第8話 全ての謎に

——やり残した事があるわ


都市に戻ったレベッカは、目的の場所へと向かう。

夜の帳が下りた大通りは、人通りも少なくなっていた。

 

そんな中、少女は真っ直ぐに目的地へと進んでいく。

そして、ある建物の前で足を止めたのだ。


——知りたいの


人々から神殿と呼ばれて親しまれている建造物である。

その入口にある扉を押す。


——ギィィィ


そんな軋み音が響き渡る中、ゆっくりと開いた隙間から内部を覗き込む。

そこは静寂に包まれ、人の気配は全く感じられなかった。

 

足を進めると奥へと進んで行く。

何もない空間だった。

ただ祭壇だけが鎮座しているだけだ。


「…何もないの?」


拍子抜けといった様子で周囲を見渡す。


「…怪しいのは、これだけ」


レベッカの視線は祭壇に注がれる。

迷宮都市で培った感が、彼女の体を動かした。


祭壇に手をつけると体重を乗せ、一気に踏み込む。


——ガコンッ


そんな音が響いた瞬間、床が大きく揺れ動いたのだ。

どうやら隠し通路があったらしい。


「…当たりね」


地下に伸びるように垂直な穴が現れたのだ。


「…光よ」


光球を作り出すと、周囲を明るく照らし出す。

そして、取手に手をかけると一歩ずつ降りていくのだった。


しばらくすると、長い階段が終わりを告げる。

地に足をつけて、周囲を見渡した。


そこは広い部屋になっており、何かが規則正しく並んでいた。

薄暗くて全容はわからないが、その一つを照らす。


「…棺?」


それは巨大な箱であった。

人が入るような大きさである。


「…まさかね」


大量に並ぶ棺を眺めながら、嫌な予感を覚える。

だが、彼女の好奇心は棺に手を伸ばさせていた。

 

鍵はついておらず、簡単に蓋を開く事ができる。

その中にあった物を見て、レベッカは思わず息を飲んだ。


それは見慣れた姿だ。


白銀の髪に白い肌の少女。

そこに横たわっていたのは勇者だった。

 

恐る恐る手を伸ばし、頬に触れてみる。

ひんやりとした冷たい感触が指先に伝わる。


他の棺も開けてみた。


「…嘘」


同じように眠る者の姿があったのだ。

全員が同じ容姿をしているのだ。


予想は出来たが、信じられない光景に言葉を失ってしまう。


「…ッ!?」

 

その時、光が差し込んだ。

天井の一部が開き、そこから月の光が差し込んだのだ。


暗闇に慣れてしまった目には眩しく映る。

同時に手にかけていた棺が浮かび上がった。


「えっ!?」


不思議な力が開いた天井に向かって、レベッカの体を押し上げる。

抗えない力により、あっという間に神殿の中に放り出されてしまった。


宙に浮いていた棺はゆっくりと地面に置かれる。


「……」


そして、少しの静寂の中、棺が開く音が鳴り響いた。

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