消えた警官(2)
パンケーキを食べたあとも、久我はしばらく喫茶店にいた。
ブレンドコーヒーのおかわりを注文し、喫茶店に置かれていたその日の朝刊を手に取る。
社会面のページを開くと、探していた記事をみつけることができた。
『水死体で発見された身元不明の女性。殺人容疑で暴力団関係者を逮捕』
見出しにはそう書かれている。
記事によればN県警捜査本部が、S市に拠点を置く暴力団組織の組員ふたりを殺人と死体遺棄の容疑で逮捕したとのことだった。
容疑者の顔写真などは載っていなかったため、久我が見た連中であるかはわからなかったが、事件は解決に向かって動いているようだ。
記事に目を通していると、スマートフォンがテーブルの上で震えた。
席を立ちあがった久我は、青年に断りを入れてから、店の外に出ると通話ボタンを押した。
「はい、久我です」
「仕事中だった?」
「いえ。まだですが」
「それならよかった」
電話を掛けてきたのは、同僚だった。
警察庁特別捜査官。それが久我の肩書きである。警察庁特別捜査官は、警察事件に関係するすべての捜査に対する捜査権限を与えている捜査官であり、階級は無く、あるのは特別捜査官の肩書きのみであった。
電話の相手である
「なにか、ありましたか」
「ううん。ちょっと総くんの声が聞きたくなっちゃって」
「…………」
「総くんがN県に行っちゃってから、わたしひとりで寂しいの」
甘えた声でささやくように、相馬美玖はいう。
「もう、電話切ってもいいですか」
「ちょっと! 少しは乗ってくれてもいいじゃないの」
「暇なんですか、相馬上級特別捜査官」
「忙しいわよ。あんたがいない分、全部わたしに仕事がまわってくるから」
「じゃあ、早く仕事の話をしてください」
「わかったわよ。堅物なんだから」
相馬は舌打ち混じりにいうと、ようやく本題に入ってきた。
相馬上級特別捜査官によれば、N県警本部刑事部より新たな仕事の依頼が警察庁に寄せられたとのことだった。
どうやらトップシークレットの案件であり、直接N県警刑事部長である
「わかりました、妻夫木刑事部長を訪ねます。それと、私はいつまでN県にいればよろしいのでしょうか」
「うーん、いつまでだろ。それはわたしも知らない。一応、長官に聞いてみるわ」
「お願いします」
相馬のいう長官というのは、警察庁長官のことだった。
久我たち警察庁特別捜査官は、警察庁長官直属の捜査官である。警察組織のトップである警察庁長官直属という立場は、すべての事件に対する捜査権限を持つ存在でもある。
そして、今回のように各都道府県の県警から事件の捜査協力を求められることも少なくはなかった。
「じゃあ、N県警の方、お願いね」
そういって相馬は電話を切った。
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