第6話 騎士が告げるのは…

そこは場末の酒場


赤髪の少女は一人で酒を楽しんでいた。

目の前に置かれた酒杯を手にすると一気に飲み干す。


「ふぅ」

 

アルコールが体に染み渡る感覚を楽しむと、空になったグラスを置く。


「…困りますな」


そんな場末の酒場に相応しくない姿が、彼女の横に立つ。

いつもの少女ではなく、彼女に銅の剣を渡す騎士であった。


二人を引き合わせた騎士は小さく息を吐く。


「…なんの事かしら?」

「勇者様に余計な事はしないで頂きたい」


騎士の言葉を聞いた彼女は鼻で笑った。


「あの子、何も感じないのよ」


空になったグラスを寂しそう見つめる。

その瞳はどこか悲しげだ。


「依頼は勇者様のサポートです」


そう言って騎士は銀貨を置く。


「…してるわ」

「喫茶店に温泉ですか」

「…よく見てるのね」

「狭い国ですから」

 

そこで騎士は初めて笑みを浮かべる。

その表情は笑顔と呼ぶには程遠かった。


「…彼女は何?」

「勇者様です、我らの希望なのです」

 

その言葉を聞いた瞬間、レベッカの瞳が鋭さを増す。

だが、それも一瞬の事だった。

騎士の表情に他意が感じられなかったのだ。


「…あんな安物の武器しか与えなくて、希望ね」

「相応しい時期に宝物が授けられるのです」

「…へぇ」

 

レベッカは興味なさげに相槌を打つと、再び酒を注文するのだった。

 

「ねぇ、なんであたしに依頼したの?」

 

それは何気ない質問だった。


「…ただの偶然です」

「ああ、そう」


レベッカは特に気にした様子もなく返事をする。

二人は無言のまま時間だけが過ぎていった。

やがて店内から人の姿が消える。


「まだ何かあるの?」

「…勇者様のサポートに専念して下さい」

「…理由が聞きたいわ」

 

その問いかけに沈黙が訪れる。

そして、諦めたように口を開いた。


「濃霧の先、西の大地にゴブリンエルフが現れました」

「…ゴブリンエルフ?」


聞いた事もない魔物の名前に、思わず聞き返してしまう。


「…私が言えるのは、それだけです」

 

そう言うと、店を後にするのだった。

残されたレベッカは静かに目を閉じる。

瞼の裏に焼き付いた白銀の少女の姿。


「…西の大地ねぇ」


繋がらないパズルのピースを思い浮かべながら、小さく呟くのだった。

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