メッセージ《Message》

メッセージ(1)

 その死体は、メッセージそのものであった。

 メッセージは他の誰宛てのものでもなく、久我総に対するメッセージ以外のなにものでもなかった――――。


 N県S市の中心部から、車に揺られること二時間半。すでに周りには建物はなく、あるのは生い茂る木ばかりであった。


「本当にこの道であっているのか」

「ナビはそう言ってますよ」


 助手席に座る久我総の疑問に、ハンドルを握る姫野桃香が答える。

 カーナビゲーションの画面には、確かにこの道の先に目的地があると表示されているが、本当に信じていいのだろうかという疑問が久我の中にはあった。

 細い一本道だった。一方通行ではないが、一車線しか存在せず対向車がやってきたら、どちらかが道を譲らなければならないような細さがある。

 いまのところは、自分たち以外にこの道を走る車の姿は見ていない。

 逆にそれが久我の中の不安を増幅させているのだ。

 しばらく進んでいくと、広い場所に出た。

 そこで姫野は車を停車させる。


「どうかしたのか?」


 久我の問いに姫野は正面にある看板を指さした。

『ここから先、車両通行止め』

 その看板には、そう書かれていた。

 自然と舌打ちが出る。

 カーナビの示す目的地は、まだ先である。

 久我は助手席から降りると、面倒くさそうに辺りを見回した。

 元は駐車場だったようで、アスファルトで固められた地面には、消えかかった白線で升目が描かれていた。


「さて、どうしたものかな」


 そう呟くと、久我は車両通行止めと書かれている看板に近づいた。

 看板が立てかけられているゲートフェンスは、太い鎖と南京錠で留められている。

 関係者であれば、このゲートフェンスを開けて、その向こう側へ車で入っていくことができるようだ。

 その証拠にゲートフェンスの向こう側に続く、アスファルトで舗装されていない道には車のタイヤでできたと思われるわだちのあとが残されていた。

 車両通行止めの看板をもう一度見る。そこには、管理者として国土交通省の名前が書かれており、電話番号も書かれている。

 久我はスマートフォンを取り出すと、その番号を打ち込んで連絡をしてみた。


「はい、国土交通省N整備局です」

「警察庁の久我と申します――――」


 久我は現在地の住所と通行止めとなっていることを告げ、フェンスを開けてほしいという要望を伝えた。

 電話の相手は担当局に繋ぐから待ってほしいと言い、その後で電話を替わった人間からは許可を取るには別の部署の人間に聞かなければならないという旨を告げられるという、いわばたらい回しというやつにあった。

 結局、許可が下りたのはそれから40分後のことであり、久我の苛立ちはかなり募っていた。


「これから、国土交通省の人間が来て鍵を開けるそうだ。事務所は、市内中心部にあるから来る頃には日が暮れているかもしれないな」

「久我さん、その冗談は笑えないです」


 姫野は冷たくひと言告げると、運転席の椅子をリクライニングさせて目を閉じた。

 どうやら国土交通省の人間が来るまで、昼寝の時間と決め込むようだ。


 久我は車に乗らず、少し辺りを歩いてみた。

 本当に何もない場所だった。

 周りは木々に囲まれ、民家などはどこにもない。あるのは、シャッターの閉まっている小屋がいくつかあるだけだ。

 この小屋は、かつて商店として使われていたものらしく、トタンの壁には「たばこ」と書かれた琺瑯ホーロー看板が掛けられていた。

 小屋がどのくらい前まで営業していたかは不明であるが、長い間、人が来ていないということは確かだろう。その証拠として、すでに電源が入っていない自動販売機に書かれている値段はどれも一本100円であった。いまどき、缶コーヒー一本買うにも140円は出さなければならないというのに。

 そんなこんなで時間を潰していると、細い道を一台の車が走ってくるのが見えた。それは国土交通省道路局の車であった。

 やっと進めるか。久我は小さくため息をついた。腕時計に目を落とすと、ここに来てから2時間が経過していた。

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