異能者

「それで、組合ギルドは解体されたんだな」

「はい。異能者は誰もいなくなりました」

「そうか……ご苦労だった」

「いえ」

 報告を終えた久我は相馬上級特別捜査官に背を向け、部屋を後にしようとする。


「ちょっと待て、久我特別捜査官」

「なんでしょうか?」

 相馬に呼び止められた久我は立ち止まり、その場で振り返った。


「本当に、お前の能力は失われていないんだな」

「はい」

「そうか……」

 相馬はため息交じりにいう。


「なにか?」

「いや、次の仕事が待っている」

「わかりました。すぐに向かいます」

 久我は再び相馬に背を向け、部屋を出ようとする。


「ちょっとまって、総くん」

 先ほどとは違い、相馬は甘えた声を出した。

 しかし、久我は立ち止まること無く相馬の部屋を出ていった。


「もう、少しくらい甘えさせてよー」

 そんな相馬の声を背に受けながら、久我は警察庁を後にした。


※ ※ ※ ※


 繁華街にある雑居ビル。そこには大勢の野次馬たちが詰めかけていた。

 野次馬たちの大半は、スマートフォンのカメラを向けてシャッターを切っている。


「危ないから下がってください」

 規制線の向こう側に立つ、どこか幼さの残る顔立ちをした若い制服警官が声を張り上げている。

 そんな中、背の高い男が野次馬をかき分けるようにして規制線の前まで進み出てきた。


「ちょっと、入らないで!」

 制服警官が恫喝に近い声で規制線を潜ろうとした男にいう。

 男は立ち止まると、コートのポケットから身分証を取り出した。


「警察庁特別捜査官の久我です」

「し、失礼しました」

 制服警官は姿勢を正して敬礼をすると、久我のことを規制線の中へと入れる。


 雑居ビルの入口の辺りに「機捜」と書かれた腕章を着けた刑事たちが何人かいるのを確認した久我は、その中のひとりに声をかけた。


「お疲れ様です」

 その声に反応したベテラン刑事は振り返って久我の顔を見ると、あからさまに嫌な顔をしてみせた。


「なんで、あんたが……。この現場は、まだ未解決事件じゃねえよ」

「捜査に加われというのが、上からの指示です」

「くそっ。だから鑑識がひとりも来ないってわけか」

「すいません」

 久我はベテラン刑事に頭を下げた。


「あんたが謝ることじゃねえよ。全部、上が悪いんだ。気を悪くしないでくれ。俺たちは犯人逮捕に結びつく情報が貰えればいいだけだ」

 ベテラン刑事はそういうと、久我の肩をポンと叩いて、その場から離れていった。


 久我は遺留品である一〇〇円ライターを拾い上げると、鼻から息を吸い込み目を閉じた。


 暗闇がやってくる――――



 彼の名前は、久我総。

 警察庁特別捜査官。特別捜査官は、警察庁長官直属の部下であり、階級は無い。

 特別捜査官はすべての事件に関与する権限を与えられており、警察組織に関係する者はその指示に従わなければならない。

 久我はモノに宿る記憶、残留思念を読み取ることができる異能者だ。




 異能者 完

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