6問目  慣れ

 その日以来、二人は関わらなかった。絶交してからしばらくの間、二人は取り繕ってはいたものの、元気がないことは周りから見て明らかだった。それでも月日が経つうちに、派閥活動を続けていくうちにその寂しさに慣れ始め、一年生が終わりを告げる頃には互いに互いの派閥に集中できるようになった。

「髪を伸ばす?」

「あぁ、願掛けだ!」

桃太郎は腰に手を当てて頷いた。無所属発言をしてから何度も絡まれた二人は以前よりは逞しくなり、喧嘩の勝率も上がってきていた。

「何の願掛け?」

「白雪さんが俺を見てくれる願掛け!親太郎もどうだ?一緒に伸ばさないか?」

「何で俺まで」

「一人でやってもいいのだが、何というか途中でめげそうな気がするんだ。気持ちがなくなるんじゃなくて、長髪にするのが初めてだから」

 桃太郎の話を聞きながら親太郎は考えた。願掛けで髪を伸ばす。伸ばした髪に願いを込める。

「わかった。伸ばすよ」

 頷く親太郎に桃太郎は顔を明るくした。こうして、二人が髪を伸ばし始めたことで、ナイトは長髪になると後輩が勘違いし、フェアリーテイルの男子生徒の殆どは長髪になってしまった。



 カメレオンではリーダーによる次のリーダーが発表されていた。

「私達は今年で卒業となります。皆、今までありがとう」

 美黒が微笑むと、カメレオンから惜しむ声が溢れた。

「今までウチらはリーダーであり、ナンバー2であり続けた。この経験は忘れないよ」

 木ノ爬はやり切ったように微笑んだ。前代未聞のリーダーとナンバー2を決めることなく、どちらの立場も二人で担う。双子の彼女らにしかできないことだった。

「次のリーダーだけど、もう予想はついているわよね。でも、きっと私達みたいにやってくれるわ」

「リーダーは我らが妹、彩だ」

 木ノ爬に押され、彩はカメレオンの前に立った。そんな彩にカメレオンは拍手を送った。一年間、彩はリーダーになるべく、南家の伝統を壊さないために努力を惜しまなかった。冬になる頃には双子の姉を苦戦させるほど強くなっていた。

「姉二人のようなリーダーになることを、いいえ、姉二人を超えるようなリーダーになってみせます」

 彩は堂々とそう宣言した。



 彩が二年生になった時、絶叫学園第一高等学校の派閥が大きく変わった。サラマンダーは所属していた竜による謀反により、サラマンダーから覇王竜組へ変わった。さらに、三年生がリーダーとナンバー2を務めていたヤエムグラを芹と南輝が、ダークハロウィンを桃太郎と親太郎が倒し、新派閥カリフラワーとフェアリーテイルが誕生した。カメレオン以外の派閥総入れ替え、しかもリーダーは二年生ということでカメレオン以外に所属していた生徒達は所属する派閥を見直し始めた。無所属ということで反感を買っていたフェアリーテイルは逞しくなったナイト二人への憧れから男女問わず多くの生徒が所属した。彩は新入生としてカメレオンに入った四郎をナンバー2補佐とし、他の派閥の勢いに流されることなく、カメレオンらしさである自由と強さを守って派閥を引っ張っていった。地元のヤンキー討伐、おやじ狩りの犯人捜しという課題もこなしていた。しかし、リーダー課題は彩にとってストレスだった。

「私、暴力とか嫌いなの」

 真っ赤なリンゴをつけたネイルを眺めながら言った白雪に彩は殴り掛かりそうになった。そんな彩を芹は慌てて止めた。

「落ち着け落ち着け、ここで争ってはいかんって」

「南の気持ちもわかるぜ。俺だってむかつくわ」

 竜は舌打ちをしながら鏡で自分の顔を見ている白雪を睨んだ。リーダー課題を終えるための会議なのに白雪はいつも真面目に取り組まない。リーダーだが、側近ナイトの桃太郎と親太郎が戦うため、白雪には戦闘能力がない。そのため、リーダー課題では参加はするものの、戦おうとはしなかった。

「ふざけんじゃないわよ、リーダーの座にいるなら戦いなさいよ」

 彩も睨むが、白雪は知らん顔で髪の毛をいじり始めた。

「てめぇが何でリーダーなのか、理解できねぇぜ。和田とか指元の方が強いのによぉ。アイツらと戦いてぇよ」

 竜はつまらなさそうに呟いた。もう、白雪を責めるのを諦めたようだ。しかし、彩の怒りは収まらない。

「本当にむかつく」

 やる気のない白雪も、そんな白雪の下につく親太郎も、こんな白雪に負けた自分も、全てに腹が立った。

「もう言うだけ無駄だぞ。俺らで何とかしよう」

 穏便に済ませようと説得する芹に彩は渋々頷くことしかできなかった。

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