焔の女(10)
「あんた、トンデモないのを相手にしているようだな」
「と、いいますと」
「相手はひとりじゃないよ、組織だ」
「組織?」
「ああ。彼らの言い方だと
その言葉に一緒にいた片倉の顔色が変わった。
どうやら、片倉は組合とやらの存在を知っているようだ。
「なんなんですか、その組合ってやつは」
「そのままだよ。異能者の集まりだ。異能者組合とでも呼ぶべきかな」
警察庁以外にも久我たちのような異能者を集める組織があったなんて初耳だった。しかも、そのことを片倉は知っていたようだ。この男、何かを隠している。本当に信用して大丈夫なのか。久我は片倉のことを見ながら、そう思った。
「N県警は、そういった組織のことは把握しているのか」
「しているはずだ。管轄は刑事部ではなく、公安部のはずだがな」
「なるほど」
それを聞いて、久我の頭の中でパズルのピースがはまった。なぜ、同僚の
「それで、先生は組合員ではないのか」
久我は老医師に問う。
「バカ言っちゃいけないよ。あんな組合なんかに入るわけがないだろう。あれはちょっとしたカルトみたいなもんだよ。わしはどちらかといえば、異能者であることを隠して生きてきた。別に異能者の権利などは求めたりはしておらん」
老医師の口ぶりからすると、組合とやらは何やら思想的なものも持ち合わせた集団のように思えた。
「それで、私の火傷もその組合の連中の仕業だというのですか」
「おそらくな。その黒い痣のようなものは、何年か前にも見たことがある。組合の中にそういった異能を使うやつがいたはずだ」
「それで、先生はこれを治せますか」
「無理だ。異能者の能力に蝕まれたものは、その異能者にしか解くことはできん。わしが出来るのは火傷の治療くらいだ」
「そうですか……。もし、先生がその異能者について心当たりがあるようでしたら、教えてはもらえませんか」
「わからんこともないが……」
そういって、老医師はちらりと片倉の方を見た。
片倉は無言のままで、表情一つ変えることはなかった。
「ちょっと待て」
そう言って老医師は一冊のファイルブックを机の引き出しから取り出した。
そして指先を舐めるようにしてから、ファイルブックのページをめくっていく。
ファイルブックの中身は新聞記事の切り抜きだった。
「えーと、どれだったかな。ああ、これか」
独り言をつぶやきながらページをめくり、老医師はその中から一枚の名刺を取り出した。
日に焼けて少し黄ばんでしまっている名刺。その名刺は、県議会議員の肩書きを持つ人物のものだった。
「この男に会うといい。きっと力になってくれるはずだ。な、片倉」
「え、ええ」
どこか動揺したような様子で片倉は答えると、まいったなという表情を浮かべていた。
久我は老医師に礼を言って、窓口で火傷の治療費を払ってから片倉の車へと戻った。
「どういうことだ。あんた、何を知っている」
久我は車に乗るなり、片倉に言った。
「何も知らないさ。ただ、その名刺の人物については知っているが」
「知り合いなのか」
「まあ、知り合い……だったと言ったほうがいいかもしれないな。元県議会議員。俺が収賄容疑で逮捕した人物だ」
「なるほどな。じゃあ、その人物のところへ私を連れて行ってくれ」
「協力してくれるかどうかはわからないぞ」
「そうだな。だが、会う価値はあるだろ」
面倒なことに首を突っ込んでしまったものだ。ハンドルを握る片倉の顔にはそう書かれていた。
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