第2話 レベッカとの出会い

冒険者の酒場


そこは、荒くれ者の集まる場所である。

昼間から酒をあおり、酔い潰れている者も少なくない。

そんな店内に似つかわしくない白銀の少女がいた。


——勇者様、仲間を募集されてはいかがでしょうか?


何度も死に戻る少女に、騎士は提案する。

彼女は言われるがまま、酒場に訪れていた。


「あたしは剣も魔法もいけるよ」


目前には騎士が仲介に入った赤髪の少女が座っている。

名はレベッカ。


内心は別にして、飲み物にも手をつけない寡黙な少女に自分を売り込んでいた。

だが、勇者は黙ったまま何も答えない。


「ねぇ聞いてるの?」


痺れを切らしたレベッカは、不満げに問いかける。

その言葉に小さく頷く。


「なら、パーティでいいかしら?」


また小さく頷いた。


レベッカは呆れた表情を浮かべながらも、無表情な勇者と共に都市の外へ向かう。

騎士から銀貨を握らされているのだ。


「あのさ、話もできないんじゃ連携も取れないんだけど…」

「…斬るだけ」


白銀の少女は初めて口を開くと、それだけ答えた。

あまりにも短い言葉に、レベッカは思わず頭を抱える。


やがて、草原を歩いていれば角を生やした兎と接敵する。

勇者は躊躇なく斬りかかると、一撃で絶命させた。


「腕は悪くないんだね」


その言葉に答えることもなく、勇者は歩みを進める。

この大陸は、獲物に困る事はないのだ。

 

すぐに巨大な猪の魔物が目に入る。

突進してくる魔物に対して、勇者は銅の剣を構えた。


「馬鹿!避けなよ!」


レベッカの叫び声と同時に、少女は正面から魔物の突撃を受ける。

そのまま後方へ吹き飛ばされると、大木に打ち付けられた。

 

衝撃でふらつく中、再び魔物が向ってくる。


「クソッ!」


レベッカの叫びも虚しく、次の瞬間には少女の体を鋭い牙が貫く。

鮮血が舞い散る中、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。


「この野郎!」


レベッカは炎を剣に纏わせると、動きを止めた猪の魔物に向かって駆け出す。

そのまま勢いに任せ、魔物の心臓を貫くと剣を引き抜いた。

 

力なく倒れる魔物の体を飛び越え、横たわる少女の元に向かう。

血塗れた体はピクリとも動かない。


「…あんた」


そこで言葉が止まった。

細い身体に明らかに致命傷とわかる穴が空いているのだ。


「…教会で待つ」

「…え?何言ってるの?」


虚ろな目でそう呟くと、勇者はゆっくりと瞳を閉じた。


——おお勇者よ、死んでしまうとは情けない



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