガーネット王妃を本部まで無事にお連れしないとね。シンラも付いて来るだろう?」




シンラは無言で頷いた。


タチカゼもオンジの片付けを手伝い始めた。片付けながらオンジ語り掛ける。




「・・・そうだな。これからはあんな新型のニンゲンヘイキが次々に投入されてくるんだろうな。


気を引き締めていかないとな!オッサン!!」


「ああ、厳しい戦いになりそうだ。」オンジは同意して頷いた。


「・・・お互い背中からバッサリなんていかれないよう気を付けようぜ・・・こんな風にな!!!」




『グサッ!!!』




一瞬時が止まった。誰も何が起こったのか、すぐには理解出来なかった。


オンジがゆっくり下を見ると、胸の中心からカタナの切っ先が飛び出していた。




『・・・だから言ったじゃないですか?背中からバッサリいかれないよう気を付けよう、と』




オンジの背後からタチカゼが話かける。カタナの刃を伝って血が滴り落ちた。


「ガハッ!!!」オンジは口から血を飛び散らす。




「きゃあああああああああああ!!!」ガーネットが叫び声を上げる


「タ・・・タチ・・・カゼ・・・!?な、何をやっているんだ!!?」セツナが顔歪める。




『案外あっさり上手くいっちゃって、正直拍子抜けですオンジさん・・・いえ、オンジ・グリフォン【対イド帝国ゲリラ部隊総司令官】殿!!!いや、大頭領と呼ぶべきかな?』




タチカゼはそう言いながら、ゆっくりカタナをオンジから引き抜いた。


オンジはそのまま大きな音をたて、うつ伏せに倒れた。




「・・・は?・・・今なんて・・・!?」セツナは聞き間違いかと思った。


『彼なんですよ、ゲリラ部隊のトップは!今本部にいるのは言わば影武者です。ああ、セツナさん。


君は知らなくて当然です、この事を知るのは本部上層部と蒼の風頭領の僕だけですから。』




タチカゼはカタナに付いた血を振るって、鞘に収めた。




『彼の方針らしいです。「自分は本部に黙って腰掛けているのは似合わない、戦場こそ自分の居場所


だ」と・・・まさかゲリラ部隊の総司令官が最前線で戦っているなんてイドは夢にも思わないで


しょうね。オンジさんがイドから脱走した話をしてたでしょう?さも、自分はゲリラ部隊に保護された


ように言っていましたが・・・真実はそのゲリラ部隊の創始者がオンジさんなんですよ!!』




突然の告白に、セツナとガーネッツは唖然と話を聞いているしかなかった。


ただ、シンラだけはそっと自分の大剣に手を伸ばした。




『フフフ・・・これは僕にとっては嬉しい誤算でした。キバカゼが消え、タチカゼが蒼の風の頭領にならなければ僕も知らなかった真実・・・ホントに神様とは気まぐれです。まさか敵のトップを打ち取るチャンスをいただけるなんて!!!』




タチカゼはワザとらしく体の前で手を十字にきった。




「・・・お前・・・一体何なんだ!?」絞り出すようにセツナがようやく声を出した。




『おや?覚えていませんか?僕は一度あなた方の前に姿を見せているんですよ!』


「一度・・・?あ!!アルキノさんの時の!?・・・あの違和感は本物だったのか!?」


『改めて自己紹介しましょう、僕の名前はキューブ。これはタチカゼに勝手にそう名付けられました。安易な付け方で僕は嫌だったんですけど・・・。僕は彼の行動のサポートをする補助人格プログラム


でした・・・表向きはね。』


「表向き?」セツナが問いかける。


『そう、彼には僕の事はそのように説明しました。でも本当は違う・・・僕こそがこの体、キューブコアの主人格なんですよ!!そうだ・・・もうキューブではないな・・・僕こそが「タチカゼ」だ!!』




そうタチカゼが言った瞬間、シンラはすでに地面を蹴って飛び上がり彼に大剣を振り下ろしていた。


タチカゼは手を大剣に向けて掲げ、ナノキューブの六角形の盾を作りそれを防いだ。




「ここでリベンジを果たすつもりかな?シンラ君。だけど今の君じゃあ役不足、およびじゃないんだよ!!」




そのまま超高速の回し蹴りがシンラの腹に直撃する。シンラは木々を倒しながら吹っ飛ばされた。




「おい!シンラ!!」セツナが叫ぶ。ガーネットは余りの展開に固まったままだ。


「さて・・・今日はこれ以上君達に危害を加えるつもりはありません。目的は達しました、僕はこれにて失礼するとしよう。」


「ま・・・ま・・・待ってください!!どこへ行こうというのですか!?」




ガーネットはやっと声を出す事が出来た。タチカゼはそのまま踵を返し、去りながら言った。




「どこへ行く?決まっているでしょう?僕達ニンゲンヘイキはイド皇帝の、イド帝国の繁栄の為に


造られたこの戦争の最終兵器リーサルウェポンなのですから・・・」




タチカゼは立ち止まり、最後に振り向いて言った。




「6つのオリジン・キューブはきっともうすぐ目覚める・・・その時が本当の戦争の始まり、そして終わりです。総司令官を失ったゲリラ部隊がこれからどう立て直し、反撃して来るのか・・・楽しみにしていますよ!!!」




タチカゼはそう言うと、空高く飛び上がり闇の中へと消えていった・・・。




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ここはイド帝国、その中心にあるイド城。ゴシック建築調の荘厳な趣のある城で、その回りを巨大な城壁が取り囲んでいる。その城の一角から出ている突き出しの部分の柵に手を置き、遠くを眺める青年の姿があった。端正な顔立ち、金髪の髪、すっとしたその立ち姿は正に高貴なる者として相応しいもの


があった。




「アレックス王子・・・こちらにおられましたか」


「グレイス、戻っていたのか」アレックスはグレイスの方に振り向いた。


「・・・いかがなされましたか?」


「なに、この蒼の眼が何かと共振している様な感じがしてな・・・」




アレックスは蒼い右眼と緋い左眼で遠くを見据えた。




「・・・左様でございますか。何かの・・・前触れなのかもしれませんね」




グレイスも遠くの空に目をやった。




「・・・何かの前触れ・・・か。それが良い方へ進むものだといいが・・・」




アレックスはそう言うと、城の中へと入っていった。


グレイスもそれに続こうとしたが、立ち止まりもう一度振り向き空を見ながら呟いた。




「タチカゼ・・・」










                                      〈第一部・完〉

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