消えた警官(10)
駅前にある喫茶店がいい。
そう提案してきたのは姫野だった。県警本部から少し離れており、ゆっくりと話ができる半個室のある喫茶店だということで、その喫茶店で話を聞くことにした。
喫茶店に呼び出したのは、N県警刑事部捜査二課の
姫野の話によれば、只見は片倉とは警察学校からの同期生であり、捜査二課に配属となった時期もほぼ同時期であったことから仲が良く、プライベートでもふたりで出掛けたりしているという話を聞いたことがあるとのことだった。
「私も暇ではないので、手短に終わらせてもらえると助かります」
只見は開口一番にそう言うと、仏頂面でシートに腰をおろして、ホットコーヒーを注文した。
面長で頑固そうなへの字口をした只見の顔は、どことなく魚を思わせるような顔だと思いながら、久我は自分の名刺を只見に差し出した。
「なるほど、あんたが噂の特別捜査官ってやつか」
「噂になっていますか、私」
「まあ、な」
「ちなみにどんな噂ですかね」
「まあ、色々だよ」
「そうなんですね。噂になっているのか……」
久我は自分の噂が気になるようで、何やらブツブツと独り言をいいはじめていた。
さっさと本題に入れ、只見はそう言わんばかりの視線を姫野に送る。
その視線に気づいた姫野は頷くと、只見への質問をはじめた。
「本日、只見警部補に来ていただいたのは、片倉警部補の件についてです」
「先に言っておくけど、俺は何も知らないよ。確かにあいつとは仲は良かったが、今回のことは何も知らない」
きっぱりとした口調で只見はいう。
そんな只見に対して、久我が質問をぶつけた。
「今回の件について、只見さんはどの程度知っているんですか」
「どの程度って、片倉のやつが1000万持ち逃げしたっていうことぐらいしか知らないよ」
「その1000万の出所は、知らないと」
「ああ、知らないけれど」
その只見の言葉に、久我と姫野はちらりと目を合わせた。
どうやら、捜査二課の刑事たちには正確な情報は出回っていないようだ。只見も知っていることは、あくまで噂レベルのことなのだろう。
「なんだよ。何か知っているのか、あんたらは」
「いえ。残念ながら、我々も1000万円の出所はわかりません。片倉さんが1000万円を持って姿を消してしまったということしかわかっていないんです」
「そうか。あんたらも大変だな」
同情した様子で只見は言うと、ホットコーヒーをひと口飲む。
「ところで、只見さんは片倉さんの自宅へは行かれたことありますか」
「いわれてみれば、行ったことは無いかもしれないな。あいつは、ずっと独身寮に住んでいたし」
「そうですか。では、マンションに住むようになったのは最近のことで?」
「うーん、どうだろうな。正直、覚えていないな。その辺は刑事庶務課に行けば、記録で残っているんじゃないのか」
「わかりました、ありがとうございます」
久我はそういうと、伝票を掴んで席を立った。
「あ、そうだ。もし片倉が見つかったら、俺にも教えてくれないか。あいつには50万貸しているんだ。もしあいつが刑務所に入るようなことになるのであれば、その前に回収しなきゃならん」
笑いながら只見は言ったが、その眼は決して笑ってはいなかった。
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