焔の女(14)
捜査令状は、安住武雄の焼殺事件の捜査のためということになっている。
重要参考人として
強制捜査を執行したことによって、
何の捜査進展も無いまま、一週間が過ぎていった。
おそらく、
それが終われば、N県警が
「今回は、私の負けか……」
久我は手に持ったナイフとフォークを置くと呟くように言った。
その様子を見ていた小津がカウンターからじっと視線を送ってきたが、久我は気づかない振りをしてコーヒーをひと口飲んだ。
しばらくして、スマートフォンが一件のメッセージを受け取った。
久我はそのメッセージを読むと、ひとりで頷き、席を立ちあがった。
喫茶店OZに客は誰もいなかった。いるのは久我と小津だけである。
久我はレジの前に立つと、小津がやってくるのを待った。
「ありがとうございました」
小津はいつものようにニコニコと笑みを浮かべると、伝票の数字をレジに打ち込もうとする。
「悪かったな」
久我はその眼でしっかりと小津のことを見つめながら言った。
「小津いろは。キミのお姉さんだろ。
「え?」
「隠す必要はない。すべてがわかってしまったんだ」
「え、いや……」
「いいんだ」
久我はそう言って小津の肩をぽんと叩くと、一万円札を数枚財布から取り出してレジの横の受け皿に置いた。
「あの……」
「これは私からの香典だと思ってくれ」
それだけ言うと、久我は店の前に停まったシルバーの捜査車両の後部座席へと乗り込んだ。
メッセージの送り主は、
相楽は公安部のスパイとして、
警察庁特別捜査官、相楽八雲。彼の能力については久我も知らないが、相手組織に潜入するスペシャリストであるということだけはわかっていた。
能力者である相楽は、うまく
相楽が送ってきたメッセージは短いものだった。
『終わった』
その一言だけで、十分に伝わるものだったのだ。
内部崩壊のはじまった
小津いろはの暴走は、
そして、小津いろはは暴走した。N県警刑事部長であった妻夫木を襲い、元県議会議員であった中西の秘書だった安住を焼死させた。
すべては
その行動には弟である小津あゆむも加担していた。あゆむは久我たちがOZで話していた内容をすべて姉であるいろはに伝えていたのだ。そのことに久我は途中で気づき、OZでは偽の情報を流すようにしていた。
次第に
そして、
表には出すことのできぬ存在であった、小津いろは。暴走し、相手を焼死させるほどにまでなってしまった。すべてが彼女のせいであるとは言えない。彼女を裏で操っていた人間が悪いのだ。
ただ、数日後の新聞の片隅にN県を流れる川にひとりの女性の死体が浮かんだといったニュースが書かれていた。そのニュースについては詳細は書かれておらず、続報も載ることはなかった。
【焔の女:完】
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