第3話 繰り返す日常

人であったモノが燃える。

横には猪の魔物の巨体が横たわっていた。


「…短すぎる付き合いだったね」


赤髪の少女は、魔石を抜き取ると少女の亡骸に火を放ったのだ。

綺麗な死体は魔物に変化する事があるのだ。


——教会で待つ


彼女の最後の言葉が頭を過る。

レベッカはこの都市の生まれではなかった。


迷宮都市と呼ばれる場所から、根無草のように旅を続けていたのだ。


そして、不思議な少女と出会った。

感情の欠片も見せない彼女は、何を求めて剣を握っていたのだろうか。

それを知りたいと思うのは自然な事だった。


最後の言葉に導かれるように、都市に戻ると中央広場へと向かった。

空を見上げれば、薄暗くなり始めていた。

 

「…なに?」


そして、教会のような建物の最上部が輝き始める。

それは次第に眩い光を放ち始めた。


周囲の人々はそれを見ると、ひざまづき祈り始める。

やがて輝きが消えると、人々は何事もなかったかのように日常に戻っていった。


「なんだったの?」


——ギィィィ


扉が開く音がする。

中から現れたのは、死んだはずの少女だった。

その表情は相変わらずの無表情だ。


「……」


レベッカの頭は混乱していた。

そんな思いを無視して、少女は彼女の前で立ち止まる。


「……」

「…はは」


確かに自分が焼いたはずなのだ。

それなのに目の前にいることに、笑いが込み上げてくる。


すると、少女は首を傾げる。


「ううん、なんでもないよ」


誤魔化すように笑うと、手を差し出す。

その手を見つめると、彼女はそっと握り返した。


このイカれた大陸では、こんな事もあると受け入れるしかないのだ。

少なくともレベッカが生まれ育った迷宮都市ではそうだったのだから。


白銀の少女は足を進める。


「ねぇどこに行くの?」

「…外」


足を止めると、短く答える。


「もう日が暮れる…死ぬよ」

「…問題ない」


レベッカは頭を掻いてため息を吐く。


「おお!勇者様、目覚めましたか!」


そこに銅の剣を携えた騎士が現れた。

彼は嬉しそうに笑顔を浮かべていた。


「……」


相変わらず感情の読めない表情で、銅の剣を受け取る。

レベッカはその異様な光景に、言葉を無くすしかなかった。


日が暮れる中、一人旅立つ少女。


——おお勇者よ、死んでしまうとは情けない

 

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