第15章 ー決着ー

バキバキバキバキッ!!


2、3本大木を倒しながらオンジは吹っ飛ばされた。4本目の大木に背中をぶつけて、やっと勢いが止まる。オンジはそのままうつ伏せに倒れた。なんとか4つんばいになって体を起こすが、ガハッ!と口から血を吐き出す。それでも何とか立ち上がれるのは、どうやらナノキューブで活性化された筋肉の鎧のおかげだった。右腕はぶらんっと垂れ下がったまま動かせず、もう使いものにはなりそうにない。さて・・・どう、戦うか・・・?




姿は見えないが「クゥアクゥアクゥア!」とあの耳障りな笑い声が聞こえてくる。どうやらのろのろ


とゆっくり歩きながら近付いてきているようだ。




「もう、真面目に戦う気もねぇのか・・・まぁ、こっちももう打つ手なしだけどな・・・」


『タチカゼは・・・再生がだいぶ速度が落ちていたが・・・たぶん死ぬ事はあるまい。


セツナの援護に行きたいが・・・俺もこのままじゃ、危ないな・・・』




オンジは冷静に今の状況を分析したが、逆転の糸口が見えない。そんな熟考にふけっているうちに


足音はゆっくりと確実に近付いてくる・・・。


フゥーとため息とも気合を入れたとも見える息を吐き出し、オンジは足音のする方へ歩き出す。




遠くからでも分かる、隆起した腕の筋肉・・・クロウの姿を視認した。


オンジは最後の一撃にかける・・・左腕の『メテオストライク』。しかしさっきはタチカゼとの同時攻撃で何とか弾き返せた・・・しかもガントレットを破壊されて。利き腕じゃない方でどうにかなる・・・訳がないな・・・。


オンジの顔から汗がぽたぽたと落ちた。正直なすすべがなかった。


クロウはもう会話の聞こえる距離まで近付いていた。




「ほぉー!まだ立ち上がれますか、素晴らしい素晴らしい!!まだまだなぶりがいがありますねぇ」




クロウはニタァァァと薄気味悪い笑顔を浮かべた。




その時だった!空からクロウとオンジの間に人影が降って来て、綺麗に着地した。


ゆっくりと立ち上がるその男は、霧のような白い靄もやが全身を包んでいる。




「オッサン・・・今度こそホントに待たせたな!」




タチカゼの着衣は以前ボロボロだが傷は完全に再生していた。




「なんと!あなた、まだ動けるのですか!!これは流石に驚きですよ・・・でも、もう立っている


だけで精一杯でしょう。キバカゼ殿にッ散々斬り刻まれた上に私の鎌でも切られたのですから。


・・・では2人まとめてトドメといきましょう!!!」




クロウは思いっきり地面を蹴ってタチカゼとの距離を詰め、水平に鎌を振るった。タチカゼは軽く腕を上げた。


ギィンンンという金属音・・・。




「!?何ですか、それは!?」クロウは今までにない驚きの顔を見せた。




大鎌とタチカゼの腕の間に六角形の平面が幾つも並び、まるで盾のようになっていた。


一旦、後ろに下がるクロウ。何だあの能力は!?あいつの全身を覆う霧みたいなモノは!?


そもそもあのダメージで何故あんな涼しい顔をしてられる!?疑問だらけだった。




「オッサン、だいぶやられたなぁ。その右腕、当分ダメだろ?ま、ゆっくり休んでな!」




タチカゼはまだカタナを抜こうとしない、余裕の笑みさえ浮かべている。


オンジはその振り向いたタチカゼの顔をはっきりと見た。蒼い右眼と緋い左眼・・・!?。




「タチカゼ、おまっ・・・眼が・・・!?」




そんなやり取りの隙にクロウは思いっきり大鎌を振り被り、タチカゼに向けて振り下ろす。これは受け止められまい!!とニヤリ顔を浮かべると、タチカゼは大鎌に向け、手を掲げた。また六角形の平面の盾が鎌を受け止めた。そしてそこからいくら力を加えてもビクともしなかった。




「ギギギギギッッ!!!!!」クロウのおでこに血管が浮かび上がる。




タチカゼは何でもないという顔で「もう気ぃ、済んだか?」と盾ごと相手の鎌を押し返した。まるで邪魔な虫を追い払うように軽くだ。クロウはその押し出された勢いに地面を削りながらなんとか止まる事ができた。


オンジも、タチカゼに何が起きているのか分からないまま唖然と戦いを見守る。




クロウはフゥゥゥゥ―――――と長い息を吐いた。




「お前を包んでいるその霧はなんだ!?」


「これか?これは俺の体内から放出されたナノキューブだ。体内のナノキューブだけじゃ増殖速度が足りなくて、ちょっと上空のナノキューブを拝借したけどな。」


「馬鹿な!!ナノキューブは細胞と完全に一体化している、外に放出するのは不可能だ!!!」




クロウは柄にもなく捲し立ててきた、さっきまでの余裕の笑みは完全に消えていた。




「そうだね・・・君達の技術じゃ『体内のナノキューブの精密操作』が手一杯だったねぇ。いや、それでもすばらしい進歩だ!・・・でもそれはまだDr.キューブの目指したニンゲンヘイキの完成形じゃない・・・。俺は成れたんだよ・・・その完成されたニンゲンヘイキにね!!!」


「そんな非現実的な事が起こってたまるか!?我がイドの最先端技術を持ってしてもキューブシステムは解析できていないんだぞ!?」


「じゃあ・・・自分で確かめて見ればどうだい?さぁ、どうぞ。」




タチカゼは両腕を広げて、かかって来いとばかりに挑発してみせた。


クロウの顔が今までになく歪み、何倍にも膨れ上がった腕の筋肉が怒りを表すかのように脈打って蠢いた!




「キィエエエエエエエエエエエエ――――――!!!!!」




もうそこからは滅茶苦茶だった。勢い任せでなりふり構わず上から、横から、斜めから、大鎌をガンガン振り回し続けた。それを何くわぬ顔で六角形の盾で受け続ける。しかもタチカゼはその場から微動だに動いてない。遂にはタチカゼはその鎌をナノキューブで包まれた手で掴んで止めた。




「ウギッ!!ウギギ!!」何とか鎌を離させようとするがビクともしない。


「もういいか?いい加減飽きたぜ。」




バキッッッ!!!




そう言った後、タチカゼは大鎌の鎌の部分を折ってみせた。そのまま鎌の刃をその辺に捨てる。




「!?!?!?」最早、クロウは声にならない声を上げた。




「さて、次は俺の番だな。」と、そこで初めてカタナを抜いた。そして左手を前に出すとそこに


立方体の束が集まってきて、真っ白いカタナの形に変わった。




クロウは逃げようと背を向けた。が、タチカゼが地面を蹴るといつの間にかクロウの前に立ち、行く手を阻んでいた。




「ひぃいい!!」もう完全にクロウは戦意を喪失していた。


「おいおい、今更逃げるなんて無しだろう。俺にも遊ばせろよ!」




タチカゼは右手のカタナを手を伸ばし構え、左手の白いカタナを逆手で持った。




「初めて使う技だが、まぁ今の俺なら出来るだろ・・・『不知火流、絶技二刀・千華万来・麒麟きりんの舞』!!」




そこからはもう見ている方は目が追いつかず、訳が分からなかった。クロウの周りを何か黒い影がビュンビュン飛び周り、クロウの体がズタズタに斬り裂かれていく・・・その一瞬、タチカゼの動きが止まった様に見えた。そして、クロウの耳元で囁く。




「僕はイド帝国に戻ります。先輩いいウォーミングアップになりました、ありがとうございます。せめて安らかにお休み下さい・・・例えニンゲンヘイキでも・・・ね」


「クゥ・・・ア・・・ガ」




その後は惨むごたらしいものだった。クロウはもう完全に動かなくなっていた。それでもタチカゼは手を緩めない。クロウがただの肉塊になるまで一分とかからなかった。


そしてタチカゼの攻撃の手は止まった。左手のカタナは立方体となり消え、右手のカタナを鞘に納めた。体中を纏っていたナノキューブは水蒸気の様に霧散して消えていった。




オンジが右手を押さえながらようやく木の陰から出て来た。最早、何が何だか分からないという


複雑な表情を浮かべながら。




「タチカゼ・・・お前は・・・一体何が・・・!?」




タチカゼはオンジの方を見て、とびっきりの笑顔を見せた。




「さて、迷子の姫様と愉快な仲間達を迎えに行きますか!」

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