第7章 ーその食卓は、蒼い炎に照らされてー

「覚醒者・・・そんなニンゲンヘイキがいらっしゃるのですね!」




姫様は目をパチクリさせた。彼女の名はガーネット・ルーフ・イド。言わずもがな、イド帝国の王妃様だ。




「ああ。だいたい覚醒直後の覚醒者は、混乱状態で誰彼構わず襲って来るからな!姫様も危なかったな!」




タチカゼはガーネットに笑顔を見せる。




「しっかし、うちのリーダーが敵国の王族の顔も知らないとは・・・さすがにあきれたわ。」




セツナはハァーとため息を付く。




「何だよ!イド皇帝の顔は分かるぞ!!」


「誰でも分かるっつーの!」


「そんな事より・・・毎度いろんなトラブルを持ち込んで来るお前達に俺は頭が痛くなる。


何で覚醒者の鹵獲ろかくに行って、敵国のお姫様が付いてくるんだ!?どうするつもりなんだ!?」




とぶつくさ言いながらもオンジはガーネットにホットミルクを手渡した。




「ありがとうございます・・・美味しい」とガーネットは微笑んだ。


「あ!」とセツナが声を上げた。


「あのさぁ!このままこのお姫様捕まえて本部に連れてってさぁ、イドの事脅せばいいじゃん!!」


「・・・この状況で出て来る、お前のその発想力がこえーよ」


「何でよ!?これは戦争なのだ!!甘い事は言ってられないのだよ!!」


「・・・無理だと思います、私を交渉条件に使うのは」




ガーネットは俯うつむきながら言った。とても寂しそうな横顔だった。




「何でよ?王妃が攫さら》われたなんてなれば、大騒動じゃん!」


「私は・・・キューブシステムに適合しませんでした・・・父は・・・イド皇帝は身内の王族であろうと戦力にならない者には興味がありません。きっと私が邪魔になると判断すれば容赦なく切り捨てる


事でしょう・・・」


「あ・・・」セツナは言葉を失った。


「何だよそれ!?めちゃくちゃじゃねぇか!!」タチカゼは憤いきどおってみせた。


「・・・ガーネット王妃、何故そんな我々に捕まる危険を冒してまでイドを抜け出してきたのですか?」




オンジが優しく諭す様にガーネットに尋ねた。




「そうだ!この国には蒼の風と呼ばれる特別な部隊があると聞き及んでおります。どなたか今、どこにいらっしゃるか知りませんか?」




三人は狐に顔をつままれた様にお互いを見合わせた。


「姫様は運がいいんだか、悪いんだか・・・そりゃ俺達の事だ!」


「まぁ!!」ガーネットは更に大きく目を見開いた。


「やはり神様はいらっしゃるのですね!お導きに感謝いたします!」




ガーネットは胸の前で手を重ね合わせた。




「ほら!」とタチカゼは自分の蒼い右眼を見せる。


「俺達蒼の風は、ニンゲンヘイキの覚醒者で編成された特務部隊なんだ。」


「そうだったのですね!あの、タチカゼ様、とおっしゃいましたよね?どうか私を本部の総司令官様の


元に連れて行って下さいませんか!?」


「え?」とタチカゼが以外なお願いにキョトンとしていると、


「うっ・・・」軽い呻き声を上げ、鹵獲した覚醒者が目を覚ました。


「よう、目ぇ覚めたか」タチカゼが軽く手を上げる。


ハッ!と覚醒者は意識を取り戻し、戦闘態勢をとった。傍らに武器がないか探す。


「残念、お前の大剣はここだよん!」




タチカゼは脇に立てかけてある大剣をポンポンと手で叩いた。


覚醒者は戦闘態勢を崩さないまま、歯軋りをする。




「しかしお前スゲーな!俺と同じくらいの背しかないのに、よくこんな大剣ブンブン振り回せるなぁ」


「お前達は誰だ!?」覚醒者が問う。


「俺達は蒼の風、対イド帝国ニンゲンヘイキ迎撃特務部隊だ。戦闘の他にお前みたいな覚醒者の保護を主な任務としてる」タチカゼは説明した。


「覚醒者・・・?」その覚醒者は呟く。


「ま、お前の敵じゃないから!取り合えず落ち着け!な?」




タチカゼは子供に諭す様に優しい声で話しかけた。


それを聞いて納得したのか、取り合えず戦闘態勢を時その場に座り込んだ。


フゥーとタチカゼは一息ついた。




「さて、どこから話したものか・・・ニンゲンヘイキだった時の記憶も朧気ながらあるだろ?」


「ああ、断片的ではあるが・・・」




その時、覚醒者を軽い眩暈が襲った。咄嗟とっさに右手を付き体を支える。




「おいおい、大丈夫かよ!?」


「大丈夫だ、少しダメージを負い過ぎたようだ・・・」




と、ズボンの後ろのポケットからカプセル型の注射機を取り出し右腕に刺そうとする。




「ちょちょちょ!待て待て待て!何してんの!?」タチカゼが慌てて止める。


「何って・・・栄養補給剤を打つんだ。消費したエネルギーを補わなければならない。


お前達もやっているだろう?ニンゲンヘイキには必要なものだ。」


「かあぁぁぁ―――――――――!!」




とタチカゼは大げさに頭を抱えた。




「いいか!お前はそのニンゲンヘイキって呪縛から解放されたんだよ!!そんなもん、もう打つ必要はないんだっての!!!」


「じゃあお前達はどうやってエネルギーを補給しているんだ?」




覚醒者は不思議そうな顔でタチカゼに尋ねた。


「フッフッフッ・・・これだぁ!!!」とタチカゼは食事が並んでる中から一つを取り出した。


「何だ?この白い塊は?」


「ニギリメシだ!!!具は入ってないがな」「悪かったな」オンジがむすっと言う。


「ニギリ・・・メ・・・シ?何だそれは!?どうやってこんなものを体内に吸収するんだ!?」


「どうって・・・もちろん食うんだよ!」


「クウ?」覚醒者は更に分からないという顔をした。


「食べるって事だよ、口から中入れるんだ」


「口から!?」


「いいから。騙されたと思って口から食べてみろよ!」




覚醒者は躊躇していたが、意を決してニギリメシにかぶりつく。その瞬間に覚醒者は目を見開いた!口の中に今まで感じた事のない幸福感が広がった。その後は夢中でニギリメシを食い続けた。




「どうだ?今、お前が感じてるものが『うまい!』って奴だ。ニンゲンヘイキだった頃は味わえなかった感覚だろ?思い出すなぁ・・・俺も最初はお前と同じ反応をしたもんだ・・・」


「・・・あーぁ。また始まったよ、自分語り」




セツナはシチューを食べる手を止めうんざりした顔をした。

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