第7.5章 ー蒼の記憶<始まりは緋の光に導かれ>ー

蒼い眼の覚醒者は無我夢中でニギリメシに食らい付いている。




「そんなに急がなくてもまだまだたくさんありますよ!」




カエデは水の入ったコップを渡しながら言った。




「どうだ、うめえだろ?メシってもんは!」




蒼い眼は何度も頷きながらも食べるのを止めない。




「よっぽど使い回されてたんすかね、こいつ。エネルギー切れ寸前だったのか?」サルトビが言う。


「・・・ただ食い意地が張ってるだけな気もしますけど」カエデがそう返した。


「ハハハ!ま、無事で何よりってとこだな。おい、蒼眼!」




蒼い眼は一旦食べるのを止め、キバカゼを見た。




「蒼眼って呼ぶのもあれだな・・・そうだなぁ・・・すべてを断つ嵐のような風・・・


よし!今日からお前の名前は『タチカゼ』!そうだ、タチカゼにしよう!」


「タチ・・・カゼ・・・」タチカゼはほんのりと胸が温かくなった様な気がした。


「蒼い眼のニンゲンヘイキなんて、レアなもん見せてもらった礼だ。もう一つやるよ!」




とキバカゼは自分の持つ二対のカタナの内の一本をタチカゼに放り投げた。




「お前の剣、もうボロボロだろ?それやるよ。鞘から抜いてみな!」




タチカゼは言われた通り鞘からカタナを抜く。




「・・・なんだこれは?片方しか刃が・・・ない?」


「それはカタナっつってな、どっかの島国独自の剣らしい。お前の今食ってたニギリメシって奴も


その島国から伝わったもんだそうだ。」




キバカゼは自分のカタナを抜いた。




「俺はその島国の言葉で『情けを掛ける』って言葉が好きでさ、このカタナはその言葉の象徴みたい


な剣なんだ」


「ナサケ・・・ヲ・・・カケル・・・」タチカゼはその言葉を自分で言ってみた。


「情けを掛けるってのは、どんな悪人や悪事にも深い事情ってもんがある。だからすべてを殺すのではなく、自分の意思でこいつは殺すべきではないと思ったら刃を返して腹の方で相手を動けなくするぐらいで留める・・・。このカタナは相手を殺すだけの殺人道具じゃないって事さ。」




キバカゼはタチカゼにカタナの刃の腹の方を見せ、そう言った。




「お前も同じさ!もうただの殺人道具じゃない・・・だから自分で決めろ!刃ヤイバを向けて


またニンゲンヘイキに戻るか、刃を返して誰かを守るのか・・・」


「ちょっと隊長!」「頭!さすがに覚醒者は本部に連れてかねぇとマズイんじゃないか!?」




カエデとサルトビは口を揃えて言った。




「いいんだよ!俺達の任務は保護するまでだ!ちゃんと保護はしたろ?後はそいつの自由さ」


「そんな屁理屈みたいな言い訳・・・」カエデはハァとため息を付く。


「さてと、飯も食ったし。本部に戻るか!で、お前どうする?」




タチカゼはまじまじとカタナを見つめ、ゆっくりと鞘に収めた。


そして蒼い眼でまっすぐにキバカゼを見据えた。その眼がもう『答え』を示していた。




「・・・そっか。じゃあ、行くとしますか!!」




キバカゼが地面を踏みしめ、歩き始める。その後にサルトビとカエデが続いた。


そして最後に・・・カタナを腰に差し、タチカゼは新しい一歩を踏み出した。


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